1話 追放
「勇者セツナよ。そなたを国家反逆罪の容疑で投獄する」
王城にある謁見の間。
その玉座に座る王は、冷たい表情で、そう言い放った。
その言葉を合図にしたように、左右に並んでいた兵士達が剣を構える。
謁見の間に続く扉は閉じられて、盾を構える兵士達が道を塞いだ。
「なっ……これは、いったい……どういうことですか!? どうして、国家反逆罪なんて……俺はなにもしていません!」
俺は勇者だ。
人々のために戦うことはあるけれど、同じ人に刃を向けたことはない。
断言してもいい。
そんなことは、一度もしていない。
それなのに、この扱いは……
いったい、どういうことなんだ!?
「勇者セツナよ……魔王討伐の任、ごくろうだった。そなたが魔王を倒してくれたおかげで、この世界は平和になるであろう」
「そうだっ、俺はなにもしていない! 俺は、俺の使命を果たしただけだ! それなのに、どうして……!?」
「恐ろしいのだよ」
「え?」
まったく予想外の言葉を聞かされて、思考が停止してしまう。
その間に、王は言葉を並べていく。
「魔王は強大な存在であった。大地を割り、空を裂き、海を切る……ヤツに滅ぼされた国は数知れない。それほどまでに強大な存在であった。そんな魔王を、おぬしは最後には単身で討伐してみせた。途中で脱落した仲間の手を借りず、たった一人で倒すという、とんでもないことをしてくれた……それが問題なのだよ」
「どういう意味ですか!?」
「魔王を単身で討伐する……それはすなわち、魔王と同等……いや。それ以上の力を持っているということになる」
「まさか……」
その言葉で、王がなにを考えているのか理解した。
理解してしまった。
「それだけの力を持つ存在が、今後、国を脅かさないとも限らない。第二の魔王にならないとも限らない」
「バカなっ、俺はそんなことは絶対にしません!」
「その言葉を信じることができればいいのだが……多くの民の命を預かるものとして、ありとあらゆる災厄の可能性は排除しておかなければならない」
「そんな……」
「勇者セツナよ。おぬしの力は強すぎる。あまりにも強すぎるのだ……同じ人とは思えないほどに、な。故に、おぬしの存在を肯定することはできない。それだけの力を持つ『個人』が存在するなどということは、許されないのだ」
どうして?
どうして?
どうして?
頭の中で、そんな言葉がぐるぐると回る。
しかし、どれだけ考えても答えは出てこない。
「安心するがいい。命までとることはしない。ただ、その強大な力を封印して、地下でおとなしく暮らしてもらうだけだ……永遠にな」
「くっ!」
話し合いは無理だ。
言葉が通じない。
「勇者セツナよ……いや、反逆者セツナよ。おとなしく縄につくがいい」
王が指を鳴らして……
それを合図にして、兵士達が殺到してきた。
前から後ろから左右から。
津波のように兵士達が押し寄せてくる。
自らの体を檻のように使い、俺の動きを封じるつもりなのだろう。
「くっ、やめろ……! お前達は、こんなふざけた命令に従うつもりなのか!?」
兵士達を説得しようとするが、俺の言葉に応じる者は誰一人としていない。
「無駄だ。任務に集中できるように、兵士達は薬で操っている」
「このっ!」
王を魔法で狙い撃ちしようとするが……
その前に兵士が立ちはだかり、迷いが生まれる。
兵士達は王に操られているだけだ。
なんの罪もない。
ここで手を出してしまうと、本当の反逆者になってしまう。
それが王の狙いなのだろう。
「くそっ!」
こちらから手を出すことはできない。
かといって、これだけの人数を相手に手加減することは難しい。
「ぐっ!?」
どんどん兵士達がまとわりついてきた。
まるでゾンビだ。
手足を押さえつけられて、動きを封じられてしまう。
まずい。
このままだと……!?
「こ……のおおおおおぉっ!!!」
俺は全身に力を入れて……
その場でぐるりと回転。
まとわりついてくる兵士達をふりほどいた。
それから、壁の方へ駆けて……
「アクセス・イフリート!」
魔法で壁を爆破した。
謁見の間は王城の最上階……5階にあるのだけど、かまうことなく、俺は爆破した穴から外に飛び出した。
重力に引かれて体が落下する。
地面に激突する直前で……
「アクセス・シルフ!」
風の魔法を使い、落下の速度を殺した。
そのまま両手両足で着地。
「っ……!」
ジーンと手足が痺れた。
魔法で勢いを殺したとはいえ、さすがに、五階から落下したのは堪えるな。
とはいえ、これで安心なんてしていられない。
あの王のことだ。
すぐに兵士を動員して、俺を捕まえようとするだろう。
もうこの国にはいられない。
故郷を捨てることになる。
「くそ……くそっ、くそっ、くそっ……ちくしょう!!!」
叫んでも仕方のないことだけど、叫ばずにはいられなかった。
外は、ザアザアと叩きつけるような雨が降り注いでいた。
あっという間に全身がずぶ濡れになる。
走る度に泥が跳ねて、体のあちこちが汚れていく。
それでも、俺は走り続けて……
逃げるように国を後にした。
本日19時にもう一度更新します。




