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やれることをやるだけ

 前話の識字率低いのに指示のメッセージってどうよってツッコミはご遠慮ください。風邪の熱でちょっとぼーっとしてたんです。


 こう、きっとメッセンジャーは読み書き出来てその人が読み上げて言い聞かせたとかきっとそんな感じなんだと思っていただければ。


「また紙、ですか」


 こころなし、復元して取りだすモノは紙や紙片などの割合が多いような気がする。スペースに難のある今は助かっているが、状況を打破できるようなモノはまだ出ず。


「次を……」


 外部から光の差し込む隙間を確認してから、再び技能を行使する。大丈夫、まだ文字が読めない程暗くなってはいない。


「今度こそ……っ」


 再び行使した技能によって修復されゆくモノは本には非ざる薄さで、またただの紙かと嘆息が出かかる。


「え」


 だが、それはただの紙ではなかった。


「人?」


 そう、指はないが、四肢はある大まかに人を模った形状の紙で、胴の中央に見慣れぬ文字が一つ。


「そうか、紙の人形でも文字が書かれていれば僕の技能の範疇なんですね」


 しかし、なぜ人形なのか。無意識のうちに少女が寂しくないようにと僕が心のどこかでそれを求めたのだろうか。


「けど、そう言うことならそういうことで」


 この人形は少女の隣に寝かせておけば良いだろう、そう思った直後だった。何気なく胴に書かれた文字の意味が気になって意識を傾けると、いつもの様に取りだしたモノについての大まかな説明が脳裏に浮かぶのだが。


「ちょ」


 僕は硬直した。


『知の式神:作成者の知識量及び知力に準じて言葉ならざる助言を行う自立する紙人形。一度アドバイスを行うと、力を失い消失する消耗品。付与者:陰陽師ホウエツ』


 紛うことなき付与品だ。ただオンミョウジというのは聞き覚えがないし、名前もこの辺りでは聞かない響きだ。


「だけど、そんなことどうだっていい。ええと、シキガミよ――」


 頭を振って助言を求めようとして、僕は言い淀む。この付与品は一度きりの使い捨てのようなのだ。求められる助言は一つだけ。少女の体調について助言を求めれば、スラム地区からの脱出については頼れない。


「僕の力で得た奇跡なんだ」


 どう使おうが僕の自由。時間だって潤沢にある訳じゃない。ただ、脳裏に先生や婚約者の顔が一瞬浮かんで。


「この子の病を治すか体調を正常に近づけるための助言を」


 僕の口から出たのは、自分以外を助けることを望むものだった。


「あ」


 まるで承知したとでもいうように、起き上がった人型の紙は僕に一礼すると、まず横になった少女を見て、僕を見て、最後に周囲を見回す。後悔があるかと問われれば、あると答えたと思う。


「格好をつけて馬鹿なことをしたな」


 これで何の効果もなければそう自分で自分を笑っただろう。心の片隅でウジウジする間も紙人形は動く。僕に近寄って、荷物袋の方を暫く見るような動きをしたかと思えば、放り出してあった医学書に近づき、開こうとして動きを止めた。


「あー」


 正確には動きを止めたと言うより重くて本が開けないとかかもしれない。そう思って医学書に近づいて開いてやると、指のない手で表紙近くを示す。


「目次、かな?」


 推測で目次が見えるように開くと、紙人形は本の開かれたページの上に飛び乗って上から順に項目を踏みながら歩き出し、一つの項目で足を止めた。


「ええと、そこを開けばいいんですか?」


 尋ねれば頷きを返して紙人形は目次から退く。


「流石、付与品。と言うより説明からすると、付与者が凄いのかもしれませんけど」


 何の迷いもない様子からすると、医学にも通じる人物ということなのだ。そして、一つの項目を開くよう指示された時点で僕はもう一つ付与者の非凡さを思い知らされている。


「寄生虫による疾患」


 それが紙人形が開けと指示したページであり、僕の荷物を見ていた理由でもある。つい僕の視線も自身の荷物に向かい。


「あ」


 視線を戻すと紙人形はくたりと力を失って倒れ伏すところだった。だが、ここまで助言がもらえれば、後は僕でもどうにかなる。


「ありがとうございました」


 役目を終え、崩れて行く紙人形に感謝の言葉を送ると、僕は荷物の中から先生に頂いた餞別の付与品をとりだすのだった。


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