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14話 体調不良

 旅を始めて四日が経過した。

 計算では、東クリモアまで残り三日だ。


 まあ、エステルのペースに合わせているから、もう少しかかるかもしれない。

 多めに見ても、五日といったところだろう。

 食料も水も十分にあるから、なにも問題はない。

 そう思っていたのだけど……


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 隣を歩くエステルの息が荒い。

 それに、たまにふらふらしている。


「エステル。大丈夫か?」

「ん……大丈夫……」

「本当に?」

「へい……き」


 エステルはそう言うものの、とても大丈夫そうには見えない。

 顔色が悪いし、妙な汗もかいている。


「ちょっとストップ」


 エステルを立ち止まらせて、その額に触れる。


「……熱いな」


 明らかに熱があった。

 これだけの熱があれば、間違いなく自分でもわかっていただろうに。


「体調、悪いんだろう? どうして言わなかったんだ?」

「それは……」

「まあ、いいか。とにかく、どうしたものかな……」


 今はエステルのことを優先させないと。


「確か、この近くに村があるっていう話だよな」


 旅に出る前に、そんな話をレイから聞いた。

 この辺の地理は詳しくないので、東クリモアのような大きな街しかわからないが……

 レイの話によると、東クリモアに続く街道の近くに、いくつか村が点在しているらしい。


 どういう村なのか?

 そこらわからないので、不安でもある。

 もしかしたら、エステルがいたような村かもしれないが……

 この際、選り好みはしていられないか。

 屋根のあるところで休ませて、薬を飲ませないといけない。

 いざという時は俺が絶対に守る。


「エステル、俺の背中に」

「でも……」

「いいから。ほら」

「……ん」


 しゃがむと、エステルは俺の背中に乗った。

 やっぱり軽いな……

 そんなことを改めて思いながら、俺は村を探して歩き始めた。




――――――――――




 幸いというべきか、一時間ほど歩いたところで村を見つけることができた。

 途中で街道が二手に分かれていて……

 小さい道をゆくと、村にたどり着いたのだ。


 小さい村だ。

 古い家屋が並んでいて、畑が点在していて……それだけで、他になにもない。


 ただ、立ち寄る旅人がいるらしく、雑貨店と宿屋がそれぞれ一軒あった。

 俺はエステルを背負ったまま、宿屋の扉を開ける。


「いらっしゃい」


 恰幅のいい女性に迎えられた。

 外観はややボロいが、中は綺麗だった。


「旅人さんかい? こんな辺鄙な村にやってくるなんて、珍しいねえ。どこから……」

「すまない。部屋は空いているか?」


 話し相手に飢えているらしく、女性はあれこれと話しかけてきたが……

 今は相手をしている時間がない。

 話を遮り、問いかけた。


「ん? まあ、こんなところだからね。いつも空いているよ」

「一番いい部屋を頼む。期間は……ひとまず、三日だ」

「やけに急いでいるんだね。どうかしたのかい?」

「この子が……」


 背中におぶるエステルを見せる。

 その際、かぶせていた麦わら帽子が落ちてしまう。


 エステルの猫耳が露出して……

 それを見た女性が顔色を変える。


「その子は……」


 まずい。

 魔族ということで追い出されるだろうか?

 思わず身構えてしまうが……


「……悪いことは言わない。今すぐに、この村を出ていった方がいいよ」


 女性はエステルに対して嫌悪感を見せるわけではなく、心配するような顔を見せた。

 魔族ということで、エステルを嫌っているわけではないらしい。

 でも、それならどうして、出て行けなんてことを……?


「ここにいると、きっと面倒なことに巻き込まれる。その子のためを思うなら、出ていくんだ」

「……たぶん、善意で言ってくれているんだろうな。理由はわからないが、感謝する」

「なら……」

「でも、ダメなんだ。エステルは……この子は、熱を出してしまっている。どこかで休ませないと」

「なんだって?」


 女性がエステルの顔を覗き込む。

 そして、難しい顔をした。


「確かに、顔色が悪いね……風邪かい?」

「わからない。だから、まずはここで休ませたいんだが……」

「それは……でもね……」


 なぜ、女性は迷っているのだろうか?

 泊められない事情でもあるのだろうか?


「これはこれは、嘆かわしいね」


 扉が開く音がして……

 振り返ると、見知らぬ男がいた。


 村人ではないだろう。

 豪華な服に身を包み、宝飾品を飾っている。

 さらに、護衛らしき兵士を二人、連れていた。


「領主様……」


 女性の顔が青くなる。


 この男が領主?


「子のために必死になる親を追い払おうとするなんて。魔族だからといって態度を変えるなどということは、恥ずべき行為ではないかな?」

「そ、そんなっ……あたしはそういうつもりではなくてですね……」

「では、どういうつもりなのかな?」

「うっ……」


 領主に睨まれて、女性は何も言えなくなる。


 どういうことだろう?

 この人は、エステルが魔族ということに嫌悪感を見せていなかったが……

 俺が見抜けなかっただけで、内心では疎ましく思っていたのだろうか?


 わからない……

 わからないが、今は、そんなことはどうでもいい。

 早くエステルを休ませてあげないと……!


「私は、この村と、その他の村をいくつか束ねている領主のブランドールという。君は?」

「……俺はセツナ。この子はエステルだ」

「ふむ。旅の途中なのかな?」

「ああ。それで、この子が熱を出してしまって……」

「休めるところを探しているのなら、ウチに来るかね?」


 思わぬ申し出に、目を丸くしてしまう。


「少し歩くことになるが……この村で仕事をするために建てた屋敷があるのだよ。そこでなら、その子をしっかりと休ませることができるだろう」

「いいのか……?」

「もちろん、構わないとも。困った時はお互い様だろう?」


 そう言うブランドールは、じっとエステルを見つめていた。

 どこか、粘着質な感情を感じる。

 あまりいい感じはしない。


 ただ、これ以上、迷っている時間はない。

 時間が経つにつれて、エステルの体調はどんどん悪くなっていくのだから。


「……わかった。世話になる」

「うむ、うむ。懸命な判断だ。では、我が家へ行くとしよう」


 ……こうして、俺とエステルはブランドールの屋敷で世話になることになった。

『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、

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