悪魔の残したモノ
「お待たせ、ヴァルク」
そう声をかけられて、肩が跳ね、思わず奇声が口から迸りそうになったのはきっとあの悪魔の捨て台詞のせいだったと思う。
「い、いえ。で、では行きましょうか」
無理やり閉ざした口を開いて、ミリティアを促し僕は歩き出す。平常心を、と思うが、流石に意識してしまわざるを得ず。
「……まぁ、無理もないわよね」
後方から聞こえたため息とどこか納得したような口ぶりに、一瞬振り返って弁明したくもなったが、こう、はっきり言って無理だった。この状況でミリティアの顔なんて見られない。僕の顔も赤みが引いていないと思うので、それを見られたくないというのもある。
「っ」
ああ、なんだろうこの状況は。本当にどうしてこうなった。こういう時こそ落ち着くべきなのだろうけれど、思考も纏まらない。
「もう……」
もういっそありふれてる物語のパターンの一つの様にすべて夢でしたってオチで終わってもいいんじゃないだろうか。心のどこかで自分の一部が、囁く。このまま目的地について、ミリティアと二人っきりになったとして、伝えるべきことを上手く伝えられるのだろうか。
「ん? 二人きり?」
そこで、ふと引っかかる。そう言えば先ほど悪魔が出てきていたが、あれは宿の外。人に目撃されたりミリティアが出てきて鉢合わせしてしまうということだってあったはずだ。言い忘れたことを伝えるために出てきたのだとしても、最初にトイレに現れた時と比べて、目撃される危険性が高い。
「ただ言って去るだけでも――」
町中に悪魔が現れれば騒ぎになる。後日僕の命を狙うにもやりにくくなる可能性があるというのに、何故屋外に普通に現れたのか。
「それが解かれば、何か対抗手段になるかもしれませんよね」
現状あの悪魔をどうにかできるのは、人質をとる形のハッタリだけ。切れる手札が多くなるにこしたことはなく、同時に再認識する。僕はあの悪魔について、あまりにも知らなすぎると。若干迂闊なところがあるのでそこをつけば当人というか当悪魔から情報も引き出せるであろうが、接触自体リスクが高い。




