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爽やかとは言えなくても


「おはよう、よく眠れたかな?」


 普通こういうのは下っ端の仕事にするものだと思うのだが、僕を起こしに来たのは衛兵隊長の男性だった。


「ええ、おかげさまで」


 皮肉、と言う訳ではない。僕は結局衛兵詰め所の仮眠室で睡眠をとることとなったのだが、相当疲労がたまっていたのか、意識が闇に溶けるのはあっという間だった。そして、どれほど眠っていたのかはわからないが、疲れはかなり取れた気がする。


「それは良かった。そろそろ昼なのでね」

「ああ、もうそんなになりますか」


 窮地の筈なのに何を呑気なというかもしれないけれど、起き明けなのだ。


「ところで、僕は帰れそうですか?」


 だから、何とか紡げたのは、単刀直入すぎるきらいすらある問いであり。


「……ああ」


 短い沈黙の後に衛兵隊長は頷いた。


「え」

「実は――」


 自分で尋ねておきながら、何を言われたか理解できない僕が知ったのは、街の入り口を強行突破した人物がいたということ。その人物が推定今回の犯人であろうということだった。残っていた眠気は、一気に吹き飛んだ。


「並みの兵士では歯が立たず、こちらが把握して居る限りで目撃証言の風体に合う戦闘技能持ちは居ない。おそらく盗んだ技能書を読んで技能持ちとなった犯人の仕業と見て間違いない」

「では」

「ああ、犯人は取り逃したがその間君はこの仮眠室に居た。となると、主犯はありえんし、スラム地区で一夜を過ごすなど自殺行為だ。それに報いるような何かがあれば共犯の可能性もあったが、接触は皆無で主犯は街を脱け出している」


 共犯とする材料よりそれを否定する材料の方が多いということか。だが、こうなってくると取りだせた技能書は軽々しく使えない。一度疑われた僕が剣士の技能を得てしまうと、技能書窃盗の共犯を再び疑われるのは間違いないのだから。


「……どうかしたかね?」

「いえ、犯人はこの後どうするつもりなのかな、と」


 技能書を使うつもりなら、犯人同様この街を出た方が良いのではと思ったなんて馬鹿正直に言えるはずもない。


「そうだな。戦闘技能持ちと言うだけで食いっぱぐれることはおそらくない。盗んで得た技能で一旗揚げるつもりだろう」

「やっぱりそうなりますか」


 技能書をとりだした時はそれどころじゃなかったが、剣士の技能書を持っているということは、僕も名を捨てこの街を捨てるのを覚悟して技能書を使えば、剣士の技能持ちとして暮らしてゆくことも可能と言うことだ。


「そう、とは?」

「僕も貴族の出身ですから。技能に覚醒した時、ああしたい、こうしたいとは幼い頃夢見ていましたから」


 衛兵隊長の男性にはそう答えたが、実際技能に覚醒し、活用してゆく様を想像することはよくあった。中には戦闘技能に目覚めてなんて臆病な性格を棚に上げ夢見ることもあったが。


「戦闘技能持ちとして生きて行くことを前提に考えると、すぐに思い至るのは僕も全く同じ、技能による立身出世なんですよね。シンプルでわかりやすいですし」

「なる程、逆に言うと今回の犯人の頭は貴族の子供並みと言うことか」

「とはいっても、窃盗は成功させてますし……悪い意味で純粋だったとか」


 ぶっちゃけ僕にとって犯人は要らぬ疑いをかけてくれた迷惑な奴であり、擁護する気は欠片もない。


「ともあれ、犯人が別人だとわかった以上、君を拘束してゆくわけにはいかん。話はつけておくので荷物を受け取って帰りたまえ」

「はぁ、わかりました」


 色々あったが、どうやら窮地は抜けたらしい。


「取りえず帰ったら荷物の整理と……今の服はさすがに廃棄して新しい……うん、まぁ古着でしょうけど、とにかく服を一着手に入れないと」


切り抜けたとはいえ、やらなくてはいけないことは多い。公爵の暗殺阻止についても、例の付与品が使えないモノと判明したことで、阻止の方法が白紙になってしまっているし。飲食店で働くかどうかも決めなくてはならない。


「それに」


パンパンになったストレージの整理も必要だろう。やることだけならたくさんあった。











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