ただ淡々と
「本、本、紙屑、本、カード、本、巻物、本、紙屑、札、手紙、本、権利書、本、紙屑、日記、カード、本、本、手紙」
ジャンルについて口にするのはもう止めにした。気にしてるぐらいならその力を熟練度稼ぎに向けた方が良いと感じたからだ。
「紙屑が減りましたね。けど、これって逆に現状で取り出せない推定付与品の含有量というか確率がこれだけっていうことですよね」
付与品を当たりだとするなら、今口にしただけで十八取り出して当たりは三。六つに一つぐらいの確率になる。
「なんだか『くじ』みたいですけど」
そのくじも当たりを復元し取り出せなければ意味がない。熟練度を稼ぎ、先を目指す。先日までの行き詰まり感が嘘の様にストレージと試練の達成で大きく前進できたが、あれは幸運の類。あてにしてはいけないものだから、地味なのも単調なのも承知で僕は作業を続ける。
「本、本、紙屑、本、本、紙屑、カード、本、巻物、手紙、本、本、手紙、札、紙屑、書類、書きつけ、本、本、カード、本、手紙、紙屑、本、巻物、本、紙屑、手紙、権利書、カード、本」
意識の片隅でストレージの中身を延々と取り出したそれらの内、まともなモノと変え。
「本、本、紙屑、本、本、紙屑、日記、本……こう、なんだか自分が本棚にでもなったような気分ですね」
収められた本の内、一部がいかがわしい本であることを考えるとちょっとモヤモヤするが、その手の本を外に置いておけないのだから、仕方ない。
「しかし、これ全部が何らかの理由で失われたモノだとすると――」
いかがわしいモノが多い理由は、それ自体が多い理由なのではないだろうか。当人が恥ずかしくて捨てたとか、恋人や妻に見つかって処分されたとか。
「失われるに足る理由が多いからこうして取り出される割合も多い、と。なんだか悲しくなってきますが、これも人の――」
いや、男の業か。
「けど、これだけ本があると、『そういうの』は別として、興味を覚えるタイトルのモノも時々混じってるんですよね」
手を出したが最後、熟練度稼ぎを放り出しただ延々と本を読んでしまいそうなことが僕にすら容易に想像できるので、出来うる限りタイトルや表紙も見ないように心掛け始めたりしているが。
「『家庭教師と私のいけない個人授業』、何と言うか、こういう時に限ってピンポイントにそっち系の本なんですね……」
事故は時々起きる。実際家庭教師に指導してもらっていた身としては、興味よりばかばかしさが先に立って、自分でも驚く程平静にストレージへとしまい込めたが。
「続けましょう」
僕の孤独な戦いは続く。
「手紙、本、本、紙屑、カード、本、本、本、カード、書類、本、紙屑……まぁ、やっぱり付与品はとりだせませんね。付与品、本、本、カード、札、手紙、書類、権利書、紙屑、紙屑」
淡い期待も延々続ければ作業としか言いようのない現実に薄められ、独り言を口に漏らしつつ、身じろぎする。
「んんっ、ほとんど同じ体勢だと寝てるだけなのに肩とか腰に……」
適当なところで体をほぐす運動を入れたり、ベッドから起き上がるべきかもしれない。
「本、本、手紙、本、紙屑、カード、札、権利書……そろそろストレージから出した紙屑をどうにかしないと拙いですね」
身を起こしながらいくつかまた取り出して、何気なく向けた視線の先には前よりかなり成長した紙屑の山があり。
「では、行動に移りましょうか」
ベッドを降りる決意をした僕は紙屑の山を素通りして部屋の外へと向かう。ストレージで熟練度を稼ぐならこのままの方が効果がありそうな気もするし、ストレージに紙屑を仕舞うとなると、収納していた本などを取り出す必要がある。
「本の重さで床が抜けたら笑えませんからね」
まず何冊か外で本を売って、紙屑は本の代金で購入した袋に入れて部屋から持ち出そう。
「お金があるだけでもだいぶ違いますし」
想定より高く売れたら今の宿を引き払ってもっと広い別の宿の部屋を借りるのも良いかもしれない。
「その前に、トイレですね」
人は生理現象には抗えない。寄り道は想定内のことだった。