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とんでもないモノ、そのに?


「えーと」


 何がどうしてこうなったと視線がつい遠くを見る。作業を再開した直後に取り出した最初の一冊がいかがわしい本とか、さすがにこれはあんまりなんじゃないだろうか。


「と言うか、僕の技能って『失われたモノを修復して取り出すモノ』でしたよね?」


 書物や書付の様なモノに限るという但し書きもつくが。


「何がどういう経緯で失われたのかは、うん」


 考えない方が精神衛生上良い気がする。


「そんなことより、これ、どうしましょうか?」


 古本屋に売る様な勇気は僕にはない。捨てるのはさっきモノを大切にすると言った手前出来ない。


「ストレージ? ストレージもなぁ」


 何かの間違いで他のストレージのモノを出す時に取り出してしまったら、酷いことになる。


「こう、誰か欲しがりそうな人のところにこっそりプレゼントとして置いてくるとかが一番無難な気もしますけど」


 現状ではプレゼントす(おしつけ)る同性がまず思いつかない。となると、事故の可能性に怯えながらも当面はストレージにしまうしかないだろう。直接持ち歩く勇者にも普通に荷物に入れておく準勇者にも僕はなれないのだから。


「とにかく、もうこの件はこれぐらいにして――あ゛」


 頭を振り、いったん忘れることにして再び修復に戻れば、取り出したのは、また全裸の女性が描かれた本だった。


「どういうこと?! なんで連続?!」


 二度あることは三度あると聞くし、そういうアレなのだろうか。


「常識的に考えるなら纏めて失われたそういう本が一冊ずつ順番に取り出されてるとか、そういうことかもしれませんけれども!」


 この流れ、下手をすると第二は手元にあるので、第三第四のいかがわしい本が登場してしまう気がしてならない。


「い、いや、悪い方に考えるのは止しましょう。どうか次はまともな本でありますように」


 なんだか自分で自分のよろしくない未来をあつらえてしまった気がして、つい祈りながら次の作業に移り。


「あ」


 見えた表紙に裸の女性が描かれていなくて安堵する。


「良かったぁ……ええと、本のタイトルは『上手に妻を宥める二十の方法』、ですか」


 こう、さっきの二冊を奥さんに見つかったどこかの旦那さんがこの本に頼ったってストーリーが透けて見える気がするのは、きっと僕の気のせいだと思う。


「どっちにしても僕には無用な――」


 そこまで続けたとき、脳裏に婚約者の顔が浮かんでしまったのは、何故だろう。


「結局、現状ではみんなストレージに入れておくしかありませんし」


 それ以上考えず、三つの紙屑と三冊の本を交換する形でストレージに収納し。


「とは言え、宥めたならもうさっきの流れは終わったはず」


 自分に語りかけるように独り言を呟いて、作業に戻る。


「『上手な妻との別れ方』……宥めるの失敗したって見ていいですかね、これ?」


 こんな本が次に出てきたということは、さっきの宥め方の本は役立たずだったということか。


「ま、まぁ、一連の本を処分したのが同一人物と言う確証はない訳ですし」


 本のどこかに同一人物の名が記載されているというオチがまっていそうな気もして、僕はそれ以上別れ方の本も調べることなくストレージに入れる。


「しかし、このペースで本が増えてゆくとその内本屋とか図書館も経営出来そうですよね」


 誤魔化しきれなくなった時の為に、もう一つの名前と偽りの技能設定でも今のうちに用意しておくべきか。


「とりあえず本屋にしても図書館にしても現状だとラインナップが酷いですが」


 数をこなせば、偏りも減るだろう。


「辞書、いかがわしい本、おとぎ話の本、演奏指南書、いかがわしい本、旅行記、図鑑……」


 取り出した本のジャンルを小声で口にし、淡々とストレージに放り込んでゆく。こう、微妙にいかがわしい本の比率が高いあたりに意図的なモノがあるのではと疑いたくもなるが、きっと気のせいだろう。本が、増えてゆく。もちろんこの合間に紙屑が取り出されることも何度かあった。


「まだ技能付与された品は無理みたいですね、けど」


 一部は除くが、ちゃんとしたモノを取り出せるようになったことで、僕は手ごたえと達成感を感じていた。


「この調子なら、きっと」


 更に上の熟練度に届くのも遠くない、素直にそう思えた。


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