冒険者ギルドへ
セリアさんが買ってきてくれたお弁当を有難く頂いた後、一息つくと今後について考え始めた。
このままセリアさんにお世話になり続けるのも一つの手だけど――それはなんかヒモっぽいから嫌だ。かといって何の当てもないまま外へ行ったところで、またあの二の舞になるのは目に見えている。
んー、やっぱりお金を得るのが優先かなぁ。ゲームなんかだとギルドに所属してクエストクリアで報酬を得る、なんてのが手っ取り早い稼ぎ方なんだけど……
「あの――セリアさん。この国ってギルドみたいなものはあるんですか?」
「ん~?あるわよ? え、ユーキさん冒険者になるつもりだったの?」
机に突っ伏しながらこちらを見て、意外そうな表情をするセリアさん。
「そうですね……生きていく以上お金は必要ですし」
それと、こういう世界に来たからには冒険とかもしたいと思うのは男の性だろう。
――はいそこ、今の性別については触れちゃいけない、いいね?
「まぁ確かにお金は稼げるわね――でもその分危険も多いわよ?実際に何人も人が死んでるし。どうしてもっていうなら紹介してあげるけど……」
「お願いします」
死ぬかもしれないというのはやはり怖いが、冒険という魅力の方が勝っていた。
しばらくこちらを見つめると、こちらが折れないと悟ったのか溜息をついた。
「――分かったわ。ギルドまで案内してあげる。詳しい事は向かいながら説明するわね」
不承不承といった様子ではあるが引き受けてくれたのだった。
セリアさんは部屋の中にある魔法陣の中心に立つと、注意喚起を促してくる。
「転移魔法で街に向かうわ。私の隣に立って、決して離れないようにしてね?」
離れるとどっかに飛ばされちゃうわよ?と、とんでもないことを言ってきたのだった。……何それコワイ。
「大人しくしてます」
「よろしい、じゃあ行くわよ?」
何やら小声で呟くと魔法陣が光を放ち始め、視界を覆いつくすほどの強い光を放った。
「はい、着いたわ」
眩しさに堪え切れず閉じていた目を開けると、大きな城門が目の前に現れていた。
――本当に瞬間移動したのか!ファンタジースゲー!
初めての体験に思わずテンションが上がる俺だった。
「一応人の目もあるから、転移魔法を使うときは街の外に着くようにしてるの。ここからギルドまでは歩いて行きましょう」
「人の目――転移魔法ってあまり使える人がいないんですか?」
「あまりいないわね。簡単そうに見えて結構難しい呪文だから。後はまぁ、街中に急に人が湧いて出てきたら驚くでしょ?」
それもそうか。確かに何もないところから人が出てきたら、驚くだけじゃ済まないかもしれない。
「さて、一応ギルドについて説明しておきましょうか?」
「あ、お願いします」
「ギルドは大きく二つに分けられて、冒険者ギルドと職業ギルドがあるの。」
「その2つはどう違うんでしょう?」
「簡単に言えば冒険者ギルドは仕事を斡旋してくれる場所で、職業ギルドはその名の通り、職業ごとの集まりみたいなものよ」
ちなみに私は魔術師ギルド所属ね。とセリアさん。
なるほど、とりあえず仕事を受けるのが冒険者ギルドで、同職の交流の場的なのが職業ギルドって事ね。
「ちなみに冒険者ギルドで登録する時に職業の適性診断も受けられるわ。まぁ必ずしも適性のある職に就く必要はないんだけど、能力の伸びなんかも適性職のほうが早いから、大体はそのまま適性職に就く人が多いみたい」
ほうほう、適性診断ね。出来ればセリアさんと同じ魔法職、もしくは剣士とかに適性があれば良いなぁ。
ファンタジー系RPGの華と言えば魔法使いに剣士だからね、男なら誰でも一度は憧れる職じゃないだろうか。
実はオンラインゲームで回復職をメインにやっていたため、純粋な攻撃職をやってみたいと常々思っていたのだ。
友人に誘われてゲームを始め、やる人が居ないからとお願いされて回復職としてプレイしてたんだけど、回復職は人口が圧倒的に少なかったのもあり、結局最後まで回復職だけやってたんだよなぁ。
攻撃職って与えたダメージが目に見えるから、仲間内で競ったりして楽しそうにしてたけど――回復職はそういうのがあまり無かったので結構疎外感を感じたりしていたものである。
まぁ、回復職は回復職の楽しさがあったんだけどね。回復のタイミング合わせたりとか。パーティを支えるってのも嫌いじゃ無かったし。
そんな事を考えながら街中を進んでいる時、ふと視線を感じて辺りを見渡すと、街行く人がこちらを見ている事に気がつく。
そういえばセリアさんってこの国に三人しかいない魔法士って言ってたし、それで見られてるのかな。
魔法使いの三トップの内の一人がいれば、そりゃ視線も集まるか。有名人も大変だなぁ。
――視線が集まっていた本当の理由は、金髪の美女と珍しい白銀の髪を持つ美女との組み合わせが非常に目立つからだったのだが、そんなことを知る由もないユーキなのであった。
しばらく歩くと、大きな建物の前へと辿り着く。
「さ、着いたわよ。ここが冒険者ギルドの本部で、冒険者を目指す者がまず訪れる場所ね」
「ここが――」
見た目はちょっと古い洋風の建物で、様々な格好をした多くの人間が出入りしていた。
とりあえず入りましょ、とギルドに入っていく彼女の後を追うようにして建物に入る。
中ではテーブルを囲みながら酒を飲んでいる冒険者のグループがあちこちに見られ、匂いだけで酔いそうなほどの酒気とあちこちから聞こえてくる大声に包まれていた。
――どう見ても居酒屋ですね。
イメージしていたギルドはもっとこう、落ち着いた感じだったのだが……
「驚いた?ここは仕事を受けるだけじゃなく、冒険者同士の交流の場にもなってるのよ。仲間探しの場でもああるわね」
「確かに驚きました――毎日こんな感じなんですか?」
「今日はこれでも少ない方じゃないかしら?凄いときは席が全部埋まってるわよ?」
――これで少ないって、週末の居酒屋もびっくりな状況ですね。
見えるだけでも軽く三、四十人は居るようだけど……?
まったく恐ろしい事である。
「さて、私はちょっと用事があるから離れるけど、登録は一人で出来る?」
「えっと、受付で登録したい旨を伝えればいいんでしょうか?」
「そうそう――後は向こうがやってくれると思うから、それで大丈夫。終わったらまたこの辺りで待ち合せましょう」
「分かりました。ありがとうございます、それでは行ってきますね」
いってらっしゃい、と彼女に見送られ、俺は受付に向かった。
窓口は5つほどあり、複数の職員が冒険者の対応をしていて、現実での市役所みたいな印象を受けた。
左端の受付が空いていたため、胸元にある名札にミリアと書かれている職員に話しかける。
彼女は赤髪に翡翠色の瞳で、綺麗より可愛いという言葉が似合う容姿だった。
「すみません、冒険者の登録をしたいんですが」
「冒険者登録ですね、では名前を――え?」
用紙を取り出しながらこちらを見て固まるミリアさん。
あれ?なんだろ、俺どこかおかしいかな?
慌てて自分の姿を確認するが、特に異常は見当たらなかった……まぁ、中身が男って時点で問題大有りな気もするけど。
「あの、お――私どこかおかしいですか?」
こういう時は直接聞く方が早いだろう。
そう思って尋ねたのだが、なかなか返事が返ってこない。
「――あっ!ごめんなさい!大丈夫です!とてもお綺麗です!」
少し間が空いた後、慌てた様子でそんな事を言われた。
む、出来ればその台詞は男の時に言われたかったなぁ、綺麗を格好良いとかに変換して。
……まぁそんなことは良いとして。とりあえずは見た目が問題って訳じゃないらしい。
うん、余計に理由が分からなくなった。
そうして一人悩んでいるうちに、彼女は大きく深呼吸をすると口を開いた。
「お見苦しい所を見せてしまいすみません。まずお名前を教えて貰っても良いですか?」
「いえいえ、気にしないで下さい。名前はユーキといいます。」
「ユーキさん、ですね。――アリシア様にそっくりだなぁ」
最後に小声で何かを呟いていたが、残念ながら聴き取ることは出来なかった。
「では次に年齢をお願いします」
年齢かぁ。現実の歳でいいかな?
この身体割と小さいから、見た目は十四歳位に見えるけど。
「十六です」
「あ、同い年なんですね!」
お、そうなんだ。同年齢ってだけでちょっと親近感。
それは向こうも同じだった様で、先程まであった緊張が解けたのが分かる。
「ミリアさんも十六なんですね」
「はい!あれ?何で名前を知ってるんですか?」
「え、胸元の名札に名前書いてあるから」
「――あぁ!」
……この子割と抜けてる所があるのかも知れない。
「えっと、これからギルド証を発行するので、ちょっと待ってて下さいね!」
そう言って受付の奥に小走りで向かうと、手に小さなカードを持って戻ってきた。
「お待たせしました!これがユーキさんのギルド証になります」
そうして渡されたカードには会員番号のようなものと名前、年齢、そして顔写真が入っていた。
……写真なんて撮られた記憶が無いんだけど。
まぁ魔法とかそんなとこだろうと納得する事にした。
「これで冒険者登録は終了です。後は適性診断がありますけど、受けます?」
来た来た適性診断。実はこれが一番楽しみだったんだよね。
「もちろん受けます!」
当然そう答えると、では奥の部屋にどうぞ、と案内される。
さて、俺の適性は何なんだろうか。
期待に胸を膨らませながら俺は案内された部屋に向かうのだった。
仕事が忙しくて更新に時間が掛かりました汗
次回はもうちょい早く更新できる様に頑張ります!
え?更新を待ってる奴なんていない?
・・・い、いいんだよ趣味なんだから(震え声)