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今頃になって


「おお、順調の様ですな」


 男性が戻ってきた時、僕は五つ目の竈の前でしゃがみ込んで火の番をしていた。


「ええ、まぁ」


 言葉を濁してそう応じたのは、最初の竈を完成させるべく平たい石を探した時に難航して少し時間を要したからだ。その反省を踏まえ、追加で必要になる平たい石を優先して探しておいたことで効率アップにつながり、今がある訳だが。


「とりあえず私の方は食料と寝袋、恩人殿がごみの処分を終えるまでここで付き合えるくらいの準備はしてきましたぞ」

「あれ? 旅支度じゃ?」


 僕としてはこの男性が街の方に去ったのはその為だと思っていたのだが、問うとバツの悪そうな顔で実はと切り出した。


「目的地について伺っていないことを街の中に入ってから思い出しましてな」

「あぁ」

「そも、よくよく考えてみれば、お互い名前を名乗ってもおりませんでしたし」


 言われて納得したところで、更に指摘された僕は、無言ではたと膝を打った。


「確かに――」


 名前を名乗り合っていればこの男性についても「あの男性」なんて言い方をせずに済んでいただろう。


「では私から、先ほどは助けていただきありがとうございました。改めて、私の名はムレイフと申します。家名の方は、先にお話した通り死んだことにしましたのでな。今はございません」

「えっと、どうもご丁寧に。僕はヴァルク。僕も追放された身の上ですし、家名は名乗れませんから省略させていただきますね。以後、よろしくお願いします」


 今後この人ことムレイフさんとどういう付き合いになってゆくかはわからないが、現状では頼れる人ができたのはありがたい。僕は宿に取りに行かなくてはいけないものがあったのだから。


「なる程、ヴァルク殿ですな。恩人であることを加味すれば、ヴァルク様でもよろしいですが――」

「呼び捨てでも構いませんよ。付与者のムレイフさんと技能なしの僕では、どう見てもこっちの方が役立たずですし」

「いえいえ、そんなことはありませんぞ」


 自嘲気味に言えば大げさに否定してくれたムレイフさんだが、技能を大っぴらにできない以上、価値で言うなら僕はムレイフさんに遠く及ばず。


「ぎゃあああああっ」


 この直後であった、断末魔の叫びが上がったのは。



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