譲ってくれと頼む
「へ?」
考えなしだったかもしれない。だが、目の前にピンポイントで問題を解決できるかもしれない品が出てきたのだ。
「これが欲しい、ですか。ほかならぬ命の恩人の望み、構いませんと言いたいところですが――」
この男性にとっても、その付与品は重要なモノなのだろう。自分の死を偽装した後の友人への連絡手段として用意していたのだ。
「ですよね」
僕に譲れば連絡手段が失われるのだ、渋るのは解かる。
「現状で僕とこの男性が面識があるとしるのはお互いのみ」
それを利用して僕がこの男性のメッセンジャーとなり伝言を運ぶということで付与品を譲ってもらってはどうかと思いつくが、僕がこの男性のメッセンジャーと信用してもらえるかどうかと言うこともあるが、付与品の方は誰も介さず目的の人物に伝言を伝えると極めて隠密性、隠ぺい性が高い伝達法だ。面識がないとはいっても人が尋ねていった事実が残る僕の伝言より優秀なのは明らかであり。
「ああ、誤解しないでいただきたい。お譲りしないと言っているわけではないのです。出来れば、理由をお聞かせ願えませんかな?」
「え」
男性にとっては妥協であり善意なのだろう。半ばあきらめかけていた僕としても嬉しくはあるのだが、理由を話せとなると微妙になる。
「うーん」
フロント公爵の暗殺計画を防ぐためと明かしてしまえば、理由は納得してもらえるだろうが、なぜその暗殺計画を知ったのかという話になる。かと言って嘘の理由をでっち上げた場合、それはそれでリスクがある。付与品を使うところを見せてくださいと言われたなら、理由を偽るのは厳しい。使用済みの同じ付与品もあるが、すり替えて誤魔化すのも厳しいだろう。
「何か問題でも?」
「あ、え、ええ。問題と言うか……流石にこんな場所で聞き耳を立てている人もいないでしょうが――」
迷ったあげく、僕は正直に目的だけは話すことにした。
「こっ、公爵の暗んぐぅ」
「声が大きいです! 屋外なんですから!」
慌てて口をふさぐことになったが、ことがことだ。驚くのは仕方ない。
「僕が渋る理由はお分かりいただけましたか? ことがことですし、この情報を寄せてくださった方に危害が及ぶと拙いので、色々話せないことが多いんです」
聞かれて拙い場所を躱す予防線としてはこんなところだろうか。賽は投げられた。僕は男性に説明を続けるのだった。