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「え?」


 古本屋を出た僕はきっと狐につままれたような表情をしていたと思う。まず間違いなく待ち伏せしていると思った女性の姿が影も形もなかったのだ。


「どういう……」


 偶然この古本屋に来ていただなんて流石に僕でも思わないが、だからこそ何の接触もしてこなかったことが不思議かつ不気味であり、本当に訳が分からなかった。


「本当に、どういうつもりなんでしょうか?」


 呟いたところで誰かが答えてくれるわけでもない。ただ謎が残るだけであり。


「まさか、それが狙い?」


 気になった僕がスラム地区に足を向けるように仕向けているのだろうか。


「確かにあの子の事は気になりますけど」


 僕は臆病者だ。あの時は追われてやむなくと言う形で逃げ込んだが、自分から危険地帯に飛び込んでゆくような度胸は皆無だ。


「二度同じ手が通用する筈もありませんし」


 足場に使った本は回収したが、痕跡が残っていなかったかまでは確認していない。


「本を置いた跡が見つかって、そこから本を足場に屋根に登ったことがバレていたら」


 盗賊と言えば、逃走だの痕跡の除去だのはまさに本職だ。痕跡が見つかってしまえば、僕がどうやって脱出したかはあっさり解かってしまうだろう。あの時はそんな余裕もなくて通ってきた場所をマジマジ見たりしなかったが、屋根を身体で雑巾がけして進んだのだ。わかりやすい痕跡が残っていても僕は驚かない。


「準備も何もなしに……と言うか、準備万全でも無事戻ってこられるか微妙なところですもんね」


 それに、少女のことがどうでもいいとかそう言う訳ではないが、追いかけっこから始まったスラム地区の脱出劇で無駄に時間を使ってしまっている。


「暗殺の方を防ぐ手立てを何か確保しないと」


 現状で思いつくのは、またあの紙人形を取り出してアドバイスを求めるというモノだが。


「いくらあの紙人形でも、この状況から暗殺阻止する方法なんてそう簡単に見つけませんよね」


 有能なのは二度助けられているから知ってはいるが、どんな不可能でも可能にするビックリ付与品と言う訳ではなく、術者の知識と知恵の範囲内で有効なアドバイスをするというのがあの付与品なのだ。


「どうやっても不可能と見て、『諦めたら?』とでもジェスチャーされたら、そこで終わってしまいそうな気もして、再び取りだすのがちょっと怖いんですけど」


 僕が思いつく中で有効そうなのは、これとただひたすら復元し取り出しまくって有効な付与品を取り出せることに賭けることの二つぐらいしかない。


「なら並行してやればいい、となるんでしょうが」


 宿の部屋に残した紙屑も処分しなければいけない今、ただ技能を使い続けて居ればいいという訳にもゆかず。そも、有効そうな付与品になりそうな最有力はとりだすのに失敗して紙屑になってしまったものの中にあると思う。


「大成功の確率を上げるには紙屑の処分が最優先」


 資金確保の方は今しがたの遭遇もあるし諦めるとしても、紙屑を運び出すための袋の購入は避けて通れない。


「技能の行使の方も紙屑を処分する場所で行えば、取り出すのに失敗したモノをそのまま火にくべられますし」


 元々人気がない場所で行う訳だから、人目を気にする必要もない。


「とまで言うと語弊がありますね。たき火自体は煙が立ち上ってある程度遠くからも見えるわけですし」


 たき火にくべる紙屑を入れた袋の中に隠すようにし、直接は見られない形で技能を使うというのが実際の行動になると思う。


「ひょっとしたら、食料とか水とか寝袋とかもいるかな? 色々用意するとなると流石にさっき売った本の代金だけでは心もとないんですけど……」


 とはいえ、やっぱりもう少し古本屋巡りしましょうなんて言う訳にも行かなかった。今度はあのギルド幹部の男の方が部下を引きつれて待ち構えて居ました、なんて可能性も0ではないのだから。


「買えるだけ買って、あとは運を天に……ですかね」


 暫く唸ってから、僕はそう独言したのだった。


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