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38話 上には上がいる

 グレゴール。


 それが東クリモアを脅かす魔物の名前だ。

 自らを悪魔と名乗り、無数の魔物を配下として引き連れている。


 その力は圧倒的だ。

 荒れ狂う魔物たちを、さらなる暴力でもって従えさせて。

 自信たっぷりに討伐にやってきた人間たちを返り討ちにして。


 そして今……街を一つ、攻め落とそうとしている。


「くくく、こんなものか。なんともあっけないな」


 遥か上空から、災禍に包まれる街を見下ろしているグレゴールは、楽しそうに笑う。

 もうすぐ目的が達成される。

 そう思うと、笑いが止まらない。


 グレゴールの目的は、東クリモアを壊滅させることだ。


 魔物は人に害をなし、破壊と混沌を撒き散らす存在ではあるが……

 意味もなく街を壊滅させるようなことはしない。


 人々は魔物の存在を恐れている。

 たくさんの人が暮らす場所は、要塞のような堅牢な作りとなっている。

 そのようなところに手を出すとなると、こちらもそれ相応の被害を覚悟しなければならない。


 しかし、グレゴールには、多少の被害が出たとしても東クリモアを落としたい理由があった。

 その理由は、彼の特殊な能力にある。

 グレゴールは人の恐怖を食らう。

 恐怖だけではなくて、絶望、嫉妬、憤怒……ありとあらゆる負の感情を糧として成長する。


 街を一つ、壊滅させればどれだけの餌を得られるだろうか?

 それを喰らえば、どれだけ成長できるだろうか?


 全ては己の力とするために。

 それだけのために、グレゴールは魔物を引き連れて東クリモアを襲い、破壊と混沌を撒き散らしていた。


 最初に生贄を要求したのは、単なる時間稼ぎ。

 東クリモアの様子を観察するためだ。

 そして、東クリモアには自分に敵う存在はいないと確信した。

 機は熟したと判断して、攻め込んだ


「これで俺はさらに強くなる。さらなる力を手に入れることができる。この調子ならば、いずれ、四天王に匹敵するほどの力を……いや、俺が新たな魔王になることもできる! 魔王さまが倒れた今……俺が新しい魔王となって、全ての魔物を導くのだ!」


 グレゴールは己の力に酔いしれていた。

 それも仕方ない。

 それだけの力を持っているのだから。


「ん?」


 眼下でなにかが光った。


 人間だろうか?

 魔法か弓か……攻撃をしかけてきたのだろう。


 愚かな。

 グレゴ―ルは笑う。

 その程度の攻撃で、自分を傷つけられると思っているのか?

 攻撃とカウントするのも愚かしい。


 くだらない真似をして、いい気分に水を刺したことを後悔させてやろう。

 グレゴールは冷たい笑みを浮かべながら、右手に魔力を集中させて……


 ザシュッ!!!


「……は?」


 右手が根本から斬り飛ばされた。

 何が起きたのか理解できず、グレゴールが固まる。


 すぐに血が吹き出した。

 遅れて激痛が訪れる。


「がっ、ぐあああああ!? 俺の、俺の腕があああああっ!!!?」


 いったい、なにが起きた?

 どうして右腕を失っている?

 人間の攻撃なのか?

 しかし、自分に傷を負わせることができる人間なんていない。

 いるわけがない!


 グレゴールは混乱した頭で、そのような雑多な思考を巡らせて……

 そして、そんなつまらない考えが最後になった。


 一泊遅れて飛んできた光の奔流に飲み込まれて……


「がっ……あ、あああぁ!? こんな、バカな……」


 グレゴールは消滅した。




――――――――――




「さて、こんなところでどうだ?」


 空中に浮かぶ強力な魔力反応を持つ敵を、地上から撃墜した。

 さすがに空を飛ぶことはできないが、魔法で撃ち落とすことはできる。


 敵は油断していたのかもしれない。

 避けることなく、防ぐこともなく……

 俺の攻撃をまともに食らい、そのまま消滅した。


 その次の瞬間だった。


 街中で暴れまわる魔物たちが動揺した。

 唸り声をあげたり、うろたえてみせたり……


「まさか、今のがこいつらの主だったのか?」


 それにしては弱すぎる。

 二撃で終わってしまったではないか。


 疑問に思うけれど……

 しかし、魔物たちの動揺はすさまじく、恐慌状態に陥っていた。


「あんなヤツが主か……大悪魔を名乗るには、色々と足りないな」


 俺は右手に魔力を集中させて……


「アクセス・イフリート!」


 空高く、炎の塊を撃ち出した。


 炎はどんどん巨大になり……

 地上に降りた太陽のごとく、街の上空で燃え盛る。


 やがて……


 巨大な炎の塊は爆発、四散した。

 無数の炎の槍となり、街中に降り注ぐ。

 人や建物に被害を出すことはない。

 魔物のみを狙い、刺し、穿ち、抉る。


 さながら、それは天の裁きのようだった。


「……こんなところか」


 周囲の気配を探ると、魔物の気配は全て消えていた。

 全滅だ。


 ただ、さすがに疲れた。

 今のような魔法は、一日に一度しか使えない、とっておきの切り札だ。

 全身がだるく、倦怠感に襲われる。


 ちょっとでも気を抜いたら、倒れてしまいそうだ。

 そのまま眠ることができたら、どれだけ楽だろうか?


 体が疲労を訴えて、眠るように促してくる。

 このまま寝てしまいたい、という欲求に駆られる。


「とはいえ、倒れてなんていられないな」


 早くエステルのところに戻らないと。

 それで、全部終わったと安心させてやらないといけない。


「もう大丈夫だからな」


 これで街は救われた。

 悪魔の脅威に怯えることはない。


 これで、エステルは……


 娘のことを思いながら、俺は帰路を辿った。

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