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39話 娘とのんびりする

 悪魔の襲来から一週間が経った。

 悪魔という驚異が消えたことで、人々は活気を取り戻して、街は順調に復興していた。


 ちなみに、あの悪魔を倒したのが俺ということは秘密だ。

 バレると面倒なことになりそうなので、名乗り出るようなことはしていない。

 悪魔討伐を依頼してきた兵士には口止めをしておいた。


 領主は俺のことを探しているみたいだが……

 利用されるだけかもしれないので、わざわざ表舞台に立つ理由はない。

 今の俺は、エステルがいればそれでいい。


 そんなエステルはというと……


「おとうさん、フィンちゃんとでかけてくるね?」


 かもめ亭の一階でのんびりコーヒーを飲んでいると、エステルとフィンの姿が見えた。

 二人はすっかり仲良しだ。


「怪我をしないように気をつけてな。あと、街の外には出ないように」

「うん、りょーかいだよ」

「エステル、いくわよ! 今日は、公園で綺麗な花を見つけるの!」

「おはな!」


 二人は笑顔で駆けていった。


「子供は元気だなあ」

「あんた、若く見えるのに年寄りくさいことを言うんだね」


 女将が笑顔で話しかけてきた。


 色々とあったけれど……

 今はこうして和解している。

 宿もかもめ亭に変えた。


 女将の態度は都合がいいのでは? と思う人もいるかもしれない。

 しかし、俺は気にしていない。

 人は弱い。

 時に、簡単に悪い方向に流されてしまう。

 だから、致命的な過ちを侵さない限り、その人を見限ることはない。


 ……エステルと出会ったあの村の連中は一線を越えていたので、あっさりと見限ったが。


「ところで、あんたたちは旅をしているんだろう?」

「そうだな」

「これからはどうするんだい?」


 女将の言葉にしばし迷うのだった。




――――――――――




 夜が訪れて……

 エステルと一緒に夕食を食べた。

 今日は奮発して肉だ。

 それにデザートの果物もつけた。

 エステルは耳と尻尾を動かしていて、満面の笑みを見せていた。


 その後は、それぞれ風呂に入り……

 すっきりしたところで二階の部屋へ移動する。


「んー、おとうさん♪」


 エステルが抱きついてきた。

 しっかりと受け止めてやり、その頭を撫でる。


 それから、ふと思う。


 あれから一週間経ったし……

 エステルも今後のことが気になるだろう。

 話をしておかないとな。


「エステル、話がある」

「うん」


 ベッドに並んで座る。


「これからのことなんだけど……」

「んっ」

「エステルはどうしたい? 一応、友だちがほしい、っていう目的は達成したわけだけど」

「えっと……」


 エステルは考えるような仕草をした。

 それから、じっとこちらを見てくる。


「私は、ここにいたいかな……フィンちゃんと離れ離れになりたくない」

「そっか。なら、ここに……」

「でも、おとうさんは?」

「え?」

「おとうさんは、したいことはないの? 私のことだけじゃなくて……おとうさんがやりたいことはないの?」


 驚いた。

 まさか、エステルがそんなことを考えていたなんて。


 自分のことだけではなくて……

 俺のことを考えてくれたことがうれしい。


 自分だけじゃなくて、ちゃんと周りを見ることができる子に育ってくれたんだな。

 俺の力なんて大したことはないと思うが……

 それでも、エステルの教育に少しでも影響があったら、と思う。


「俺のことか……」


 言われて考えてみる。

 全てを失った俺はなにを望むのか?


 俺から全てを奪った国に復讐をする?

 あるいは、別の地で名誉を取り戻す?

 それとも、再び人々のために戦う旅に出る?


 色々と考えてみるけれど、どれもピンと来ない。

 その未来がまるで想像できないというか……違和感しかない。


 俺が今、望んでいるものはまったく別のことだ。

 自分のことなんで、わりとどうでもいいと思っている。

 裏切られた国に復讐をするとか、名誉を取り戻すとか、大して気にしていない。


 俺が一番に考えていることは……


「そうだな。俺の望みは、エステルと一緒にいることかな」

「ふぇ? 私?」

「俺は人生に絶望していた。そんな時、エステルに出会い、救われた。エステルが俺を助けてくれたんだ」

「そう、なの……?」

「だから、エステルのためになにかしたい……いや、ちょっと違うな。エステルと一緒の時間を過ごしたいという感じか」

「んぅ?」


 エステルは困ったような顔をした。

 俺がなにを言いたいのかよくわからないらしい。

 うん、俺もよくわからない。


 あふれる想いをそのまま言葉にしているからな。

 もっと的確に、この想いをまとめるのならば……


「俺は、エステルの親でいるだけで十分なんだよ。それだけで幸せなんだ」

「おとうさん……」

「だから……俺の願いは、これからもエステルの親でいることだ。エステルと一緒にいることだ。その願いを叶えさせてくれないか?」

「……んっ!」


 エステルがぎゅうっと抱きついてきた。


「私も、おとうさんと一緒がいい」

「そっか。ありがとな」

「私の方こそ、ありがとう。おとうさんがおとうさんでよかった……大好き、おとうさん」


 エステルはこちらを見上げて、にっこりと笑う。

 この笑顔が俺の守るべきものであり、俺の全てだ。


 これからも、エステルと一緒の時間を過ごそうと思う。

 いつまでも、ずっと。


「おとうさん」

「うん?」

「ありがとう」

「俺もありがとう」


 笑顔を交わして……

 俺とエステルは一緒のベッドで寝た。


 今日も。

 明日も。

 明後日も。

 一緒に過ごすことになるのだろう。


 もちろん、永遠にというわけにはいかない。

 いつかは死ぬし……

 それ以前に、子供は親元を旅立つものだ。


 それでも、絆は途切れない。

 俺とエステルは血は繋がっていないけれど、でも、親子だと胸を張って言える。

 それだけのものを育んできたという自信がある。


 その想いを胸に。


 俺はこれからも歩いていこう。

 エステルと一緒に。


これにて完結になります。

書きたいことは書いたので、この辺りでいいかな……と。

お付き合いいただいた方、ありがとうございます。

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