表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/39

19話 これからのこと

 領主の事件から一週間が経過した。

 俺とエステルは、未だ村に滞在している。

 というのも……


「二人なら好きなだけ泊まってくれて構わないよ。もちろん、宿代はいらないさ。悪いことをしたし……それに、ろくでなしの領主を殴って、この村を救ってもらったからね」


 そんなことを女将に言われて、滞在を勧められたのだ。

 別に急ぐ旅でもない。

 そもそもは、エステルが穏やかに暮らせるところを求めての旅なのだ。


 この村は子供がいなくて、老人が多い。

 エステルは老人達から実の孫のようにかわいがられていた。

 魔族ということは誰も気にしていないらしく、ダダ甘だ。


 散歩に出れば話しかけられて、頭を撫でられて、甘い果物をもらい……


「ん~♪」


 最初はビクビクしていたが、今ではすっかり慣れた様子で、エステルは楽しそうに村での日々を過ごしていた。

 このまま、のんびりとするのも悪くない。

 そんなことを思い始めた、ある日のことだ。


 夜。


 エステルが寝た後、俺は下に降りて、一人で酒を飲んでいた。

 エステルと一緒に過ごす時間は大切なのだけど……

 まだまだ子供だから、寝る時間が早いんだよな。


 エステルが寝るまでは傍についているのだけど……

 その後は、こうして部屋を抜け出して、一人でゆっくりと過ごしている。


 子供の体力はすごいからな。

 一日中、遊びに付き合うとヘトヘトになってしまう。

 こうして夜に休んでおかないと、翌日が保たないのだ。


「ふう」


 酒を飲み、つまみにチーズを食べる。

 心地いい時間に、日々の疲れが癒されていくみたいだ。


「ちょっといいかい?」


 のんびりしていると、女将が話しかけてきた。


「酒を飲んでるところ悪いんだけど、話があるんだ」

「話? どんなものだ?」


 やはり、宿代の話だろうか?

 女将は構わないと言ってくれているが、他にほとんど客がいない状況だと、厳しいだろうし……

 まあ、そうだとしても問題はない。

 キャラバンに剣を売った金はまだ残っている。


 そんなことを予想するが、思わぬことを問いかけられてしまう。


「あんた……この村に住むつもりはないかい?」

「え?」


 予想外の言葉に驚いてしまう。


「どうして、そんな話を?」

「エステルちゃんは村に馴染んでいるみたいだからね。このままここで暮らすのも、悪くないことじゃないか、って思ったんだ。あと、あんたもここの生活を気に入っているじゃないかい?」

「そう、だな……悪くないとは思っている」


 今まで戦いばかりで、こんな風にのんびり過ごすことなんてできなかった。

 この村に来て、始めてゆっくりすることができた。

 ここの生活は悪くないと思い始めている。


「村の仲間が増えることはうれしいことだし、それが二人なら大歓迎だよ」

「……その話は、他の人も知っているのか?」

「ああ、もちろんさ。私の独断じゃなくて、村のみんなで話し合って決めたことだよ」

「そうか」


 この村でエステルと一緒にのんびりと過ごす……それも悪くない。


 ただ、俺一人で決めるわけにはいかない。

 エステルの意見を聞いて、それからでないとダメだ。


「少し待ってくれないか? まずは、エステルと話し合いたい」

「ああ、わかっているよ。答えはいつでもいいからね」

「ありがとう」


 女将の優しい顔に癒やされるものを感じながら、もう一口、酒を飲んだ。




――――――――――




 翌朝。

 朝食を終えた後、いつもなら散歩に出るのだけど、今日は部屋に戻ることにした。

 いつもと違う行動に、エステルが不思議そうにしている。


「お散歩……行かないの?」

「その前に、話しておきたいことがあるんだ」

「お話?」

「ああ。実は……」


 昨夜の女将の話をした。

 エステルの顔が真面目なものになる。


「……と、いうわけなんだ」

「……」

「俺としては、この村で暮らすのも悪くない選択肢だと思う。皆、良い人だからな。東クリモアで受け入れられるかわからないし……ここに腰を落ち着けるのもアリじゃないか?」

「んぅ……良いと思う、けど」

「けど?」

「あぅ……」


 問いかけると、エステルは微妙な顔をして、ふるふると首を横に振る。


「ううん……なんでも、ないよ」


 隠し事というか、自分の気持ちを明らかにしていないことは確かだ。

 今まで劣悪な環境にいたせいか、エステルは自分の意思を表にすることがない。

 それは寂しいことだ。


「俺はエステルのなんだ?」

「……おとうさん?」

「ああ、そうだ。俺は、エステルのおとうさんだ。家族だから、隠し事はしないでほしい」

「……」

「もちろん、家族だからってなんでも話せるわけじゃないし、秘密にしたいことの一つや二つ、あると思う。でも、俺に対して遠慮をしているなら……そういうことはなしにしてほしい。気にしないで、素直な気持ちを聞かせてほしい。それが家族っていうものだろう?」

「おとうさん……んっ、ごめんなさい。私、ちょっと我慢してた……おとうさんが言うのなら、それでいい、って……私の気持ち、なかったことにしようとしてた」

「謝る必要はないぞ。エステルは、もっと自由にしていいからな。ただ、それだけの話だ」

「んっ」


 エステルは気を取り直した様子で、俺の顔をしっかりと見た。

 そして、自分の口で自分の気持ちを伝える。


「この村は……とても、いいところだよ? みんな、優しい……」

「そうだな、優しいな」

「ここで暮らすことができたら、うれしいと思う。でも、その……私のわがまま、なんだけど……その……」

「大丈夫だ。ゆっくりでいいから……エステルの気持ち、教えてくれないか?」

「あの、ね……? 友達が……ほしいなあ、って」


 なるほど、と納得した。


 この村は確かに過ごしやすい。

 誰も彼も優しくしてくれて、エステルが魔族であることを理由に迫害する人もいない。


 しかし、子供がいない。

 エステルの友達になれるような人がいない。

 小さい子供にしてみれば、大きな問題だろう。

 ましてや、今までのエステルの境遇を考えると、それを単なるわがままと片付けることはできなかった。


 家族がいなくて、ずっと独りで生きてきて……

 孤独の中にいたエステルが、同い年の友達を求めることのなにが悪いか?

 悪いことなんてない。

 とてもまっすぐで、正しい意見だ。


「そっか、エステルは友達がほしいんだな」

「んぅ……一緒に遊べる子がいたら、すごくうれしいかな……って」


 エステルがしょんぼりしてしまう。

 わがままを言っているのではないか? と心配なのだろう。


 その心配を解消するように、頭を撫でてやる。


「問題ないぞ。エステルが言うことは、誰でも望むようなことだ。わがままなんかじゃない」

「本当に?」

「ああ。友達が欲しいなんて、当たり前の気持ちを否定するつもりはないさ。というか、今まで気づけなかった俺に問題があるな、悪かった」

「ううんっ……おとうさんは、すごくよくしてくれて……私、おとうさんと一緒にいられて幸せだよ?」

「ぐふっ!?」


 エステルの笑顔にノックアウトされるかと思った。


「でも……友達もいたら、もっとうれしいかな……って。だから、私のわがまま」

「いいさ。それがわがままだとしても……そのわがままを叶えるのが大人であり、おとうさんの役目だ」

「ん……ありがと、おとうさん」


 エステルがぎゅうっと抱きついてきた。

 尻尾がうれしそうにふりふりと揺れている。


 まだまだ甘えたいざかりの年頃だ。

 友達が欲しいというのも、当たり前の感情だろう。

 それを阻害することなく、叶えてやらないといけないな。


「よしっ、それじゃあ、今後の方針はこれで決まりだ。村の人の誘いはうれしいが……俺達はここを出ることにしよう」

「んっ」

「当初の予定通り、東クリモアを目指そうか。あそこならたくさんの人がいるし、子供もいっぱいいるだろう」

「友達……できるかな?」

「できるさ。100人作れるぞ」

「わっ、わっ。そんなにいたら、大変なことになっちゃう……毎日毎日、ずっと遊べるよ」


 友達もいいけれど、俺のことも忘れないでくれよ?

 ちょっとだけ、そんな危機感を抱く俺だった。

『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、

評価やブックマークをしていただけると、すごくうれしいです。

よろしくおねがいします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ