話を聞いて
「と言うことは、貴族の?」
技能持ちとなれば、一部の例外を除きだいたいが貴族だ。僕も実家を追放されなければ貴族であったわけだし。
「一応、そう言うことになりますな。庶子ですが」
「あー」
庶子、つまり正式な妻以外との間に生まれた子供。なら、技能持ちであっても納得は行くし一応とつけた理由もわかる。
「非嫡出子だが、技能持ちだし貴族の一員としてやろう感謝するがいい」
とか、そんな感じで貴族扱いされてる立場の人なんだろう。僕とは立ち位置的に真逆だ。
「それで、そんな人がどうして川でおぼれたりなんかしてたんですか?」
とは、僕は聞かない。愛人とかお妾さん、場合によっては下働きの女性などとの間に生まれた子供ともなれば、正妻やその子供に疎まれただとか憎まれただとかで嫌がらせを受けただの殺されそうになっただのという話は時々あるのだ。
「下手に突っ込んで聞いて関われば、巻き込まれるのは必至」
だが僕にはまだ身を守る術がないし、関わってる余裕もない。付与技能持ちのお礼と言うのは魅力的だが、それで縁ができてしまうと、火の粉がこっちに振りかかってくる可能性もある。
「大変な身の上なんですね、どうぞご自愛を」
おおよそ察して、ここでさよなら。きっとこれが正しい選択に違いない。
「ああ、違います。少し待ってください」
だと思ったのに、男性は僕の服をつかんで呼び止め。
「その反応、貴族か貴族にゆかりのある方とお見受けします。ですが、大丈夫。その為に私はあそこにいたのですから」
「は?」
意味が不明で僕があっけにとられたところで、男性は説明を始めた。男性の名はライド、僕が関わり合いになりたくなさそうな様子を見せたので、実父の名は伏せたが、予想したように父の妻に疎まれ、身の危険を感じる日々を送っていたらしい。
「このままでは拙いと思って一計を案じましてな。船から転落して溺死したことにして目を欺き、自由の身になる筈だったんです」
「え゛」
つまりこの男性は船から落とされて暗殺されかけたとかではなく、事故に見せかけて自分の死を装おうとして溺れたということか。
「策士策に溺れるとはこの事ですな。本当に溺れたわけですが。はっはっは」
「えっと」
いったいどの辺りからツッコミを入れるべきか。はっはっはじゃありませんよと思いつつ、僕の口元は完全に引きつっていた。