変化
「いやはや、とんでもないお話ですな。そう言った事情であれば、言い淀むのももっともなお話です」
お譲りしましょう、と話を聞き終えた男性は言った。
「私はこうして生きております。友ともいずれどこかで会えるかもしれませんが――」
公爵は命を失うかもしれない状況に置かれている。
「しかし、驚きましたぞ。縁の手紙が使えるということは、公爵と親しいか縁戚関係があるということなのですからな」
「う、も、元ですよ……元貴族」
手紙を使うと言う形で説明してしまった以上、僕が実家から追放された元貴族であることは、避けて通れなかった。だが、これでよかったような気もする。
「いずれにしても、うまく行けば公爵を暗殺から守れますし」
それによって救われる人々もいるだろう。
「それで、あなたは暗殺を防いだ功績で実家にお戻りに?」
「いえ。全く未練がないという訳ではありませんけど、戻るつもりはありません」
未練と呼べるのは、家庭教師の先生と護身術の師、二人に恩を返す機会が遠ざかることと、ミリティアに逢えるかもしれない機会を自分からふいにすることぐらいだ。
「では、どうされるおつもりですかな?」
「そうですね……自分のところで働かないかととある飲食店で声をかけてはいただいているのですけれど」
気になることがあるとしたら、盗賊ギルドだ。このまま僕に何もしてこないとは、ちょっと思いづらい。
「旅に、出てみるのも良いかもしれませんね」
暗殺を防いだ功績で、あの女の子の面倒を見てもらうよう願えば、僕をこの街に止める理由の一つが減る。飲食店の主人に詫びの手紙を出し、街を出れば流石にあの盗賊ギルドから追手の様なモノがかかることはないだろう。
「旅、ですか。なるほど」
ただ、今の僕は人目があって技能を使えない以上、並み以下の日雇い労働者にしか過ぎない。今相づちを打つ男性とは違うのだ。
「ならば、ご一緒させていただきましょう。なに、恩返しもまだですからな。それに私も目的のない身。一人より二人の方ができることも多いですぞ」
人目があることで僕は技能を使えなくなるんですが、とは言えない。ただ。
「そうと決まれば、準備も必要ですな。その前にあなたは頼まれたごみの処分でしたか」
張りきり出した男性の様子にどこかほっとする自分が居て。
「はて? どうかされましたか?」
「いいえ。仰る通りですね」
男性の言葉を肯定した僕は、紙屑を焼却する場所を整えるために動き出すのだった。