表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/39

26話 安心できるところ

 街を駆け回りエステルを探して……

 道行く人々にエステルのことを尋ねた。


 さらに、魔法も駆使した。

 個人を探し出すような便利な魔法は習得していないが、エステルはシロと一緒にいる。

 子供とはいえ、ドラゴンなのだからそれなりの魔力を有しているはずだ。

 そう思い、魔力を探知する魔法を使った。


 ……そこまでしたのだけど、エステルを見つけることは叶わなかった。


 人が多すぎるのだ。

 あと、街が広すぎる。


「くそっ!」


 こんなことになるなら、事前に、こうなった時に備えて待ち合わせ場所を決めておくべきだった。

 いや。

 それ以前に、一瞬たりともエステルから目を離すべきじゃなかったんだ。

 それなのに俺は……


「って、後悔するのは後だ! 今は、とにかく早くエステルを見つけてやらないとっ」


 再び駆け出そうとして……


「……せんかー……」

「うん?」


 どこからともなく、女の子の声が聞こえてきた。

 エステルのものではない。

 ただ、妙に気になる。

 第六感とでもいうべきか……この子のところに行かないといけない。


 そう判断した俺は、女の子の声がする方に向かう。

 近づいていくと、次第にその声が鮮明に聞こえてきた。

 その内容は……


「エステルちゃんのおとうさん、いませんかーーーっ!!!?」

「っ!?」


 今、確かに『エステル』と言った!

 慌てて駆けると、そこには……


「エステル!!!」

「あっ……おとうさんっ!」


 ようやくエステルを見つけることができた。

 こちらに気がついたエステルは、笑顔になり、次いで泣き顔になり、胸に飛び込んできた。


「あう、うううぅ……おとうさん、おとうさん!」

「よかった……怪我はしていないか? 大丈夫か?」

「だい、じょうぶ……うぅ、寂しかった」


 ぎゅっとエステルが抱きついてきた。

 もう離さないというように、たくさんの力を込めている。


「もう、おとうさんと会えないんじゃないか、って……そう考えたら、すごく怖くて……あう、ううう」

「そんなことはないからな。俺はずっと一緒だ。大丈夫だ」

「……うん」

「一人にして悪かった。反省してる」

「ううん……私が、ふらふらしていたのがいけないから……私のせい」

「エステルが気にすることじゃない。こういうことは、親の責任だ」

「そうそう、あなたが悪いわ!」

「……誰だ?」


 見知らぬ女の子にまで悪いと言われてしまった。


「あ、あの……フィンちゃんだよ。私のこと、助けてくれたの」


 エステルがそう説明してくれた。

 よくよく考えてみれば、さきほどの声、この子のものだった。


 歳はエステルと同じくらいだろう。

 長い髪をそれぞれ左右に分けて、リボンで束ねている。

 いわゆる、ツインテールというやつだ。


 瞳はくりくりとしていて、意思の強さを感じられる。

 エステルとは対照的で、活動的な印象を受けた。


 服装も性格に合わせているのか、ズボンをはいていた。

 上はパーカー。

 女の子らしくないのだけど……

 でも、顔を見ると一目で女の子とわかるくらいの美少女だ。

 将来が楽しみだろう。


「そっか、君が……」

「あたしがいなければ、その子はどうなっていたか……感謝してもいいのよ?」

「ありがとう。フィンちゃんはエステルの恩人だ。どれだけ感謝してもしきれない……本当にありがとう」


 おもいきり頭を下げた。

 すると、フィンがあたふたと慌てる。


「えっ、や、ちょ……ほんとにそんなことをするなんて……いやいや、今のはただの冗談だから。いい大人が子供にそんなことしないでくださいよ!」

「いや、そういうわけにはいかない。エステルを助けてくれたんだ。大人も子供も関係ない。一人の人として、フィンちゃんにお礼を言いたい」

「そ、そう……えっと……うん。わかりました。そういうことなら、あなたの感謝の気持ちをしっかりと受け取りたいと思います」


 大人顔負けの対応力を見せるフィンちゃん。

 見た目に反して……というと失礼かもしれないが、なかなかのしっかり者みたいだ。


「それじゃあ、あたしはこれで」

「いっちゃうの……?」


 フィンちゃんが立ち去ろうとすると、エステルが寂しそうな顔をした。

 自分を助けてくれたこともあり、それなりに心を許しているみたいだ。


「お父さんが一緒なら、もう大丈夫でしょ?」

「……うん」

「あ、エステルのお父さんも、もうエステルを迷子になんてさせないてくださいよ? きちんと見ていること!」

「わかった。注意するよ」

「よろしい。というわけで、あたしの役目はここまでよ。というか、店番放り出しているから、そろそろ戻らないとまずいのよね……」

「店番?」

「あ、なんでもないです。じゃあ、縁があればまた会いましょう、エステル。ばいばい」

「……ばいばい」


 フィンちゃんが手を振り……

 それに応えるように、エステルも手を振る。


 にっこりと気持ちのいい笑みを見せて、フィンちゃんは人混みの中に消えた。

 その背中が見えなくなるまで、エステルは手を振り続けていた。


「いい子だったな」

「……うん」


 あんな子がエステルの友だちになってくれれば……と思う。

 とはいえ、俺がどうこうできる問題じゃない。

 こればかりは、エステルが自分でどうにかするしかないのだ。

 俺にできることといえば、エステルが困った時にアドバイスをするくらいか。


 もっとも、俺も友だちが多いわけじゃないから、本格的なアドバイスはできない。

 友だちというか、一緒にいたのは仲間だからな。


 あいつら、どうしているかな……?


 魔王討伐の旅を一緒にした仲間のことを思い出した。

 魔王を倒した後、国に帰る前に別れたのだけど……元気にしているだろうか?

 俺のように、あらぬ冤罪をかけられて国を追われたりしていなければいいのだけど。


「おとうさん?」

「あ、悪い悪い。ちょっとぼーっとしてた」


 声をかけられて我に帰る。

 とはいえ、エステルのことを忘れていたわけじゃない。

 物思いに耽っている間も、エステルの手をしっかりと握り、離さないでいた。


 また、同じ失敗を繰り返すわけにはいかないからな。

 そんなことをしたら、エステルにもフィンちゃんにも申し訳ない。


「それじゃあ、行こうか。まずは宿を探そう」

「うん」

「……エステル?」

「うん?」

「なにをしているんだ?」


 エステルが俺の腰に手を回すようにして、ぎゅっと抱きついていた。


「もう、一人になりたくないから……」


 どうやら、再び迷子になることを恐れているらしい。

 気持ちはわからないでもないが、そんなことをされたら歩きにくい。

 とはいえ、エステルの気持ちを無視したくないし……


「じゃあ、おんぶでもするか?」

「うん!」


 うれしそうにするエステルをおんぶした。


「わぁ、わぁ。高いね」

「そうだな、高いぞー」

「えへへ♪」


 こうすればはぐれることはないし、エステルもごきげんだ。

 一石二鳥というやつだな。


「ピィ♪」


 エステルの頭の上に乗るシロも、ごきげんだった。

 一石三鳥だったか。


「シロも、エステルと一緒にいてくれてありがとうな」

「ピィ!」


 気にするな、というようにシロが鳴いた。

 頼りになるヤツだ。


「おとうさん、行こう?」

「ああ。ゆっくりと街を見て回りながら、宿を探そうか」


 観光がてら、のんびりと街を見て回る。

 まだ日は高いし、これくらいの規模の街になれば宿もたくさんあるだろうから、それほど急ぐこともないだろう。


 ゆっくりと街を見て回り……

 それから、一つの宿にたどり着いた。


『かもめ亭』


 小さなところだけど、綺麗な外観をしていて、丁寧に掃除をされている。

 たぶん、当たりだろう。


「ここにするか」

「うん」


 エステルが同意しれくれたので、宿の中へ。


「いらっしゃいませー!」

「おや?」


 そこで俺達を出迎えたのは、フィンちゃんだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ