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16話 俺の娘に手を出すな

 ブランドールの屋敷に引き返した。

 出る時には見えなかった男たちが屋敷の周りで待機していた。

 それぞれ、剣や槍などで武装していた。

 女将が言っていた、ブランドールが雇ったという私兵だろう。


 でも、関係ない。


「おっと、ここは通行止めだ」


 屋敷に入ろうとしたら、男の一人が道を塞いだ。

 これみよがしに剣を抜いて、刃を見せつけてくる。


「一度しか言わないぞ……そこをどけ」

「だから、ここは通行止めだって言ってるだろ?」


 他の私兵たちも集まってきた。

 それぞれ、ニヤニヤとした表情で俺を見ている。


 こいつら……

 領主に雇われているだけじゃなくて、その悪事を知りつつ、放置しているのか。


「ほら」


 男が小さな袋を投げてきた。

 袋は俺の胸に当たり、そのまま地面に落ちる。


 チャリン、と金属音がした。

 たぶん、硬貨が入っているのだろう。


「そいつを持って失せな。魔族のガキってことを考えると、良い値で売れたと思うぜ? そいつで上等な酒でも飲んで、あんなガキのことは忘れぐふぁっ!!!?」


 不快な言葉を最後まで聞いていられず、男を殴り飛ばした。

 男は地面に転がり、ピクピクと痙攣する。


 生きていたか……

 全力で殴ったというのに、しぶといヤツだ。


「貴様!」

「俺たちは領主さまに雇われているんだぞ!?」

「ここで刃を抜くということは、領主さまに逆らうということだ。そのことを理解しているのか!?」

「そこをどけ、と言ったはずだ」


 男たちのくだらない戯言に付き合うつもりはない。


 領主に逆らう?

 そんなこと、どうでもいい。


 相手が領主だろうとなんだろうと……

 エステルに危害を加えるのならば、俺の敵だ!


「てめえっ!」

「許可は降りているんだ、殺せっ」

「死ねや!!!」


 男たちが刃を抜いて、一斉に斬りかかってきた。

 逃げる隙間を与えないように、四方八方から刃が襲いかかる。


 逃げる場がないというのならば、受け止めればいい。


「アクセス・ノーム!」


 土の魔法を使い、石の盾を作り出した。

 全ての刃が石の盾に阻まれる。


 剣や槍が弾かれて、男たちの体勢が崩れた。

 そこを見逃すことなく、拳や脚を打ち込む。


 一撃で意識を刈り取り……

 すぐに包囲網は崩壊した。


「な、なんだコイツの力は……」

「つ、つえぇ……」

「無茶苦茶だ……なにをしたのか、まるで見えなかった……」


 男たちが苦痛にうめき、地面に転がる。

 これで道ができた。


 ……そう思ったのだけど。


「いたぞっ、あそこだ!」

「アイツを殺してしまえっ」


 屋敷の中から増援が湧いて出てきた。

 うっとうしい。

 早くエステルのところへ行かないといけないのに……


「邪魔だ」


 俺は手の平をかざして、


「アクセス・イフリート!」


 炎の魔法を使い、人の大きさほどもある火球を撃ち出した。

 男たちが悲鳴をあげて逃げようとするが……遅い。


 火球が着弾して、爆発。

 空気が震えた。


 増援の私兵たちはまとめて吹き飛び……

 一瞬で綺麗に掃除された。




――――――――――




「エステルっ!」


 私兵を薙ぎ払い、部屋に飛び込む。

 すると……


「な、なんだ……!?」


 服を脱いだ半裸のブランドールが、エステルに襲いかかろうとしていた。


「あぅ……セツナぁ……」


 エステルは怯えるように目に涙を溜めていて……

 俺を見ると、助けを求めるように手をこちらに伸ばした。


「貴様、この子供の……薬草を採りに行ったのではなかったのか?」


 醜く脂肪がついた体を隠そうとせず、ブランドールは俺を睨みつけてきた。

 お楽しみの時間を邪魔されて怒り心頭みたいだ。


 しかし、怒りを覚えているのは俺も同じだ。

 激怒していると言ってもいい。


 コイツはエステルを襲おうとした。

 エステルを泣かせた。

 絶対に許せない!


「傭兵連中はどうしたというのだ……なんのために高い金を支払っている思っている。後で、全員、クビにしなければいけないな」


 一歩、前に出た。


「そこで止まれ、下賎な者よ。私を誰だと思っている? 領主、ブランドール様だ」


 さらに一歩、前に出た。


「本来ならば、貴様などが私の顔を見ることは叶わない。それほどの身分の差があるのだ」


 話を無視して、前に進む。


 そんな俺を見て、ブランドールが挑発的な笑みを浮かべる。


「ほう……貴様、もしかして、この私を殴ろうとしているのか? 領主である私に牙を剥こうとしているのか? それは愚かな行為だ。オススメできないぞ? 私に手をあげれば、貴様は国家反逆罪で逮捕されるだろう」


 怒りに突き動かされて……

 さらに距離を詰めていく。


「逮捕は免れないだろう。そして、逮捕されれば、最低でも奴隷に堕ちるだろうな。私に手をあげたとなれば、それはとても罪深いことだ。許されることではない。簡単に死刑にするようなことはしないで、一生、奴隷としての苦しみを与えてやろう。さあ、愚かな行為は止めて引き返すがいい。今なら見逃してやる」


 うるさい。

 一刻も早く、この男を黙らせないと。


 俺は拳を強く握りしめた。


 そんな俺を見て、ブランドールが焦りの表情を浮かべた。


「お、おいっ……わかっているのか? この私に手をあげるということは、極刑に等しい重罪なのだぞ? まともに生きていくことなど、できなくなるのだぞ?」


 俺はゆっくりと拳を振り上げる。


 ブランドールの顔がひきつった。


「ま、待て待て待て! やめろっ、私を誰だと思っている!? 領主のブランドールだぞ!!!?」

「……」

「それ以上の愚行は許さぬ! 許され……や、やめっ……来るな! こっちに来るな!」

「……」

「やめろやめろやめろおおおおおぉっ、こんなことが許されるはずが……来るなっ、来るなあああああぁっ!!!」

「俺の娘に手を出すなっ!!!!!」


 ブランドールを全力で殴りつけた。


 ひぎゃっ!? とカエルが潰れたような悲鳴をあげて、ブランドールが吹き飛んで……

 窓を突き破り、そのまま外まで吹き飛ばされた。


 俺に殴られた衝撃なのか、手足が変な方向に曲がり……

 ガラスの破片で全身が血まみれになり、ピクピクと震えているが……ざまあみろ、という感想しか湧いてこない。


 俺の娘に手を出そうとするから、そうなるのだ。


「エステル、大丈夫か?」


 そっと、ベッドに寝ているエステルを抱き起こした。

 エステルは俺を見て、ほっとした表情になり……

 ゆっくりと抱きついてきた。


「セツナぁ……セツナぁ……」

「すまない……怖い思いをさせて、本当にすまない……」

「うう、ん……私なら、大丈夫……」


 エステルは涙を浮かべながらも、にっこりと笑い……


「だって……絶対、に……セツナが助けに来てくれる、って……信じていたから」


 信頼しきった顔で、そんなことを言うのだった。

 その言葉を受けて、エステルを抱きしめる。


「ああ、もちろんだ……エステルは俺が守る」

「ん……」

「約束したからな。だから、安心していいぞ」

「あり、がと……えへへ♪」


 エステルは甘えるようにこちらに身を寄せてきた。

 そんなエステルを、さらにぎゅうっと抱きしめて……


 しばらくの間、穏やかな時間を過ごした。

『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、

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