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5話 旅立ちの朝

「……ん……?」


 温かい。

 それに、ふさふさする。

 今までにない感触を覚えて、俺は目を開けた。


 ボロボロの屋根が見えた。

 エステルの小屋だ。


 昨日、ちょっとしたおしおきを村の連中にした後……

 小屋に戻り、そのまま寝たんだよな。


「すぅ……すぅ……んゆ……くぅ……くぅ……」


 見ると、エステルが俺にしがみつくようにして、穏やかな寝息を立てていた。

 温かくて、ふさふさした感触はエステルのものだったのか。

 納得だ。


「エステル。そろそろ……」


 エステルを起こそうと手を伸ばして……考え直して、手を止める。


「ふにゃ……あふぅ……ん、ふぅ……」


 幸せそうな寝顔を見ていたら、もうちょっとくらいいいか……と思ってしまった。

 別に急ぐ旅ではないからな。

 あてもなくふらふらするだけだ。

 だから、もう少し寝かせておいても、まったく問題はない。


 ……決して、エステルの寝顔を見ていたいわけじゃないぞ?

 いや、ウソです。

 ホントは、もう少し見ていたいです。




――――――――――




「んゆ……はふぅ」


 しばらくして……

 ごしごしと目をこすりながら、エステルがゆっくりと体を起こした。


 寝ぼけ眼でキョロキョロと周囲を見回して……

 俺を見つけると、柔らかい笑顔を浮かべる。


「あ……セツナ」

「起きたか? おはよう」

「……うん。おは、よう……」


 朝の挨拶をして……それから、エステルが不思議そうに、こてんと小首を傾げる。


「なにを……して、いるの……?」

「エステルの靴を作っているんだ」


 俺は一足先に起きて、エステルの靴を作っていた。

 俺の靴をあげられればいいんだけど、さすがにサイズが合わないからな。

 なので、小屋の一部と植物を使い、簡易の靴を作っている、というわけだ。


「よし、できた」


 木の板をエステルの足のサイズにカット。

 クッション代わりに植物の葉を敷いて、蔦で紐を作り、足に固定できるようにした。


「履いてみてくれないか?」

「うん」


 エステルは木の靴を受け取り、いわれるままに履いてみせた。


「わあ」


 エステルの目がキラキラと輝いた。

 靴の感触を確かめるように、その場で足踏みをする。


「すごい、ね……コレがあれば、足、汚れないよ……ちくちくって、痛くもないよ」

「簡易的なものだけど、次の街に着くまでは保つと思う。次の街についたらちゃんとした靴を買ってやるから、しばらくはそれで我慢してくれ」

「ん」


 あまりこちらの話を聞いていない様子で、エステルはうれしそうに足踏みを続けていた。

 そんなにうれしいのだろうか?

 靴と呼べるか微妙な物を作っただけなのに……


 ……こんなものでも喜ぶような、そんな生活を送っていたということか。

 今までのエステルの生活を考えて、なんともいえない気持ちになる。


「どう、したの……? お腹、痛い……?」


 俺の表情に気がついたエステルが、心配そうな顔をした。


 いかん。

 エステルに心配をさせてどうするんだよ、俺は。


「いや、なんでもない。ちょっと、ぼーっとしてただけだよ」

「そう……なの?」

「それよりも、ごはんを食べようか」

「お肉!?」

「すごい反応だな……まあ、肉なんだけどさ」


 エステルがものすごい笑顔になる。

 その反応に苦笑しながら、靴を作るついでに狩っておいた猪を捌いて、炎の魔法で焼いた。


「ほら」

「はむっ! あむあむあむっ!」


 昨日もけっこうな量を食べたと思うんだけど……

 底なしなのか? と思うような勢いで、エステルは再び肉を食べまくる。


 まあ、悪いことじゃないか。

 小さいうちは、たくさん食べた方がいい。

 今までの生活が悪かったせいか、エステルは痩せているからな。

 しっかりと食べて、健康な体を取り戻してほしい。


 あと、元気よく食べるところもかわいい。

 絵にして残しておきたいな。


 ……ほどなくして食事が終わり、軽く体を休める。

 俺はともかく、いきなり動いたらエステルに負担をかけてしまうかもしれないからな。


「あの……ね?」


 ゆっくりしていると、エステルがそっと口を開いた。


「ん?」

「ちょっと、聞きたいなあ……って」

「どうしたんだ?」

「私達……どこに、行くの……?」

「そうだな……とりあえずは、東クリモアを目指そうと思っている」


 東クリモアは、アルドミア帝国の南東に位置する街だ。

 帝国の西に位置する、ミールズ共和国に近い。

 帝国と共和国の関係は良好で、盛んに交易が行われている。


 東クリモアは、その拠点の一つとして利用されていて、帝国人と共和国人が多数、滞在している。

 それだけではなくて、エルフやドワーフなどの多種族も寛容に受け入れている。

 それほど多くはないが、魔族も暮らしているという。


 勇者として魔王を討伐する旅の中で、あちこちを巡ってきたので、それなりに地理は得意だ。

 なので、こういう知識がある。


 まずは、東クリモアを目指して……

 そこで、本格的な旅支度を整える。

 今は着の身身のままだからな。


 それからは……未定だ。


「……街……」


 エステルはどこか浮かない顔をして、耳をシュンと垂れ下げた。

 人に怯えているのだろう。


「大丈夫だ」

「ん」


 エステルの頭を撫でる。

 エステルは気持ちよさそうに目を細めた。


「俺がいるから」

「……セツナ……」

「なにかあったとしても、俺がエステルを守るよ。安心していい」

「……あり、がと」


 エステルが笑う。

 うん。

 やっぱり、この子は笑っている方がいいな。

 笑顔がよく似合う、太陽のような子だ。


 ……その後。


 旅の準備を整えて……といっても、荷物なんてほどんどないのですぐに終わったが……いよいよ、俺達は旅立つことにした。

 エステルの手を引いて、小屋の外に出る。


「……」


 外に出たところで、エステルが小屋を振り返った。

 その瞳には、なんともいえない複雑な感情が浮かんでいた。


 こんな小屋でも、エステルにとってはたくさんの思い出がつまった大切な家なんだろう。

 家族と過ごしたところで……

 一人でがんばって生きてきたところで……

 色々な思いを抱えているに違いない。


「寂しいか?」

「……ちょっと、だけ」


 つないだ手に、ぎゅっと力が込められる。


 エステルは、しばらくの間、じっと小屋を見て……

 それから、未練を振り切るように視線を外して、今度は俺を見た。


「でも……大丈夫」

「そうか?」

「うん……平気」


 強がっているということは理解できた。

 でも、それだけじゃないように思える。


 俺がいるから……なんて、自惚れていいのだろうか?


「……よし! それじゃあ、行くか」

「ん」


 共に一歩を踏み出して……俺達は旅に出た。

本日19時にもう一度更新します。

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