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彷徨えど


「ここも、駄目っぽそうですね」


 また一つ、たどった道は行き止まりだった。


「僕の探し方が悪いのか」


 理由の一つはわかっている。辿るのを躊躇した道がいくつかあったのだ。明らかにここの住人と思しき人が居た道は襲われたばかりの僕にとってどうにも通りづらく。


「ただの住人ではなく、さっきの人の息がかかってることも充分考えられるんですよね」


 そして無法者を装い僕に言いがかりをつけて襲い掛かり、窮地に陥ったところをさっきの人が助けて恩を着せる。よくある話だ、とはいうものの、僕が知ってるのは創作の中での話だが。


「その手の話でも実話を参考にしてリアリティを出したとかありそうですし」


 すんなり引き下がったのが気になって、疑心暗鬼の僕には人の居る道は躊躇われ。


「こほっ」

「え」


 そんな時だった。小さな、咳の音が聞こえたのは。無視すればいい、それどころではないとも思った。だが、振り向いてしまった。咳が大人の口から漏れたものではなかったからか、酷く弱弱しかったからか。


「……お兄さん、どうしたの?」

「っ」


 目が合うと、掘っ立て小屋の間に立っていた幼い少女に尋ねられ、僕は答えに詰まった。ここでこの子に迷っていると打ち明け、道を聞くというのも一つの手だろう。流石にここまで幼い、しかもおそらく病人を使ってさっきの人が僕をどうこうするとは考えづらい。


「ちょっと、道に迷ってましてね」


 その場しのぎに嘘を言っても居細かく突っ込まれれば、たぶんボロが出る。


「ふぅん」


 納得した様子の少女を前に、できればこの地区の外に出たいんですけどと言う言葉が出かからなかったというと嘘になる。だが、いくら地元の人間とは言え、病人の幼い子に頼るのはプライドとか以前の問題で。


「それじゃ、僕はこれ」

「あ」


 僕が立ち去ろうとした時だった。とさりと何かの倒れる音がしたのは。


「っ」


 振り返り、やはりと思った。咳をしていたのだ、体調は思わしくなかったのだろう。倒れた少女を抱き起し、普段寝ているところはどこですと問えば、手で示す力さえないのか、視線が少女の出てきた掘っ立て小屋の間、その奥を示す。


「これは‥‥」


 視線を追って僕が見つけたのは、ボロボロの板一枚で仕切られた行き止まりだった。だが、僕は寝ている場所はどことと聞いたのだ。少女を抱え上げて立ち上がった僕は行き止まりに歩み寄り。


「そうか、この板……やっぱり」


 手をかけると、板はあっさり動いて、その奥に空間があった。板が敷かれ、一部には襤褸布が丁度少女が横たわれるくらいの大きさだけ敷いてある。


「ということは」


 少女は身寄りもない路上生活者なのだろう。


「とにかく、寝かせないと」


 驚きもあり、納得できるところもあったが、抱えた少女の体調が体調だ。すぐに少女を布の上に横たわらせる。紙屑を出してもっと快適な寝床にすることが頭をよぎったが、どこでだれが見っているかわからない。


「医者に見せるのは、無理だ」


 僕がこの地区を抜けられない。それどころか、少女を背負っていたところでここの住人に絡まれた場合、逃げ切れるかどうか。診察代と薬代なら後先を考えなければ払うことは出来るだろうが、やはりここを抜け出せなければどうにもならない。


「そも」


 全部がうまく行っても、出来るのはこの少女を一度医者に診せるところまで。診せるだけで咳が止まるかどうか、元気になるかは別の話であるし、路上生活に戻ればまた病に倒れることだって充分考えられる。


「はぁ」


 暗殺を止めるだのなんだの言っておきながら、勝手に窮地に陥った自分を掬うことも出来ず、目の前で幼い少女が苦境にあるのに出来たことは寝床に運んだことぐらい。技能の熟練度が上がって出来ることは増えた筈だった。だというのに、どうしてこれほどにまで無力なのか。思わずため息が漏れた。








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