船上で
「こんなこともあろうかとって訳じゃないけれど、まさかこういう風に役に立つとは思わなかったわ」
どことなく得意げなミリティアに、僕はすみませんと頭を下げた。
「気にしなくていいわよ。こう、タイミングよく船に乗れたわけだし」
荷を下流に運ぶ船が副業として客を乗せることは珍しくなく、その結果、余り待つことなく船着き場にたどり着いた僕達は船に乗ることができたのだが、運賃は今ヒラヒラ手を振っているミリティアが全額出しているのだ。何か欲しいモノがあった時の為に肌身離さず持っていたお小遣いらしいのだけれど、流石貴族の令嬢と言うべきか。
「そう言う意味で言うなら、僕も追放前なら持っていても良さそうなモノだったんですけどね」
技能に目覚める前は未覚醒が理由で自由になるお金何て貰った記憶はないし目覚めた後に関しては言うまでもない。弟ならばミリティアと同じくらい貰っていたかもしれないが、技能格差とでも言おうか。
「どっちにしても僕が全力で甲斐性なしって事実は動かないんですよね」
こういうのを確か、ヒモと言った気がする。
「はぁ」
自衛以外の意味でも、早急に技能の熟練度を上げる必要がありそうだった。ただ、技能を使いこむにしても僕の技能は紙屑か復元品か何らかのモノが増えてしまうという性質を持ち合わせている。邪魔になるだけなら、今は船の上だ。川に捨ててしまうという選択肢も一応は存在するが、この時点で僕が復元を失敗するとしたら、かなり凄いモノである可能性が高く川に捨ててしまえば二度と復元できなくなる恐れがあり。復元できたとしても勿体なくて捨てられないモノである可能性がある。
「そもそもなぁ」
紙屑にしてもただ燃やして処分できないモノが混じっている可能性があると知ってしまった今、軽々しくたき火を見つけたりして放りこむこともできなくなった。人の居る場所でまた、断末魔とかを上げられたらたまらない。
「ヴァルク?」
「あ、すみません。ちょっと考え事を」
一人思考に沈んでいたからだろうか、訝し気に声をかけられて我に返った僕はまた謝り。
「ま、まぁ、仕方ないわよね。私も色々考えなしだったかもしれないし」
「えっ」
「ごめんなさい、ヴァルク。邪魔をするつもりはないから、船がついたとか何かあったときだけ声をかけるわね」
どことなくばつの悪そうな顔で腕を組んだミリティアはそう告げると、僕の側を離れていったのだった。




