表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/39

9話 お風呂

 ぜひお礼がしたいと言われて、キャラバンの人たちと一緒に、一晩を過ごすことになった。


 色々と買い込まないといけないので、思っていた以上に時間がかかりそうだということ。

 それと、食事をごちそうしてくれるというので、素直に甘えることにしたということ。

 その二点の理由で、一緒の時間を過ごすことにした。


 まずは買い物だ。


「さあ、ウチの自慢の商品たちだ。時間制限なんてないよ。思う存分、みていってくれ」


 レイのところで剣を買い取ってもらい、そのまま、買い物へ移行した。

 馬車の荷台に並べられた様々な商品を、エステルと一緒に見る。


「わぁ」


 エステルは目をキラキラと輝かせていた。

 色々な商品があって、物珍しいのかもしれない。


「まず、食料と水をもらえるか? 一週間……いや、10日分ほどほしい。食料は、手軽に持ち運べるものがいいな」

「なら、干し肉とパンだね。まあ、それだけだと飽きるだろうから、いくつか別のものも加えておくよ」

「ありがとう、助かるよ」

「それと、甘い物はいらないのかい?」

「甘い物? 別に糖分は……」

「はぁ」


 なぜかため息をこぼされた。


「セツナのためじゃなくて、エステルちゃんのために……だよ」

「あっ」


 なるほど、そういうことか。

 確かに、子供は甘い物が好きそうだからな。


「干した果物とクッキーをセットにしておくよ。そんなに数はないから、一気に食べさせないように」

「わかった」

「あと……わかっていると思うけど、食べた後はちゃんと歯磨きをさせるんだよ?」

「あっ」

「どうやら忘れていたみたいだね、やれやれ」


 レイが呆れたように言うが、それも仕方ない。


 俺一人の時は、歯を磨くなんて対して気にしなかったのだけど……

 子供が一緒となると、そういうわけにはいかないよな。

 虫歯になったりしたら色々と大変だし、なによりもかわいそうだ。


「歯ブラシも売ってないか?」

「ここにあるよ。っていうか、歯ブラシを持ってなかったのかい?」

「まあ……」

「……もしかして、生活必需品をまったく持っていない、っていうオチなのかい?」


 レイにジト目を向けられて……でも、否定することはできず、俺は小さく頷いた。

 はああああ、と盛大なため息をこぼされた。


「あんた、もしかして旅するのは初めてなのかい? なにも持たずに旅に出るなんてヤツ、初めて見たよ」

「いや、初めてじゃないんだが……色々とあって、準備をしている時間がなかったんだ」

「だとしても、なにも持っていないっていうのはありえないだろう。セツナだけじゃなくて、エステルちゃんも一緒なんだ。その分、あんたがしっかりしないといけないんだよ」


 返す言葉もない。


「まあいいさ。ここで出会えたのもなにかの縁。あたしがしっかりと面倒を見てやるよ。ひとまず、生活必需品を一通り追加して……あと、それらを持ち運ぶための荷袋も必要だね」

「あと、靴と服を頼む」

「了解。よくよく見たら、二人ともひどい格好してるねえ……まあ、セツナはいいとして」


 俺はいいのかよ。


「エステルちゃんにこんな格好をさせておくなんて……やれやれ。セツナはとんでもなく強いけど、子育てはド素人なんだね」


 まさにそのとおりだった。


「エステルちゃん、ちょっとコートを脱いでもらっていいかい?」

「んぅ……?」

「体のサイズを測りたいんだ。あと、そのコートも洗濯した方がいいね」

「……は、い」


 基本的に、大人の言うことに逆らうということを知らないのだろう。

 エステルは、言われるままコートを脱いで……


「っ!? まった、エステル!」

「ふぇ?」


 慌てて止めるが……遅かった。

 エステルはコートを脱いでしまい、猫耳と尻尾があらわになってしまう。


「コイツは……」


 レイが目を大きくした。

 隠すもののなくなったエステルを見て、すぐに怒りの表情を浮かべる。


 ……さっきは、受け入れてもらえたのかもしれないと思ったのだけど。

 やはり、ダメなのだろうか?

 エステルが魔族というだけで、レイも、迫害を……


「あんたっ、これはどういうことだい!?」


 レイが怒りながら、俺を睨みつけた。


「いや、これは……」

「エステルちゃんをお風呂に入れたのは、いったいいつだい!?」

「……は?」


 まったく予想外の言葉が飛び出して、思わず間の抜けた声をこぼしてしまう。

 風呂が……なんだって?


「ああもう、ひどい格好だねえ……エステルちゃん、女の子なのにあちこちが汚れてて……なんだいこりゃ。髪も真っ黒じゃないか。これはどういうことだい? まったく風呂に入れてなかったのかい?」

「いや、その……たぶん、風呂には入ってないかと……」


 あんな家に暮らしていたくらいだ。

 たぶん、エステルはずっと風呂に入っていないだろう。


「あのね……年頃の女の子をこんなにするなんて、あんた、ダメダメな父親だねえ」


 その言葉は、妙にぐさりときた。


「って……よくよく見れ見れば、セツナも相当なもんだね。あちこち汚れているし、正直、ちょっと臭うよ」

「えっ、マジか?」


 慌ててエステルを見た。


「えっと、えっと……」


 意見を求められて、エステルは困ったように視線を揺らした。

 迷うように、考えるように視線をふらふらとさせて……

 ややあって、明後日の方向を見たまま、コクリと頷いた。


「……ちょっと、だけ……臭う、かも……」


 思わず、がくりとその場に膝をついてしまう。


 な、なんでだろう……?

 臭うと言われただけなのに、精神的なショックがとんでもなく大きい。

 特に、レイとは違い、エステルに言われるとダメージがでかい。


「ははっ。あれだけの力を持っているのに、娘には勝てないんだね」


 落ち込む俺を見て、レイが楽しそうに笑う。

 他人事みたいに……

 俺は本気で落ち込んでいるんだぞ?


「とにかく、まずは体を綺麗にしないといけないね。商売の続きはそれからだ」

「そう言われても、どうするんだ?」

「近くに川があるから、セツナはそこで水浴びでもしてきな。エステルちゃんは、あたしらが使う風呂に入れておくよ」

「風呂があるのか? キャラバンなのに?」

「ずっと旅をするからこそ、そういうものは必要なんだよ。ま、そこまで大きいものじゃないから、セツナも一緒に、っていうわけにはいかないけどね」


 そうなると、エステルと離れてしまうことになる。

 大丈夫なのだろうか?


「えっと……エステル。一人で風呂に入れるか? 俺がいなくても平気か?」

「あわ……だ、大丈夫。寂しい……けど、我慢するよ……?」


 なぜか、ちょっとだけエステルが赤くなった。

 なんでだろう?


「おばか」

「いてっ」


 レイにこづかれた。


「エステルちゃんも女の子なんだよ。セツナと一緒なんて、恥ずかしいに決まっているじゃないか」

「な、なるほど……」


 離れる不安より羞恥心の方が勝ったみたいだ。

 微妙な気分だ。


「エステルちゃんの面倒はあたしが見るから、安心しておくれ。ほら、石鹸とタオル。それと着替え」


 ぽんぽんぽん、とレイから水浴びセットを渡された。


「わかった。それじゃあ、エステルを頼むよ」

「あいよ」

「エステルも、ちゃんとレイの言うことを聞くんだぞ?」

「……ん」


 エステルは落ち着いた様子で、小さく頷いた。

 この様子なら大丈夫だろう。

 そう判断して、俺は近くの川へ移動した。

『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、

評価やブックマークをしていただけると、すごくうれしいです。

よろしくおねがいします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ