唐突な
「いや、用っていうか……まぁ、用か。お前さん、俺達の仲間になる気はあるか?」
少し考えたようにも見えたが、唐突な申し出だった。
「は?」
そう意表をつかれての声が出るのを防げないくらいには唐突で、意味が分からなかった。
「あんな面白いモノを見せる奴が近くに居たら退屈しないと思ってな……」
「それなら、僕より芸人とか道化師を誘われては?」
あれはとっさの行動であって受け狙いをしたつもりは毛頭ない。
「おー、まあ、そうなるよな」
「そも、自己紹介もなしに誘われて『はい、入ります』と言う人は希少だと思うんですけど」
そも、こんなところに居るという時点で嫌な予感しかしないので、自己紹介されていたとしても先ほどのスカウトに頷いたかどうか。
「はっはっは、一本取られたな。俺はシャロス。とあるギルドのしがない中間管理職をやってる。仲間ってのも一応そのギルドの話なんだが――」
「ギルドって掛け持ち出来ましたっけ?」
割と偉い立場の人間で驚きはあったが、僕はそれを噛み殺して、尋ねる。自己紹介を聞いて、嫌な予感が一層強くなった僕としては、このお誘いはできればお断りしたかった。僕の想像が確かなら、強力な技能持ちが捕まって一番ろくでもない目に遭わされたのが、たぶんこの人のお仲間だからだ。
「あー、ギルドの規約によるな。確かうちはOKだった筈だ」
「ですか。僕のところは駄目だった気がするんですよね、冒険者ギルド」
レアケースだが、利用者の中で技能が目覚める者が出ることもあるため、囲い込みの意味があって冒険者ギルドはそこに厳しい。仕事の関係柄仲良くやっていかないといけないギルドなら、些少のお目こぼしもあるだろうが。
「あちゃー、冒険者ギルドか。黙ってればバレねぇよと言いたいところだが、そいつは厄介だな」
おそらく仲良くやってゆくタイプのギルドではないのだろう。シャロスと名乗った男は手のひらで目を隠すように押し当ると嘆息し。
「まぁ、そう言う訳なら仕方ない。気が変わったら、知らせてくれ。モグリでもなきゃこの辺の奴は俺の名前ぐらいは知ってるからな」
じゃあなと挨拶するとあっさり踵を返した。
「あ、はい」
少々拍子抜けした感もあるが、僕はその背を見送る。無理強いしても良くないと思ったのか。
「それとも」
僕がここを抜け出せず、最終的に頼らざるを得ないとでも思ったのだろうか。
「確かに」
考えは甘かったし、行き当たりばったりの行動で、よりにもよって一番接触したくない集団と接触までしてしまっている、ただ。
「あの状況でどうしろと?」
考える時間なんてロクになく、しかも逃げながら。勘違いからの金銭もしくは付与品目当てで追いかけて来た連中は、騒ぎになることも辞さなかった。つまり、捕まった場合、殺されることもありえたのだ。
「他に逃げおおせる方法もありませんでしたし、これが出来る限りでは最良だった筈」
去った男も強引に仲間になれと迫ってくるようなことはなかった。あの時点で僕の技能が露見していたなら、力づくでも僕を拉致したはずだ。
「僕だったら、放置はしない」
さっきの痩せた男の様に所持品や金品目当てで襲ってくる者が居てもおかしくない場所に、放り出して殺されてしまったら、どれだけの損失になるか。
「それとも、全部仕込みでいったん放してから追い込んでくるとかだったり――」
中間管理職と名乗っていたことから、それなりに部下は居ると思う。やろうと思えば可能なんじゃないかとも思うが。
「とりあえずは、警戒しつつここを抜ける道を探すしかない、ですね」
ただ襲いかかってきた男を倒した様が面白かったというだけでギルドに誘うというのは、不自然。もし技能が露見していて放置した場合、先ほどの嫌な予想が的中することになるが、だとしても僕にできることは他にない。
「はぁ……」
技能が露見していないことを祈りながら、スラム地区の出口を探す、それだけだった。