交渉?
「もっとも、一度火を熾したぐらいでは恩返しにはとてもなりません。そこで提案があるのですが」
何も聞かずお断りしますと言うべきか悩んでしまったのは、やはりリスクを恐れてのことだと思う。
「私は一度お話いただいた街の方に赴き、準備をしてからここに戻ってきます。ですからその時は、私ににあなたのお手伝いをさせていただけませんかな?」
「お手伝い、ですか」
「ええ」
結局言い出せずに聞いてしまって、一つの単語を反芻する僕に男性は頷き。
「その、お手伝いすると言われても……僕、ただ燃えるごみの処分を頼まれて、『周りの迷惑にならない場所で燃やそう』ってここに来ただけなんですよね」
僕は困惑した表情で、嘘を交えた目的を明かす。
「え、ごみ?」
「はい。申し出はありがたいんですけど、ただのごみ焼却のお手伝いに付与者って人材の無駄遣いですよね? ごみを燃やすことを考えると相性はいいんでしょうけれど」
ぶっちゃけ、そこまでの力は必要ありませんよ、と言う訳だ。僕の技能を探るために手の込んだ仕込みをして接触してきた人物とかひねくれた見方をしてこの男性を疑うつもりはないが、知らない人を側に置くことは今の僕には躊躇われた。この人に公爵へ伝言する伝手とかコネでもあれば話は違ってくるかもしれないが。
「む、むぅ……確かに過剰かもしれませんな。ですが、お礼をしないという訳にもいきません」
「お気持ちは嬉しいんですけど」
「で、では、人脈はどうですかな? 一応、私は死んだことになったはずですが、私が心許す友には生存を伝えようと、失礼」
断ろうとする僕にさらに言い募った男性は、懐に手を突っ込み。
「あった、良かった、これは無事だったようですな。こうして私の付与品と交換で手に入れたこの『縁の手紙』に宛名とことの仔細を書き連」
「それください!」
取りだされたモノの厳重にくるまれていた封印が解かれ、出てきた見覚えのあるモノに僕は思わず食い付いていた。