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アリシア

 セリアさんの厚意に甘えて暫くお世話になることになった俺は、『足とか結構汚れてるから、とりあえずお風呂入ってきちゃいなさい』と言われ、言われるがままお風呂場まできていた。


「確かに風呂には入りたいけど、今俺女なんだよなぁ」


 女性の裸なんて見たことなかったのに、まさか初めて見るのが自分の裸になるとは思わなかった。


「まぁしょうがないか――この世界にいる以上見慣れなきゃいけないものだし」


 自分の裸なんだから咎められることはないでしょ……うん。


 そうは言っても何か後ろめたいものがあったので、なるべく体を見ないようにして体を洗う。

 ……それでも視界に入る自分の体にドキドキしていたのは仕方ないことだと思う。


 身体を洗い終え、髪の毛を洗っている時に思った。髪長いっていうのも大変だなぁ……

 腰まである長い髪は、洗うだけでも一苦労だ。


「髪長い女性は毎日こんな思いをしているのか……」


 いっそ切ってしまおうかと思うくらいには面倒だった。


 風呂から上がり着替えようとすると、元々着ていた服が無くなっており、代わりに黒いワンピースのようなものと、ひらひらとした小さい布のセットが置いてあった。


 ――これはもしかしなくても下着だよなぁ


「女性向けの服を着ることになるとは――しかも下着まで。人生何があるか分からないな……」


 服はまだしも下着まで女性向けの物を付けるのは、正直凄く抵抗がある。

 けど、この外見で男物の下着付けてるってのもどうかと思うし、諦めるか……

 元々身につけていた下着より遥かに小さな面積の黒い布に両足を通すと、一思いに腰まで引き上げた。


「うわぁ……本当に履いちゃったよ……」


 初めて履いた感想といえば、良く言うとフィットしているで、悪くいうなら圧迫感がある感じだった。

 そして、入っていた下着はもう一つある。世間一般で言うところのブラジャーだ。


「んー、これは――付けなくていいか。というか付けたくない、付け方も分からないし」


 今履いたばかりの下着と同じ色のブラジャーを広げながら、一人呟く。

 正直、必要か微妙なくらいの膨らみしかないみたいだしね、いらないよね、うん。


 なんか前見た漫画の一コマで、女の子が胸の形を保つ為に云々と言ってるシーンがあった気がするけど、そこまで気にしていられない。むしろ気にしたくないです……


 というわけで、セリアさんには申し訳ないけど、ブラジャーは放置して素早くワンピースに袖を通す。

 そして何か失ってはいけないものを失ったような気がしながらも、リビングへ向かって歩き始めるのだった。


 セリアさん曰く、あの異常に長く感じる廊下や、廃墟を思わせるような汚れは認識阻害?とやらの魔法らしく、実際は普通の家と変わらないらしい。


『この魔法が掛かってると普通はこの部屋まで来れないんだけどなぁ、それどころか家に入ろうとする気も起きないはず。ユーキさんも素質があるのかもね』なんて言われたが、正直実感は沸かなかった。


 ちなみに今は魔法の効果対象から外してくれたようで、埃や蜘蛛の巣といったものは見当たらないようだ。


 リビングに着くとセリアさんが椅子に座って待っていた。


「お風呂ありがとうございました。それであの、この服はセリアさんが用意してくれたんですよね?」


 まずはお礼と、ついでに今着ている服について尋ねてみた。


「ええ――あの恰好は流石にどうかと思ったから。昔あの子が着てたものだけど、やっぱりサイズは丁度良かったわね」

「それって最初言っていたアリシアって人の事ですよね」

「そうよ……貴女びっくりするほどあの子に似てるの。見た目も声もね」


 セリアさんはそう言いながら部屋の棚の上に置いてあった小さい額縁を持ってくると、俺に見せてくれる。


「私の隣に映っているのがアリシアよ。ね?そっくりでしょ?」


 確かに、鏡で見た俺の姿と瓜二つだ……


「彼女は私の親友だったの。五年前に亡くなっちゃったんだけどね――だから貴女が家にいた時は驚いたわ。死んだはずのあの子が生き返ったのかと思ったから」


 なるほど……だからあんなに驚いた顔をしていたのか。


「そうだったんですか……ごめんなさい、それじゃ私を見てると辛い思いをしますよね……」


 もし自分の親しかった人が亡くなって、瓜二つの人間が目の前に現れたらと考えると、やはり辛く感じるのではないだろうか。

 顔はそっくりでも、中身は別人なのだから。


「気にしすぎよ、謝らないで?別人とはいえ、懐かしい顔をまた見ることが出来たんだもの。それにもう5年も前の話よ?ある程度気持ちの整理も出来てるから」


 思い出すことも多いけどね、とセリアさん。

 少し重い空気になりかけてきた頃合で、その空気を払うかのように手を叩きながら


「さて、湿っぽい話はこれくらいで!私仕事で長いことまともに食べてないからお腹空いちゃったのよね~、そろそろ食事にしようと思うんだけど、貴女も食べるよね?」


 そう明るい表情で訪ねてきた。


 そういえば俺も朝食を食べてなかったな……なんて考えた途端、急にお腹が空いてきた。


「すみません、お願いしてもいいですか?」


 図々しいとは思ったが、腹が減っては何とやらだ。

 別に何かをするってわけじゃないけど。


「りょうかーい。じゃあちょっと買ってくるから、適当に座って待っててね」


 そう言い残し、セリアさんは再び魔法陣でどこかへ跳んで行ったのだった。


 あ、自分で作るわけじゃないんですね……?

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