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7話 キャラバン

「……エステル。コートを深くかぶっておいてくれ」

「んっ」


 念のために、猫耳などが見えないように、エステルにそういう指示を出しておいた。


 その間に馬車から人が降りてきて、こちらに近づいてくる。


「やあ、ちょっといいかい?」


 声をかけてきたのは、30くらいの女だ。

 背が高く、俺と同じくらいはある。

 気さくな笑みを浮かべていて、ついつい親しみを覚えてしまうほどだ。


 でも、油断はできない。

 人は仮面をかぶることができる。

 今は人畜無害なフリをしているだけで、その本性はろくでもないという可能性は捨てきれないからな。


「なんだ?」

「君達は……旅人なのかい?」

「ああ、そうだ」

「なるほど、なるほど。親子で旅をしているなんて、大変だね」

「……親子……」


 親子という言葉にエステルが反応する。

 その顔は、コートに隠れていてよく見えない。


 親子と呼ばれて、エステルは今、どんな気持ちなんだろう?

 なぜか、そのことが妙に気になった。


「俺達がどうかしたのか?」

「警戒させてしまったかな? 特にどうということはないんだけどね。こんなところで二人だけ……気になるのも仕方ないだろう?」

「まあ、そうかもしれないな」

「なにか困っているのなら……と思って足を止めたんだけど、大丈夫みたいだね」


 そう言う女からは、悪意というものをまるで感じられない。

 明るく、優しく……その口から紡がれる言葉は、善意の塊だ。


 まだ、気を許すのは早いが……

 少しくらいなら関わっても平気かもしれないな。


「ちょうどいい。実は、困っていることがあるんだ」

「うん? そうなのかい?」

「キャラバンで間違いないよな? できるなら、食料や水、それに服や靴……旅に必要なものを買わせてくれないか? 色々あって、急に旅に出ることになってな。それらの準備がまるでできていないんだ」


 女がちらりとコートをかぶったエステルを見て、納得顔で頷く。


「なるほどね。確かに、そうみたいだ」

「頼めるか?」

「ああ、いいよ。ちょうど、この辺りで馬を休ませようと思っていたところだ。そのついでに商売ができるなら、一石二鳥ってもんさ。あんたたちもそれで文句ないね?」


 女が大きな声で、周りに問いかけた。

 他の商人達が、次々と了承する。

 どうやら、キャラバンはこの女が率いているみたいだ。


 納得だ。

 まだ軽くしか話していないが……

 この女からは、カリスマのようなオーラを感じるからな。

 上に立つ者としては、申し分ないだろう。


「あたしは、レイ・スラウム。レイって呼んでおくれ」

「俺は、セツナ・イクシスト。この子はエステルだ」

「よ……よろしく、おねがい……します」


 慌てた様子で、エステルがぺこりと頭を下げた。


「セツナにエステルちゃんだね。よろしく!」


 握手を求められて、それに応じた。




――――――――――




「うーむ……」


 馬車の前で商品を広げている商人の一人に、俺の剣を見せていた。

 剣の鑑定をしている商人は、難しい顔をしてうーんうーんと唸っている。


 ……着の身着のままでこの地にやってきたので、金を持っていない。

 なので、装備品を売ることにした。


 さすがに聖剣や神剣を売るのはどうかと思い、予備として、以前に街で買っておいた剣を鑑定に出した。

 大して使用しておらず、刃こぼれもしていない。

 魔物の血で錆びついているということもない。

 それなりに高い金を出して買ったものだから、それなりの値段で売れるだろう。


 そう思っていたのだけど……


「こりゃ、ウチでは引き取ることができないな」


 返ってきたのは、予想外の言葉だった。


「買い取れないのか? もしかして、買値がつけられないほどのナマクラなのか?」

「そんなことはないさ。逆だよ。こいつは一級品の中の一級品だ。一本売るだけで、一年は遊んで暮らせるだろうな」

「ならどうして?」

「恥ずかしい話だけど、払える金がないのさ。店を構えてる商人ならともかく、俺はあちこちを旅する身だからな。そこまでの大金は持ち合わせていないんだよ」

「そういうことか……他に買い取れる人は、ここにいるか?」

「いないだろうな。多少の差はあるが、みんな、俺と同じくらいしか金は持っていない」

「まいったな」


 金は装備品を売ればいいと思っていたが……

 まさか、売ることすらできないなんて。


「どう……したの?」


 俺の動揺を察したらしく、エステルが心配そうな声をこぼした。


 この子に余計な心配をさせるわけにはいかない。

 俺は笑顔を浮かべて、コートの上からエステルの頭を撫でてやる。


「いや、なんでもないさ。エステルが気にすることじゃない」

「お金……ないの?」

「うぐっ」


 見事に痛いところを突かれて、妙な声が出てしまう。


「あっはっは、エステルちゃんは容赦ないねえ」


 今のやりとりを見ていたらしく、レイが笑いながら姿を見せた。


「容赦……ない?」

「おっと、自覚なしときたか。将来は、魔性の女に育つかもしれないね」

「やめてくれ、縁起でもない……」


 エステルがそんな女に育つなんて、想像するだけでイヤだ。


「それよりも、金がないんだって? それなのに、ウチらの商品を買いたいのかい?」

「金なら、コイツを売って作るつもりだったんだよ」


 今しがた鑑定してもらった剣をレイに渡した。


「ほう、コイツは……とんでもない一級品の剣だね」

「わかるのか?」

「当たり前だろう? あたしも商人だよ。しかし……コイツを売るとなると難しいね。誰も買い取れないと思うよ」

「そう言われたところだ」

「こんな上物を持っているなんて、もしかして、セツナは貴族なのかい?」

「そう見えるか?」

「いや、見えないねえ」

「あのな……」

「はははっ、悪いね。ただ、他に可能性が思い浮かばなくてね。貴族ならこれくらいの剣はもっていてもおかしくないから……と思ったんだよ」


 確かに、そう思われても仕方ないか。

 貴族ではなくて勇者……なんて、そこに思い至るヤツなんているわけがない。


「……貴族じゃないが、そこそこ裕福な家だった。旅に出る時に、家にあったものを適当に持ち出したんだよ」


 妙な勘違いをされても困るので、そう言い訳をしておいた。


「ふむ……なんなら、その剣、あたしが買い取ろうか?」

「いいのか?」

「全額即金で支払う、ってことはできないんだけどね。払えるのは……そうさね。半分くらい、ってところかな? で、残り半分はウチの商品を自由に持っていっていい。それでも足りないと思うから、残りは借りにしておく、ってことでどうだい? あたしらはあちこちを旅してるから、また会う確率は高いと思うよ。その時は、たっぷりサービスさせてもらうよ」

「それで構わない」

「おや、即決かい」

「これ以上ないくらいの好条件だからな。乗っておかないと損だ」

「まいどあり」


 騙されるかもしれないと、少しは警戒しないといけないのかもしれないが……

 話をしているうちに、気がつけばその気にさせられていた。

 レイは、思っていた以上に商売上手のようだ。


「それじゃあ、あたしの馬車に来ておくれ。金と商品を用意するよ」

「わかった。行こう、エステル」

「……ん」


 エステルは小さく頷くと、俺にぴたりとくっついた。

 少し歩きづらいのだけど……

 慣れない場所で緊張しているのかもしれない。

 そう思うと、離れろなんて言えなかった。


「仲の良い親子だねえ」


 レイが俺達を見て笑う。


「……そう見えるのか?」

「ああ、もちろんさ」

「そうか」


 俺とエステルが親子、か……


 本当は、昨日、出会ったばかりの縁もゆかりもない他人同士だ。

 偶然が重なり、一緒にいることになっただけだ。


 それでも。


 エステルの親に見られるということは、妙なうれしさがあった。

 誇らしいというか、うれしいというか……

 前向きな気持ちになることができる。

 勇者をやっていた頃には、決して味わうことができなかった気持ちだ。


「……親子……」


 ただ、エステルの方はどう思っているのかわからない。

 小さなつぶやきはすぐに消えてしまい……その表情は、コートに隠れて見ることができなかった。

本日19時にもう一度更新します。

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