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それとの再会


「さてと」


 ストレージにどれだけ収納できるかを確認した後、出来うる限り修復が成功したモノを優先してストレージに詰めた僕はベッドに横たわり紙屑を量産する作業に戻った。


「一つ変化が起きたばかりなのに、次の変化をすぐに求めるなんて虫が良すぎますよね」


 望み過ぎてはいけない。くじけはしたものの、つづけたからこそ今がある。自分に言い聞かせながら天井を見上げる今は、まだ実家に居た時風邪をひいて寝ている時と少し似ていた。


「出来るのは横たわっていることだけ」


 紙屑を取り出し続けているところに差異はあるが、ベッドから出られず、話し相手もなくただ天井を見つめるだけ。


「思えばあの時も一人でしたよね」


 技能になかなか覚醒しない僕は当然の様に扱いが良くなかった。風邪をひいても看病してくれる者はなく、流石に週に一度は医者が診察に来てくれたが、存在すら忘れ去られたかのようだった。一度だけ家庭教師の先生が見舞いに来てくれたが、丁度弟の勉強も見始めた時期。先生経由で弟に風邪が感染ってはいけないと見舞いを禁止されていたと知ったのは風邪が完治した後の事であり。


「今もお元気ならいいんですけど」


 手は止めず、家で唯一の味方だった人を思う。弟にも指導をされていたし、馘首にされるということはないとは思うが、気になって。


「先生が書いた何かが取り出せたら、なんて都合よく望み過ぎかな」


 望み過ぎてはいけないと自分を戒めてからさして時間も立たないうちにこれだ。


「取り出しすぎて意識せずとも取り出せるようになるというのも、こうなるとちょっと考えものですね」


 頭が自由になっている分、つい色々考えてしまう。


「同じ考えるなら、熟練度上げのさらなる効率アップとかもっと建設的なことを考えるべきで」


 むろん、そう簡単に名案など浮かぶはずもないのだが。視線を横に向けても見えるのは紙屑の山の頂上付近とその向こうに薄汚れた壁があるだけ。


「うん?」


 そちらに意識がそれた直後、手に違和感を感じて視界に持ってくると握っていたのは一冊の本。


「ああ、これ――」


 記憶が確かなら、実家で先生に勉強を教わっていた時に使った参考書だ。


「今まで実用に足りるようなモノは一切取り出せてなかったのに、何でこんなものを……あ」


 パラパラ無造作にめくっていた僕は、あることに気づいてページをめくる手を止めた。ひっくり返して裏表紙をめくったのは恐る恐るだ。そこに書かれていたのは、小さい文字。


「そうか、これは僕の……弟に持って行かれた僕自身の本だったんですね」


 見覚えのある筆跡で書かれた僕自身の名が所有者を証明していた。


「自分の所有物なら、必要な熟練度に補正がかかるのか……ん?」


 また一つ新しい事実を知り、だったらと思い至る。


「先生の虫よけも――」


 復元し取り出すときの条件は同じように誰かのモノより難易度が低くなるはずだ、と。


「とは言え付与品。僕以外の参考書でも取り出せるようにならないと無理ですね。もっとも、可能になったところで行う気は欠片もありませんけど」


 恩のある先生からの餞別を熟練度稼ぎの為にダメにするのは憚られた。


「暗殺を防ぐためなら手段を選んで行ってはいけないのかもしれませんけど」


 効率の為に捨てていいものでもなかった。


「だいたい、物は大切にしないと」


 自ら破損させて修復するを繰り返す、一見すると効率が良く思えるかもしれないがモノを修復して取り出すというこの技能にそぐわない様にも思えたのだ。


「修復に失敗した紙屑は残ってると再度修復できなくなるかもしれませんから、あれだけは別ですけど」


 呟いてちらりと見たのは、相変わらず山になった紙屑。


『技能所持者による試練の達成を確認。熟練段階を一、上方に引き上げます』


「え」


 直後にまた脳内へ浮かんだ文字に、僕の手から参考書が落ちた。


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