あっさりと
「ヴァルク、そろそろ着くわよ」
そうミリティアが知らせに来るまで、僕は船の上で今後のことを考えて居た。
「ありがとう」
礼を言いつつも意識の半分以上は頭の中、やはり決めなければいけないこと、何とかしないといけないことは多い。
「その中でも――」
一番重要なのは僕の技能についてミリティアに打ち明けるか否か、だ。このままずっと技能の秘密を隠し通せるとは思えない。事情を知る協力者がいれば出来ることは増えるし、協力者には誤魔化しをしなくても良くなると言う意味で手間も減る。
「駆け落ちまでした間柄ですもんね」
前にこの件について考えた時も、口外しないかどうかと言う信用面などでは問題なかった。
「下手に隠していて、どこかでうっかりバレるなんてことになるぐらいなら」
今の内に打ち明けておいた方が良いと内なる自分の一人が言う。
「そう、ですよね」
今も打ち明けることに不安はあるが、ムレイフさんの居ない今こそ打ち明けるなら好機ではある。
「とはいえ、船の上では船員とかも居ますし」
話すなら、完全に二人だけの時にするべきだろう。
「船着き場を出て最寄りの町に立ち寄り……町を出てダーハンに向かう途中かな?」
宿の部屋で、と言うのは壁を越えが抜ける可能性、扉の前で偶々立ち聞きされる危険もありうる。
「ヴァルク、聞いてる?」
「あ、はい、すみません。もうすぐ着くんでしたよね?」
「そう、と言いたいところだけど……着いたらしいわ」
「えっ」
僕はどれだけ思考の方に気をとられでいたのだろうか。我に返るともう一度ミリティアに謝ってからミリティアの示していた方にむかい。
「おう、乗船ありがとうな。良い旅を」
「ええ、ありがとう」
「お世話になりました」
船員と言葉を交わし、渡し板を数歩進み、樽や木箱の並んだ桟橋を陸に向かって並んで歩く。
「こう、拍子抜けするほど何もなかったわね」
「けど、その方がありがたいですよ」
僕は自衛手段に乏しいし、身体的に優れてるわけでもない。川だから川賊とでもいうんだろうか、ともかく、旅人の財布や命を狙う様な輩の襲撃を受けただとか、川が荒れて船から落とされたみたいな物語か何かで出てきそうな出来事はお断りだし、何もなくてよかったと思っている。
「このまま何事もなく……とか言うとロクでもないことが起こりそうですし、敢えて何も言わないとして」
とりあえず今日の宿を探しましょうかと僕はミリティアに言う。川の水は夕日の色に染まり、東の空には気の早い星々が輝き始めていたのだ。




