覗く者「???視点(閲覧注意)」
「で、どうだあのボウズは?」
掘っ建て小屋の一つに足を踏み入れて佇む女の影に俺は問うた。
「それを聞くの? 私の技能については良く知ってるでしょ?」
「まぁ、な」
肩をすくめて応じたのは、確かによく知っていたからだ。この女にかかれば、技能の有無どころか、まだ目覚めてない技能が眠ってるか、子や孫に技能持ちが出るかどうかまで解かっちまう。しかも技能による隠ぺいすら効かねぇってんだから、俺が聞いた限りじゃ相手の技能について知る技能持ちで、視る部分についちゃコイツの右に出る奴はいねぇ。
「そこの壁の隙間から覗いて解かったのは、貴き生まれなんじゃないかってことぐらいよ。着てるモノは日雇いの男たちが着てそうな古着だったけれど、所作のところどころに育ちの良さが感じられたわ」
「なる程、元貴族のボンボンとかそんなとこか。……そんな奴ならこんな所をうろつこうだなんぞとは普通思わんはずだがな」
いくら世間知らずな貴族の息子だろうと、ここは危険以外の理由でも外の人間なら二の足を踏むような場所だ。臭いだけで近寄らない街の連中だってそれなりに居る。そういう意味では、今会話しているこの女はスラム地区にはミスマッチだった。扇情的な布地の少ない服は色こそ暗い色合いのモノだが清潔そのもので、香水か何かを吹きかけたのか、微かに甘い匂いがする。
「しかし、貴族のボンボンがこんなところにねぇ。家にゃいられないほどの事をやらかしたのか、技なしだったとかで見放されたか」
貴族には技能に目覚められなかったとか何の役にも立たないゴミの様な技能だったからと子供を捨てる輩がいると聞く。
「俺らからすれば考えられない話だがな」
俺達の組織は一人の女の技能のおかげで貴族連中すら知らなかったことを掴んでいる。視界の中に居る妖艶な女の技能で知った、技能発現の仕組みだ。
「女にしか目覚めない技能を男の身で授かっちまったから、技能に目覚めることが出来なかった」
そんな例が存在する。たまたまこの女の技能を知る能力で調べられなかったら、真実は誰にも知られることがなかったであろう。ちなみにその男は俺達に拾われ、あてがった女との間に何人か子供を作っている。生まれた子供のうち半数が女、その一人にでも親の技能が引き継がれてくれていれば、ギルドはまた一人技能持ちを得ることになる。
「本当に阿呆だよな。子や孫の代で有用な技能持ちになる可能性を知らずに金の卵を産んだかもしれねぇ親鳥を放り出すってんだからよ」
結果として俺達は得難い人材を得られるのだから、悪くはないが。
「その辺差し引いても金かけて色々教え込んだ人材ってなぁ貴重だ。サボってロクに身に着けてねぇボンクラは例外だがな」
あのボウズはそうは見えなかった。勉強嫌いなバカ息子なら懐に本なんて入れて持ち歩いちゃいない。そも、追い出される実家から持ち出すことも考えないし、わざわざ本を買うなんてこともしないだろう。裸の女がいかがわしいことをするような本ならば別だが、遠目で見た限りあれは学術書とかお堅い連中が読む本だった。
「けど、なかなか可愛い子だったわね」
「うん? 気に入ったか? が……まぁ、誘いを受けてこっちに来たなら、間違いなくお前さんとベッドで仲良くなることになるさ。その時存分に可愛がってやればいいだろ?」
この女、技能は強力だが相手のことを知る為にはその相手とまぐわらなければならないという条件もちでもある。組織に黙って技能を隠していないことを証明するため、幹部連中の誰もが一度はこの女を抱いており、俺も例外ではない。
「あら、一夜の恋はギルドの人間としかしてはいけないって決まりはなかったはずだけれど?」
「あー、まぁそうでもあるがな」
恋愛だの所帯を持つとなると機密保持が理由でギルドの人間、もしくはギルドが調べて他の組織の息がかかっていない者と決められているが、組織外の人間と肉体関係を持つななんて決まりを作ると、この女の技能の効果が半減しちまう。
「邪魔だけはしてくれるなよ? あのボウズ、こんなところに迷い込む時点で賢いとは言えない筈だが――」
擬態だとか、訳ありってこともある。この女がオトしてくれても別にかまわないが、掘り出し物なら仲良くしたいのは俺も同じだ。もちろん、体の関係ってのは勘弁だがな。