唯一の手は
「ほう、我に効くようなモノが出ぬと言われて尚、技能を使おうとするか」
なぜかは解からないが、悪魔は僕の狙いを半分察したらしい。そう、半分は。
「効かない? 本当にそうでしょうか?」
「当然だ。我に効果のあるようなモノは熟練度が足りず取りだせぬ筈。その状態で何をする?」
悪魔は嘲りの表情で僕を見るが、余裕を隠そうともせず問うてきたということは、残り半分は察せなかったらしい。
「ええ。ですから、取り出すのはその本来取りだせないモノです」
「なっ」
驚き、悪魔が目を剥く。僕の狙いを理解できてのモノかどうかは解からない。解からないが、どうでもいい。
「あなたの主人は以前僕に燃やされたそうですが、僕の技能は消滅したモノならば復元して取り出すことができます。ので――」
僕の思いついたただ一つの打開策、それは。
「お引き取り願えなければ、あなたの主人の封じられたモノのなれの果てをもう一度取り出して、ちょっと酷いことをします」
この悪魔の主人を人質にすることだった。
「ちょっ、おま」
「ご指摘の通り、抗す術が他にありませんから。卑怯と言っていただいて構いません」
出来るだけ平然を装って言うが、実際のところこれはハッタリでもある。今の僕に選択してあの断末魔を上げた紙屑を取り出すことなど不可能なのだから。だが、可能性がある以上、この悪魔も動けない筈だ。
「技能を使って復元途中で僕が死んだりした場合、復元中だったあなたのご主人がどんなことになるかは僕にもわかりませんからね」
悪魔は、下手を撃てない筈。もちろん、ここでお引き取りいただけたとしても、ミリティアをさらって主人の紙屑と交換だと言い出したり、寝込みを襲ってくるだとかもありうる。本当にこれは一時しのぎに過ぎないのだが。
「そうそう、もうお気づきですけどここはトイレですよね」
「なっ、まさか」
汚い話で恐縮だが、僕の唐突な話題変換に悪魔は何かを察したのだろう、その表情が引きつり。
「わかった、それだけはやめろ! 今日のところは我は帰る!」
慌てた様子で宣言すると、悪魔の姿は虚空にかき消えた。




