おさそい
「さてと」
何と言って誘うべきか。
「内緒で話したいことがあるんですけど」
とかであれば、誤解を招く可能性はほぼなくなるが、その場で聞き返されるかもしれない。
「内緒って言うのは解かったけど、どういう方向の話? それも言えないの?」
なんて尋ねられた時、自分自身が逃げてしまわないか、自信が持てない。
「詳細を告げずに誘って、たどり着いた先でと言うことになれば、誤魔化して逃げず辛くはなりますよね」
敢えて宿の従業員の様な誤解をさせて否定するときについポロっと内緒の話があったんですとうっかり漏らしてしまう形で伝えるのも考えたが。
「そんな器用なことが僕にできるかどうか。……失敗して混乱した上、言うつもりがなかったことを言ってしまったとしても驚きませんけれど」
呟きつつノックの返事を待つが、部屋の中からは一向に返事がなく。
「ヴァルク?」
「ひょわぁぁっ?!」
後ろから声をかけられて、思わず変な声が出た。
「あ」
「あ、じゃないわよ。と言うか、さっきの反応、何よ?」
声を出してから気づくが、もう遅い。僕をヴァルクと呼んだ時点でミリティアしか考えられなかったというのに。
「いえ、すみません。ちょっと考え事をしてまして」
「考え事?」
「ええ、どうやって誘おうかと……あ゛」
動揺していたからだと思う、大ポカをやらかしたのは。
「誘う?」
ミリティアは口を滑らせた僕を見逃さず、即座に視線で尋ねてきて。
「え、その、ここに‥…」
しどろもどろになりつつ地図を差し出すのが、僕には精いっぱいだった。
「へぇ、よくわからないけれどここに私と一緒に行きたいのね。わかったわ」
ただ、結果的には良かったのかもしれない。地図を見たミリティアはあっさり了承してくれたのだから。同時に僕の逃げ場が消失したわけでもあるけれど。
「そ、それはそれとして、どちらに?」
誤魔化すようにふいに浮かんだ疑問を僕は何も考えず投げ。
「お、お手洗いよ」
「え、あ、すみません」
顔を赤くして答えられ、僕は再びミリティアに頭を下げた。




