壁の終わり、場所を探し
「ようやくたどり着きましたね」
隣にあった壁が途切れ角になった部分と別れて暫し。念の為に水場に寄っておきますかとやや西側に進路をとりながらさらに進み。
「葉っぱも虫が食った様子はありませんし、虫よけの付与品もありますから大丈夫なはず」
偶々通りかかった大きめの立ち木に僕は手をかけた。
「草で見通しが悪いなら、高所に登ればいい。ただそれだけのことなんですけどね」
最初は本を出して足場にとも考えたが、壁の上に見張りの兵士が居て見つかりでもしたら拙いことになる。その点、木に登るだけなら見つかっても何の問題にもならない。
「長期滞在が前提で、僕に木工の心得でもあれば木の上に滞在用のスペースを拵えるんですが」
地面の上よりよほど安全だし、眺めも良い。
「さてと」
まぁ、ないモノねだりしていても仕方ないので、かけた手を始点に僕は木へ登り始める。
「そう言えば木登りを教えてくれたのも先生でしたね」
旅に出るなら覚えておいてそんはありませんよ、だったか。
「まさかこんな形で役に立つなん……あ、川が見える。方向はこっちで間違ってなかったみたいですね。しかし、川ですか」
ふと思う。石がゴロゴロしてる河原の様な場所があれば、草むしりの手間も要らないし、周囲へ延焼することを恐れる必要はないのではないかと。
「まぁ、その分行き交いする船から丸見えになるでしょうし、こっそり燃やすなら向いていないんですよね」
登った木の上から川が見えてしまうこの辺りであれば、河原で無くてもモノを燃やした場合立ち上る煙は見えてしまうだろうが。
「となると、炎の明かりが漏れない程度こっち側に河原から石を持ち込んでかまどを作って――」
煙が目撃されない様、夜中に燃やすのがベストか。
「まぁ、都合よく近くに河原があればのはな……あ」
草の生えて居ない岸を見つけたのは、最後まで言い終えるより早く。
「とりあえず次の目的地はあそこですね。よし」
河原を指すように伸びた枝を折り曲げて目印にしてから僕は木を降り始めた。




