21話 拾い物
弁当を食べた後、そのまま休憩をとることにした。
食べてからいきなり動くのは体に悪い。
俺はそこまで繊細な体をしていないが、エステルは別だ。
子供の体は、ちょっとしたことでダウンしてしまうと聞く。
しかも、その兆候を見極めることが難しく、突然、ぱったりと倒れると聞く。
注意して注意して注意して……
過保護になるくらいがちょうどいいのだ。
……という話を女将から聞いた。
一度、エステルを風邪でダウンさせてしまった失敗があるため、俺は素直に女将のアドバイスを聞き入れることにして……
こうして、ちょくちょくと休憩を挟むことにした、というわけだ。
「ん~♪」
エステルは俺の目の届く範囲で、花を摘んでいた。
女の子だからかわいいものが好きなんだろう。
いくつかの花を摘み……
とててて、とこちらに戻ってくる。
そして、はい、と花を差し出してきた。
「これは?」
「えと……おとうさんにあげるね」
「俺に? いいのか?」
「うん」
「ありがとうな。うれしいよ」
「えへへ♪」
頭を撫でてやると、尻尾がひょこひょこと揺れた。
一方の俺は、感動に震えていた。
父娘の関係になってからの初めての贈り物だ。
これは、一生大事にしなければならない。
「アクセス・クロノス」
俺は魔法を使い、花の時間を凍結させた。
こうしておけば、いつまで経っても花が劣化することはない。
以前もらった花冠も、こうして保存してある。
ちなみに、今の魔法は魔力の半分くらいを使う、上級魔法だ。
たかが花にそんなことを……
と思う人もいるかもしれない。
しかし、考えて欲しい。
娘からの贈り物なのだ。
娘ががんばって花を摘んで、笑顔で差し出してくれたものなのだ。
ずっと持っていたい、と思うのは自然なことだろう?
うん、俺はごくごく普通のことをしているだけだ。
ズレているわけじゃないぞ?
「うぅ?」
ふと、エステルが明後日の方向を見た。
猫耳をぴょこぴょこと動かしている。
なにか聞こえるのだろうか?
俺にはなにも聞こえないが……
「おとうさん、あっちに行ってもいい?」
「俺もついていこうか?」
「ううん、大丈夫」
どうやら、一人で探検をしたいみたいだ。
親を嫌うわけではなくて、時に、子供は一人で行動することを好むと聞いた。
それ故のものだろう。
……嫌われているわけじゃないよな?
「ちょっとまってくれ」
意識を集中して、エステルが指さした方の気配を探る。
「アクセス・シルフ」
さらに魔法を使い、探知した。
小動物などの気配はあるが、魔物はいない。
人もいない。
危ない地形ということもなさそうだから……
「わかった、行ってもいいぞ」
「ん……ありがと」
「ただ、あまり長く離れないように。30分くらいで戻ってくるんだぞ?」
「うん」
エステルは尻尾をひょこひょこと揺らして、駆けていった。
その後ろ姿を見て、自然と笑みを浮かべる。
「子供は元気だな」
元とはいえ勇者なのだけど、そんな俺でも負けてしまうのでは? と思うくらい、エステルについていけない時がある。
遊んでいる時の子供の体力は無限だな。
ふと、そんなことを思う。
「俺はゆっくりしているか」
やわらかな風に吹かれながら、俺は自然の音色に耳を傾けた。
――――――――――
「おとうさん」
「おかえ……り?」
30分ほど経ったところでエステルが戻ってきた。
なぜか……エステルのお腹がぽっこりと膨らんでいた。
エステルは、そんなお腹を両手で支えている。
「え、エステル……それは?」
「え、えと、その……あう」
エステルは気まずそうに視線を逸らした。
ど、どういうことだ?
エステルのお腹は、まるで妊婦のようじゃないか……
まさか妊娠!?
彼氏がいたのか!?
それで手を出されたのか!?
どこの馬の骨だ、俺の娘に手を出すなんて!!!
俺の許可なく付き合うだけじゃなくて、妊娠させるなんて……
「いやいやいや」
落ち着け、俺。
いくらなんでも、そんなわけないだろう。
エステルはまだ子供だし、そもそも、30分前まではなんともなかった。
彼氏とか妊娠とかありえない。
エステルのことが大事だからといって、思考を暴走させてはいけない。
単純に考えて、なにかを服の下に隠していると考えるのが妥当だろう。
「エステル、お腹になにを隠しているんだ?」
「な、なにも……」
「いや、どこからどう見ても隠しているだろう?」
「そ、そんなことないよ……おとうさんの気のせい。おとうさんはなにも見ていない」
「無理があるだろ、それ」
エステルが俺に隠し事をするなんて……
成長したと喜ぶべきか、それとも、悲しむべきか。
複雑な気分になりながら、言葉を続ける。
「なにか拾ってきたのか?」
「えと、えと……」
「おとうさんにも見せてくれないか?」
「……怒らない?」
「怒らない」
「本当に?」
「本当だ。エステルは、俺のことが信じられないか?」
「……ううん。世界で一番、信じている」
「ぐはっ」
ものすごくうれしいことを言われて、悶絶しそうになった。
こんなにかわいい娘に、世界で一番、なんて言われたら誰でもこうなるだろう。
俺の気持ち、わかってほしい。
「そんな状態で旅はできないだろう? だから、教えてくれないか?」
「……うん」
迷うような間を置いて、エステルはコクリと頷いた。
そして、服の下に隠していたものを出した。
「これは……卵?」
エステルが取り出したものは、卵だった。
ニワトリなどではなくて、もっともっと大きい。
これは……
「魔物の卵か」
珍しいことだけど、魔物も卵を生んで繁殖することがある。
本当に珍しいことなので、あまり確認されていない。
色々と探知をしたけれど……
さすがに、魔物の卵まで探り当てることはできなかったみたいだ。
「これ、どこで?」
「ん……なんか、ふわふわって感じて、気になって……様子を見に行ったら、木の陰に放置されていたの」
「捨てられた卵なのか?」
「私……この子を育てる!」
エステルが意気込んで言う。
捨てられていたということで、自分を重ねてみているのかもしれない。
しかし、魔物の卵となると……
ピシッ。
「あっ!?」
どうしようかと迷っていると、卵にヒビが入った。




