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憤るもの「???視点」


「あの役立たずめ、どれだけ我が家を祟る気だ!」


 執務室に引き籠るなり私は罵声と共にペンを机に投げつけて居た。


「一向に技能に目覚めなかったかと思えば、漸く得た技能も紙屑を出すだけのモノと言う出来そこない。我が子と思うのも忌々しく、追い出してやったが‥…」


 まさかそのヴァルクが元婚約者を誘拐して逃亡を図るとは。


「この家を追い出したのは、不幸中の幸い‥…ではないな。外に出したからこそそんな大それたことが出来た訳ではある」


 追放したからこそ赤の他人、我が家の関知するところで無いと追及された責任ははねのけたが、先方が冷静になってその点を指摘すれば、こちらに全く落ち度がないとも言えない。


「家からではなく街から追放すべきだった。そうすればこんなことには……」


 もしくははした金でも握らせてスラム地区に置き去りにすべきだったか、今になって悔やんでも遅いのではあろうが。


「しかし、街の入り口の兵が眠らされ、何者かの突破を許したとも聞くが……」


 あれの元婚約者、誘拐されたという娘の技能が他者を眠らせる者であった筈だ。


「むぅ」


 そうなってくると、おかしな点がある。他者を眠らせることの出来る強力な技能の持ち主をあの役立たずがどうやって誘拐できたのかと言うことだ。


「もしや、この誘拐、狂言か。あの役立たずを手なずけて、誘拐事件をでっち上げ、私に責任を追及することで何らかの譲歩をさせようというなら……いや」


 そこまで考えて、頭を振る。誘拐されたなどと言う話が広まれば、あの娘の価値は大きく下がる。娘を疵物にしてまで狂言誘拐をしたとして、得られるものがあるとすれば我が家からの賠償ぐらいだが、明らかに割に合わない。


「もしやこの誘拐、あの娘がさらわれたのではなく。娘の方があの役立たずをかどわかしたのではないか」


 それならば、色々とつじつまは合う。合いはするのだが。


「しかし、強力な技能もちの貴族の娘があの役立たずの為に全てを捨てるというのか? ありえん」


 ましてあの役立たずと問題の娘は、私が言うのもあれではあるが政略結婚なのだ。辻褄さえ合えばいいというモノではない。


「ええい、一体どういうことだ! 何がどうなっている!」


 苛立ちに握った拳を机へと叩きつけた。

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