いずれにしても
「さてと」
街の方へ去っていった男性を見送った僕は、まず場所の選定を始めた。
「いずれにしても、紙屑は処分しないといけませんでしたし――」
公爵の暗殺阻止のために使えそうなモノを取り出す前準備ではあったが、旅に出るにしても街に戻るにしても、嵩張る紙屑はそのままにしておけない。
「下手すると僕が下準備終えるよりあの人が戻ってくる方が早かったり?」
周囲への延焼を防ぐための除草と、同じ理由でのかまど作り。かまどの材料の石は川辺にあるし、後は作業するだけではあるのだが。
「作業量はどうにもできませんからね」
一人でこなすとなると、半日かかっても僕は驚かない。草をむしる範囲次第ではもっとかかることだって大いにありうる。
「手間を惜しんで火事になったら笑えませんけれど、手間をかけすぎて終わらないのも問題ですよね」
難しいところだ。
「難しいと言えば、あの男性のことも」
命を助けた相手で、対外的に死を装った人物でもある。つまり、ある種の弱みを握ってはいるのだが、だからといって全てを話す気にはとてもなれない。
「それでも暗殺のことを話したのは、あの人の弱みを一つ握ってるからですけど」
持っていた付与品が必要だったということもある。だが、臆病な僕は安心する要素が無ければきっと打ち明けることもできなかった。
「っ、やめやめ。手を止めて考えてる余裕なんてないんですから」
僕は頭を振ると、歩き始めた。そして。
「距離からしても、この辺りがベストですね」
紙屑を燃やす場所を定めたのは、暫くの後のこと。以前草むしりをした経験もモノを言った。
「この草は根が短くて比較的抜き易かった筈。いや、根っこが残ってても、根っこから上の部分さえなければ延焼もしないのかもしれませんけど」
抜きやすい草が多いというのは、作業の量を考えると魅力的であり。
「目印があった方が良いですし、とりあえず石を幾つか持ってきますか」
燃やす予定の紙屑を丸めて放り出し、仮の目印にすると、僕は川辺の方へと向かうのだった。