脱出・後
「ヴァルク、居る?」
そうかけられた声へとっさに返事を返せなかったのは、僕が答えを出すよりも早くミリティアがやって来てしまったからだろう。
「ミリティア? 馬は?」
我に返って僕が問うと、残念だけど連れてこられなかったわとミリティアは頭を振った。
「それは、追い付けなかった、とか?」
「ううん、最初に走らせた時は大丈夫だったけれど、無人でしばらく走って支持する人は誰もいなくて、その結果、背中に乗せてたモノが気になったのね。ついでに言うなら進行方向を変えたみたいで向かい風でもなくなったから」
「あー」
つまり、乗せていた紙屑塊が気になってか風向きが変わってか、とにかく馬は匂いを嗅いでしまったのだろう。そして眠ってしまった、と、
「背中に乗せてたモノは回収してきたけど、技能で馬を眠らせたのは初めてなのよね。寝ぼけて暴れられると危険だから、起こすのも躊躇われて……」
「まぁ、それなら仕方ないですね」
馬を確保できなかったのは痛いが、ミリティアが怪我をするよりはよほどいい。
「それと、これ返すわね」
「あ、はい」
履いていた靴も返してもらい、僕は詰め物の紙屑を取り出してから靴を履き。
「何にせよ、もうことは起こしてしまいましたし、このままムレイフさんと合流したら出発しましょう」
「そう、ね」
ミリティアが微妙そうな表情で返事をする。表情の理由は僕にも察せたが、だからといってムレイフさんを置いてゆくわけにもいかなかった。
「ムレイフさんには旅で使う品の手配とかお願いしたりしてますから」
こんなモノで気が晴れるかはわからないが、せめて納得してもらうために僕はムレイフさんと合流すべき理由を上げ。
「ただ、問題はムレイフさんがあの入り口を通れるかですよね」
ミリティアの技能で人員が悉く寝てしまい、機能がマヒしているということもあったが、場合によっては眠りを齎す匂いが残り香として入り口に残っていることも考えられたのだ。
「ヴァルク殿」
「あ、良かった。街の外に出られたんですね」
だから、無事ムレイフさんが姿を見せたときは安堵した。
「ええ。ただし遠回りして行きと違う出入り口を使わざるを得ま……おっと、そちらのお嬢さんは?」
「あっ」
ミリティアのことを紹介しないといけないと気づいたのは、質問されてからで。
「ええと、自己紹介とかはしないといけないとは思うけれど、ヴァルク! 今はここをはなれなきゃいけないでしょ?」
「っと、そうでしたね。説明は道すがらで。ただ、ムレイフさんがすぐそこの入り口を使えなくなった件で人目を忍ばないといけなくなりましたので、先にそれだけ伝えておきますね」
「人目を忍ばないとは、聞き捨てならないのですが」
顔を引きつらせるムレイフさんへ僕は誤魔化すように出発しましょうと言ったのだった。




