脱出開始
ぎゃーっ、先回りして予約で保存してた部分が投稿されちゃってる?!
すみませぬ。
失礼しました。ここ起点に書き始めます。
「漸く、外が明るくなって来ましたね」
夜が明けたという訳ではない。空が白み始めたとか、そんな段階だろう。
「さてと、少し賭けではありますけれど」
これ以上、ここにいては少女の寝床を出るところを目撃される可能性が高くなってしまう。
「すみません、続きは――」
またいつかと言う言葉を飲み込み、少女の寝顔に一声かけてずらした板の隙間から外へと身体を捻り出す。
「とりあえず、見張りらしき人影はなし、と。それじゃ――」
僕はまず紙屑を地面に敷き、その上に荷物袋から取り出したように見せかけつつ本を置く。この時、荷物袋の口にある紐で引っかけるのも忘れない。
「建物同士の間にある隙間だと、暗すぎて駄目なんですよね」
本を足場にして、身体を低くしつつ登ったのは、日が登る側にあった掘っ立て小屋の屋根だ。ここなら空が白み始めている今ならば、紙片を読むことも十分可能であり。
「ふぅ、さてと中身は……あ」
確認してみた紙片に書かれた中身はと言うと、少々遅きに逸した感もある内容だった。それは、いくつかの家を見張れというモノで。
「包囲するように設置していた部下と接触しなかった以上、住人に匿われていると見たってことですね」
リストアップされている家の家主は僕を何らかの理由で匿う可能性がある人物と言うことだろう。
「この中にあの子の名前があれば、完全に手詰まりですけど、さっき外に出た時点でそれらしい見張りの姿はありませんでしたよね」
早朝過ぎて見張りがいったんその場から離れている可能性もあるが、僕が少女の名前を知らない以上、とりあえずできることは女性の名前と思しきものがあるかを確認することぐらいだ。
「ふぅ。どうやら大丈夫そうかな」
もっとも、見張られていたなら、さっきの時点で見つかっていた可能性が高いのだが。
「さてと、屋根の強度も心配ですし、指示のとおりだとするならあの男の部下はこの匿って居るかもしれない人物リストの家を見張って居る筈」
早朝の今なら、裏をかける可能性はある。
「結局のところ楽観主義に頼った行き当たりばったりに賭けるしかないってのが、僕としては怖くて仕方ないんですけど」
大丈夫だというように僕の肩で紙の人形が腰に腕の先端を当てて胸をそらす。
「しかし、まさか短い期間でこの紙人形をまた修復できるとは……」
臆病な僕がやや無謀にも見えるこの行動に踏み切った一番の理由がこの付与品である紙人形だ。僕が一度使ったことで僕のモノに上書きされたこの付与品は、他の付与品より復元難易度が下がったようで、また使った場所が近かったこともあったのか、二度目の修復に僕は成功していた。
「少女の病気の時のこともありますし、頼りになるのは間違いないんですよね」
その紙人形が大丈夫と全身で表しているのだ。
「次は足場にした本を――」
荷物袋の口にある紐を引っ張って足場の本を回収し、荷物袋にしまうように見せかけてストレージの中へ。
「しかし、無秩序に建てられたようなのもこうして屋根伝いに行動することを前提にするなら、結構便利ですね」
屋根の上から見たスラム地区は建物同士の間が狭い場所、繋がって居る場所が多い。
「この分なら一度も下に降りずに外にはたどり着けそうですし」
問題があるとすれば、屋根の強度と下から発見される可能性だろう。
「ええ、解かってますよ」
手本を示すように腹ばいになり屋根を這い始めた紙人形に従って、僕もしゃがんだ姿勢から前に倒れこむようにしてうつぶせ位の姿勢を作ると、匍匐前進を開始する。
「無事外に出られてもこの服はもう駄目でしょうね」
屋根の上を這うのだ。実質屋根掃除を体でするようなものだ。
「目立つようなら上半身裸も考えないと」
男で肉体系労働者とかならば、上半身裸の人間もそう珍しくはない。僕の体格では浮いてしまう可能性もあるが、雑巾もどきの服を着たままよりはきっとましだろう。
「それも、無事脱出できたらの話ですからね」
匍匐前進では進む速さもお察しであり、スラム地区の出口はまだ遠かった。