帰りたいけど帰れない
「君も冒険者ギルド利用者だということは捕まえた連中の話で分かっているが、今日は仕事を受けて居ないね?」
いよいよもって僕への詮議っぽくなってきたが、だからこそ、答えられるところは正直に答えて疑いを晴らし自由の身を勝ち取るしかない。
「はい、僕は出身のせいか嫌われているようですから、仕事の時に組むパーティーもいませんし」
単独だと条件のあう仕事がないことも珍しくないですからと表向きの僕は延べ。
「では、仕事を受けて居ないのに外を出歩いていたのは?」
「最初はお腹が空いたからですね。食事の為に外に出て……あ、たまたま出くわした食い逃げ犯を捕まえて被害に遭われた店の方と近くの詰め所に突き出しに行きました。そちらの詰め所の方なら、僕の顔を覚えて居る方が居らっしゃるかもしれません」
質問に過去へ記憶を遡らせた僕は、こことは別の詰め所に立ち寄ったことを思い出し言及する。後ろ暗いことがあるなら、自分から詰め所に寄る訳はないですよと言う意味合いのアピールでもある。
「しかし、あの連中が君を追いかけまわしたのは、昼時ではないと聞いているが?」
「出かけたのは一度ではありませんから。仕事がなくて、金銭面でちょっと心もとなくなっていたから、金銭を工面するべく荷物を売りに外出を。あの連中に見つかったのは、その途中になります」
財布が軽く、金銭面で厳しいのも複数回外出してるのも事実だし、古本屋を梯子したことは言いづらいが、最悪の場合話すことも覚悟した。僕にとっての最悪は、この衛兵隊長さんが決め手が見つからないが無罪放免とも判断しかねて、技能を見抜く人間を呼ぶことだ。
「なるほど、苦労しているのだな。では立ち寄ったところは話せるかな?」
「それで無罪放免と言うことでしたら。ぶっちゃけますが、ここで『このお店に寄りました』みたいに言って確認をとるとなるとあっちの店の方に手間をかけてしまうので、今後利用しづらくなるんですよね。『窃盗の犯人と疑われた』と言うのも物品を引き取ってもらうのに不利になるじゃないですか」
掛け値なしに言いづらい理由を上げ、それでも拒否はしませんよと言うポーズを僕はとる。
「それと、スラム地区でぐうぐう寝られるほど僕ず太くありませんから、正直言ってそろそろ限界なんですよ。出来れば早く宿に帰って寝たいと言う意味で」
これも嘘偽りない事実だ。最悪の展開につながるかもしれないという危機感が無ければ、今も起きて居られたかどうか。
「それはすまん。では話をいったん切り上げて、仮眠室で寝るか?」
「そう、ですね。お言葉に甘えられるなら。ただ、宿の方に話を通さないと明日の分の宿代、払っていたかちょっと記憶になくて。下手すると、部屋の荷物を売るか捨てられてしまうかもしれませんから」
遠回しに帰りたいと言ったつもりだが、厳しい気もする。ここでどうぞお帰りくださいというぐらいなら、わざわざ仮眠室を貸すなんて言わないだろうし。ただ、提案に心揺れる程に今の僕は寝床が恋しくて。
「そう言うことなら宿にはこちらで連絡しておこう。宿の名前と場所を教えてもらえるかな?」
「えっと――」
やっぱりそうなったかと思いつつ、財布を取り出し、一日分の宿代を取り出して、突き出す。
「支払いはちゃんとしておかないと、続けて泊まる時に困りますから」
飲食店の店主の申し出を受けるなら引き払うかもしれなかった宿ではあるが、わざわざ話すことではない。むしろまだ滞在したいのにこうして拘束されてるから面倒なことになってるんですよと、視線で抗議しつつ、僕の意思に逆らいコインから離れようとしない指を苦闘しながら引きはがす。
「……無理を言ってすまん。だがこれも仕事なのでな」
目の前の男性から目礼で謝罪は貰ったが、口ぶりからするとまだ僕を開放するつもりはないようであり。
「せめてもの詫びだ。君の朝食もこちらで用意しよう」
続く言葉でほぼ確定となるのだった。