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宿の部屋の中で


「戻ってきた」


 一言で言うなら、そうなる。


「結局袋も買ってこられませんでしたよね」


 本はお金に変えられたが、目的を果たせぬ帰還。僕を出迎えてくれたのは、物言わぬ紙屑の山だった。


「これはもう一度買い物に行くの確定ですよね」


 気は進まないが、紙屑をこのままにもしておけない。


「暗殺阻止の糸口になりそうな付与品が、まるで役に立たない品だったのはがっくり来ましたけど――」


 あの時と比べると、付与品を取り出せる確率も増えてきている。


「この紙屑だって、熟練度が足りなくて修復に失敗したモノなんですから」


 燃やすなりなんなりして一度消失させてしまえばもう一度復元することが可能になる。


「高い熟練度を必要にしたということは、付与品の混じってる可能性は高い筈」


 今の僕にすがれる希望があるとすれば、これだ。袋を買ってくれば、紙屑は外に持ちだせる。


「問題は、紙屑を処分する場所ですよね。たき火は火事の原因になりやすいですから」


 街の中で行う場合は、当然許可が必要になってくる。


「モノを燃やせば煙も立ち上りますし、人目につくとこの大量の紙屑はどうしたんだろうって思われる可能性もあるんですよね。そうなってくると無難なのは、街の外に出て燃やすってことになるんですけど」


 この街の外には、南なら街の住人を食の方面で支える麦畑が広がっている。東は木の多い茂る森で、西には豊富な水量を誇る川が平野を両断して北から南の方へと流れている。


「川の水もありますし、西が無難と言いたいところですけど」


 西の川は水運にも利用されており、それなりの数の船が行きかう。


「北しかありません、か」


 他の三方と比べて人気もなく、道がある訳でもない。西側の入り口から出て回りこまないといけない場所だが、この時期この地方の風は南から北に吹く。


「むしろ北がベストにも思えるんですけどね」


 技能書を盗んで使用した人物がこの街を去ったのが今日のことだ。追っ手を避けるため北に向かったとしたら。


「普通に考えるとすれば、一刻も早く離れようとする筈ですし、バッタリ出くわすとかはないと思いますが――」


 技能で得た腕っぷしを用い、非合法な手段で路銀を得るべくまだとどまっているという可能性も皆無ではない。


「こう、街を出ることに成功して変な自信をつけたとかですね」


 犯罪者の考えることなんてわからないと言いたいところだが、技能が使えるようになって人となりが変わってしまうところなら、何度か見てきている。


「技能を得たことで、自分が何でもできるように錯覚して無茶をやらかす」


 それも何度となく目にした。無謀な挑戦の果てに無残な結果を招くところまで見て、僕は技能が万能でないと知ったのだが。


「そういう僕に限って覚醒した技能がアレですからね」


 人生何が起こるかわからないというべきか。


「とにかく、袋を調達するところまでは確定で」


 街の外に出て盛大なたき火をするかどうかは、その後で決めた方が良いかもしれない。


「街の中で何か燃やしてるところにお邪魔して、少量ずつ紙屑の処分を手伝ってもらうって手もありますし……そもそも、天候次第ではたき火は無理ですからね」


 袋に紙屑を詰め、いざ街の外へと思ったら雨が降り出してきただとか、朝起きたら既に外は雨だったということもありうる。


「長々時間もかけて居られないとは思いますけど」


 何にしてもまずは袋だ。


「となると、また古本屋に寄る必要もありそうですね」


 この宿に払った宿代、そして買いなおした古着の代金と言う想定外の出費分を何とかする必要がある。資金はあっても邪魔にならないし、潤沢なら打てる手も増えるだろうから。


「昨日寄る予定だったのに寄れなかった店で何冊か纏めて売ればそれなりのお金にはなる筈」


 また一冊ずつ複数の古本屋を梯子してなんて考えで他の冒険ギルド利用者と鉢合わせて揉めることになったら目も当てられない。


「今度こそ」


 うまくやって見せると心に誓い、僕は外出の準備を始めるのだった。

 

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