表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/39

4話 因果応報

 旅立ちは翌日にした。

 すでに日が暮れかけていたのと、ある程度、準備をしておかなければいけないからだ。

 なにしろ、エステルは靴さえないからな……どうにかして調達しないといけない。


 ……それに、まだ、やらなければいけないこともあるからな。


「ふわぁ♪」


 俺が狩ってきた猪の肉を食べて、エステルは目をキラキラと輝かせた。

 調味料の類は持っていないので、下処理をして、魔法で焼いただけのものなのだけど……

 それでも、エステルにとってはごちそうらしい。

 喉をつまらせるような勢いで、パクパクと食べていた。


「そんなに慌てなくても、肉は逃げないぞ?」

「でも、お肉、すごい久しぶりだから……んっ、うぐ!?」

「言わんこっちゃない。ほら、水だ」

「んっ……んっ……んっ……はふぅ」


 水を飲んで一息ついたかと思えば、


「はぐはぐはぐっ!!!」


 再び、エステルは肉にかぶりついた。

 尻尾がうれしそうに、ひょこひょこ揺れている。


 こうやって喜ぶエステルを見ていると、胸が温かくなる。

 これが庇護欲、というやつだろうか?


 今までは、戦うことばかりだったからな……

 こうして、誰かを養うなんてことは初めてだ。

 うまくやれるのか? という不安はあるものの……でも、一喜一憂するエステルを見ていると、不思議とがんばるという気持ちになれる。


 俺も肉を食べて、水を飲む。

 そうやって、ある程度、栄養を取り込んだところで立ち上がる。


「セツナ……?」

「ちょっと出かけてくるから、エステルはここで待っててくれ。なんだったら、先に寝ててもいいから」


 そう言って、小屋を後にしようとして……


 ぎゅ。


 服の端を掴まれた。

 見ると、エステルが不安そうな顔でこちらを見上げている。


「帰って……くるよね?」

「もちろん」


 エステルを安心させるように、頭を撫でてやる。

 猫耳がぴょこぴょこと動いた。


「んー」


 エステルは気持ちよさそうに目を細めていた。

 撫でられるのが好きなのかもしれない。


 なんていうか……

 かわいいな。

 親の気分というか、庇護欲をそそられる。


「エステルを一人になんてしないさ。約束だ。ちゃんと帰ってくるよ。そうだな……1~2時間くらいで戻ってくると思う」

「うん……待って、いるね?」

「じゃあ、行ってくる」

「いって……らっしゃい」


 エステルに見送られて、俺は小屋を後にした。




――――――――――




 アルドミア帝国の遥か南方……イングリーズ王国との国境付近に、シリドの村はある。

 国境付近に位置しているが、立地条件が悪く、戦略的な価値は低い。

 そのため人が立ち寄ることもなく……結果、村は寂れてしまう。


 そのことで、シリドの村人達は結束を固めた。

 村を守るため、存続するため、互いが互いを助け合うようになった。


 しかし、同時に他者を拒む、排他的な集団に変貌していった。

 旅人が来ても家に泊めることはなく。

 他所からの移住者を受け入れることもなく。

 ただただ、自分達の目に見える範囲だけのものを守ってきた。


 その結果……


 魔族というエステルは、『異物』と認識されて、排除されるようになった。

 いつか牙を剥くかもしれない。

 災いが降り掛かってくるかもしれない。


 そんな根拠のない恐れを抱いて、エステルを村の外へ追いやり……

 それだけに飽き足らず、迫害を始めた。

 相手が小さい子供であるとか、天涯孤独の存在であるとか、そういうことは関係ない。

 シリドの村人達は、自分達さえよければ、他はどうでもいいのだ。


 そして……


 『他』に認定されたエステルは、ついに、排除されることになった。

 全会一致で決定された。


 しかし、直接手を下せるような度胸を持った者はいない。

 そこで、呪いをかけるという手段が用いられることになった。

 以前、村を訪れた旅の商人が、一晩の宿の対価として、色々な道具を村人達に提供したのだ。

 その中に、相手に呪いをかけるというアイテムが存在した。

 村の唯一の冒険者である大男……バラッゾは、それが呪いをかけることができるというアイテムであることを、偶然、知識として蓄えていて……

 誰も反対することなく、エステルに呪いがかけられた。


「ちっ、おもしろくねえな」


 村に唯一ある酒場で、バラッゾは酒を飲みながら愚痴をこぼしていた。


「あの魔族のガキ、まだ生きていたなんてな」

「まったくじゃな……そろそろ死んでいるかと思ったのじゃが」


 同席している村長が相槌を打つ。

 それは、バラッゾと一緒にエステルの小屋を尋ねた初老の男だった。


「まあ、あと少しというところじゃろう。もう一ヶ月は経つからな。バラッゾが見た本の通りなら、あの呪いをかけられて生き延びたものはいないのじゃろう?」

「ああ、そうだな。確実にやれるって話だ」

「なら、待つことにしよう。なに、あと少しじゃ。それで、異物が排除できる。そうすれば、我が村は安泰じゃ」

「けっ、どうせなら、俺がやってやろうか? あんなガキ、一発でしとめられるぜ」


 本当はそんな度胸はないのだけど……

 酒が入っていることで、バラッゾは気が大きくなっていた。

 その場で、剣を振る仕草をしてみせる。


 そんなバラッゾを見て、他の客達は歓声をあげた。


 さすがバラッゾだ。

 頼もしい。

 あの化物をなんとかしてくれ。


 子供を殺すというバラッゾを非難するわけでもなく、止めるわけでもなく……称賛する。

 誰も疑問に思うことはない。

 誰もが皆、他者を受け入れようとしていないのだから。

 全てが、村の中で完結している。

 これこそが、シリドという村の姿だった。


 あまりにもおぞましい。


 その実態を目の当たりにしたセツナは、吐き気を覚えた。


 カランッ、と酒場の入り口に設置されたベルが鳴る。

 数人の客が振り向いて、顔をしかめた。


 セツナがボロボロの格好をしていたから……というのもあるが、それだけではない。

 セツナの顔に見覚えがないからだ。

 余所者がやってきた。

 それは、この村では嫌悪に値することだった。


 バラッゾがセツナに気がついて、彼のところへ歩み寄る。


「あぁん……なんだ、てめえは。よく見れば、あのガキのところにいた余所者じゃねえか。なんの用だ? 酒でも飲みたいのか? あいにく、ここは余所者に出す酒なんかねえんだよ。失せな」

「ぎゃはははははっ」


 バラッゾに胸を押されて、セツナが軽くよろめいた。

 そんな様子を見て、周囲の村人達が下品に笑う。

 村長もバラッゾを止めることなく、仕方ない、という感じでスルーしていた。


「それともなんだ。あのガキじゃ満足できなくて、女を探しに来たのか? やめとけやめとけ。お前なんかになびくヤツはいねえよ。お前にはあのガキがお似合いだ。かわいがってやれよ、ぎゃはははははっ」

「……ゴミが笑うな」

「あ?」


 ゴミ呼ばわりされたバラッゾは、途端に笑みを消して、凶悪な表情を浮かべる。

 子供が見たら、すぐに泣き出してしまいそうな凶相だ。


 しかし、相手が悪い。

 セツナはそれくらいでは、欠片も動揺することはない。

 逆に、怒りが増していくだけだ。


「お前が……いや、違うな。お前達全員の意思で、エステルに呪いをかけた。間違いないな?」

「あぁん? エステル? ……ああ、あの魔族のガキのことか。なかなか死なねえんだよな……ちっ、しぶといガキだぜ。で……それがどうした?」


 バラッゾが、自分は正しいことをしているというように、なんら恥じることなくおぞましい言葉を並べて……

 周囲の村人達も、村長も、当たり前のように頷いていた。


 それが、彼らにとっての『正義』なのだ。


「なるほど、よくわかった」

「あぁん?」

「お前ら全員、ゴミだな。いや、それだとゴミに失礼か。ゴミ以下の屑だ」

「てめぇ……死んだぞ、こら」


 バラッゾが殺気立ち、丸太のように太い腕で、セツナの顔面を殴りつけた。

 クリーンヒット。

 まともに拳が直撃する。


 バラッゾはにやりと笑うが……すぐに、その顔が引きつる。


「今、なにかしたか?」

「なっ……!?」


 改心の一撃がヒットしたはずなのに、セツナは何事もないようにその場に立っていた。

 倒れるどころか、体勢を崩すことすらない。


「て、てめえ!? いったいなにをぐぎゃっ!!!?」


 セツナが拳を振るい……

 重力が真横に変換されたかのように、バラッゾの巨体が吹き飛んだ。

 壁を突き破り、店の奥にまで飛ばされていく。


 にやにやと笑っていた周囲の村人達が、顔を蒼白にして静まりかえる。

 なにが起きたのか、まるで理解できない。

 理解できないが……目の前にいる男は化物だ。

 それだけはかろうじて理解することができた。


 誰もが動けない中、セツナは村長のところへ歩み寄る。

 そして……

 その胸ぐらを掴み、宙に持ち上げた。


「ぐっ……あああ!? な、なにをするんじゃ……くそっ、このようなことをして、タダで済むと思っているのか!?」

「それは俺のセリフだ。今までエステルにひどいことをしてきて、タダで済むと思っているのか? 子供にあんなことをして……それが正義だと、いつまでも笑っていられると思っていたのか? 報いを受けると考えたことはないのか!? 他人にしたことは、いつか自分に返ってくるんだ、そんなこともわからないのか、お前達は!?」

「ひぃっ!?」


 セツナが殺気を放つ。

 間近で殺気を浴びせられた村長は、生きた心地がしなかった。

 吠えていたのが嘘みたいに、ガクガクと全身を震わせて、涙を浮かべる。


 そんな村長に、セツナは顔を近づけて、強い口調で言い放つ。


「いいか? 正直なことを言うと、俺は、お前達全員、殴り倒してやりたい。そこの男にやったように、おもいきり殴りつけてやりたい」

「ひっ、ひぃ……!?」

「でも、それはやめておく。別に、慈悲をかけるわけじゃない。お前達は、殴る価値すらない屑だからだ。ただ……一つだけ、言っておくぞ? 二度と、ふざけたまねをするな。俺達はここを出ていくが……お前達は、他の人に、また同じことをするかもしれないからな。だから……覚えておけ。エステルにしたようなことを、また繰り返すようなら……その時は、また戻ってくるぞ」


 そこまで言って、セツナは村長を放り捨てた。

 村長は尻もちをついて……床が液体で濡れていく。

 どうやら失禁したらしい。


 誰もが動けない中……

 セツナはつまらないものを見るような目で店内を見回した後、静かに酒場を後にした。

『よかった』『続きが気になる』と思っていただけたら、

ブクマや評価をしていただけると、とても励みになります。

よろしくおねがいします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ