技能も色々あるけれど
家庭教師の先生の様に物品などに特殊な効能などを付与する技能を総じて付与系と呼ぶ。
「付与系も様々なんですよね。先生みたいに特定の効能のみしか付与できない技能もあれば、複数の効能の中から付与する効能を選べる汎用性の広い技能もありますし」
かと思えば、単独では何もできないが、他の技能持ちと協力すれば協力者の技能に応じた効能を付与できるなんて特殊なタイプの付与技能持ちもこの世には存在する。
「そして、効能が付与された物品の中には書物や書付、紙片なんかも存在するんですよね」
理論上、僕の技能の熟練度が上昇すればその手の付与品も復元して取り出せる、と思うのだが。
「現状一度として取り出せてないということは、要求熟練度が今の僕の熟練度より高い、と」
熟練度稼ぎをサボっているつもりはない。むしろ、こうして仕事をすることすら諦めて熟練度稼ぎに時間を割いてるぐらいだ。
「そろそろ成果の一つでも出てくれないと、心が折れそうなんですが」
父についた嘘がまるで真実であるかの如く、例の暗殺指示書以降紙屑以外が取り出せることもたまにあったが。
「『とある薬剤師の作っている媚薬の副作用を消す薬の足りない材料のメモ』とか当人以外にはまるで価値がないですよね」
すべての材料が載っている訳ではないし、恐らくこの書付も材料を確保できたとかで不要になって処分したからこそ僕が復元して取り出せたのだ。となると、書いた当人にも不要のゴミと言うことになる。
「『読まずに捨てられたミレーヌ嬢宛てのラブレター』に『性的嫌がらせをしてくる店長への悪態を殴り書きして千切り取った日記のページ』かぁ」
紙屑に混じって、これを僕にどうしろとと問いたくなるようなシロモノが混じる頻度が増したことが、熟練度が上昇していることを僕に教えてくれるが、出てくるモノの酷さにとても切なくなる。
「『片思いの相手の名前が延々つづられた日記の一ページ』って、怖いわ!」
明らかに精神を病んでいそうな名前の羅列を見て、思わず壁に投げつける。
「本当に僕、何をやってるんでしょうね?」
わかっている、熟練度稼ぎだ。孤独と容赦なくボケてくる技能との戦いに、つい話し相手が欲しくなる。技能の事は伏せなければいけないのだから無理だとわかっているのに。
「やっぱり現実は物語の様にうまくは行きませんね」
読み物ならあっさり熟練度上げが終了して、ご都合主義と言わんがばかりの便利なモノを取り出して問題があっさり解決したりするのだろうが、現実は違う。
「この紙屑とゴミの山をどこかのタイミングで片付けないといけないって問題が逆に増えてますから」
先ほど投げた日記のページは壁際に離れて落ちているが、それ以外の生成物は全てベッドの脇に一時置きされて山になっていた。
「普通に考えるなら内職で作ったモノって言って運び出すんでしょうけど」
内職なら引き換えにお金が入るが、これはただのゴミ。一銭にもならないし、どこかで処分する必要もある。
「穴を掘って埋めるか、庭掃除の仕事を受けた時に集めた草や枯葉に混ぜて焼くか、ぐらいですね」
仕事はしばらく自主休業する予定だし、穴を掘ってる時間があるならもっと熟練度を稼ぎたい。
「技能が使えるレベルまで熟練度を上げられれば、状況も変わるはず」
だから、今はただ熟練度稼ぎを。たまにうっかりそのまま寝てしまったりもしたけれど、そこはご愛嬌、と思いたい。
「食事は別料金で今晩の食事は頼んでないから、従業員が呼びに来るなんてこともないし」
僕の戦いはまだ始まったばかり。モゾモゾと身じろぎすると取り出した紙屑をベッドの脇に放り投げた。