足腰立たなくなりました
「とりあえず、悪魔の言ったことは本当だったようね」
と立つのに失敗してベッドに倒れ込んだ僕を見ながらミリティアは言った。
「みたいですね。ですけど、これで僕が使ったわけですから――」
技能書と僕の紐づけ、つまり関係も強くなったはずなのでもう一度取り出すのはそう難しいことではなくなっただろう。
「技能は寝転んでても使えますし」
言いつつ僕は技能を行使、復元されて取りだされた本がぼふっと音を立ててベッドの端に落下する。
「えーと」
出てきた本に目をやれば、若い女性が裸で縄によって縛られてつるされる絵が表紙にかかれていた。
「ヴァルク……」
「えっと、すみません」
場所が場所だけあって、無意識下の願望でも技能に反映されているのだろうか。短い期間で二冊いかがわしい本が出てくると、僕としてもミリティアの顔がとても見られなくて。
「今度こそ……あ」
頭を振って技能の行使に意識を集中すると、出てきたのは紙の人形だった。
「何、これ?」
「ああ、スラム地区から脱出する際などで世話になった付与品ですよ」
メモや書付でもなく、本でもないモノが出てきたことで興味を引かれたミリティアへ僕は説明する。正直、微妙な空気だったので、助かったとも思った。
「そう言えば、そんな話もしてたわね。と言うことは、この紙の人形は困ったときに助言をくれる、と」
「ええ。とはいえ――」
現状でこの紙人形にアドバイスを求めて問題が解決するかと言うと微妙だ。それに一応消耗品でもある。
「現状はキープしておいて、他に何か出てこないか続けてみますよ」
とりあえずミリティアの分の技能書はここで取り出しておきたいし、他にも使えるモノが取り出せるなら取り出しておきたい。
「……取り出すと言えば、あの手紙は結局どうなったんでしょうね?」
そんな中、ふいに思い浮かんだのはフロント公爵の暗殺を阻止すべく送った付与品の手紙だ。
「用が済んで処分されたなら、ここで取りだせても不思議はないんですけど」
得体の知れない相手からの警告文と言うことで保存されていたとしたら、効果が切れて消滅するまではとりだすことは不可能でもある。
「気にはなりますけど、そんなことより今は悪魔への対抗手段ですね」
有効なモノを手にして居ない以上、僕は寝転んだまま技能を使い続けるしかないのだった。




