鏡の中の美女は自分でした
家に辿り着いて、中へ飛び込んで窓越しに外を見たが、三人組はこれ以上追ってくる様子はなかった。
武装までしてるくらいだから、家の中まで追ってくるかと思ったけど。
そのまま引き返していく三人組を最後まで見送ると、ようやく一息つくことが出来た。
そして冷静になると、自分のやっていることが不法侵入と何ら変わらないということに気が付く。
「やっば、日本なら一発アウトだ――すみません!どなたかいらっしゃいますか?」
既に家に入ってしまった後なので、今更感がすごかったのだが。
この家が安全であると分かった訳ではない状況で声を上げるのは迂闊だったかもしれない。
しかし返事が返ってくることはなかった。
「留守かな……今外に出ていくわけにもいかないし、ちょっと匿って貰おうと思ったんだけど」
申し訳なさはあるが、命に代えることはできないと判断し、奥まで入らせてもらうことにした。
「お邪魔しまーす……」
入ってみてわかったが、家の中は決して綺麗では無かった。むしろ汚い。
長年人が住んでいないかのように埃が溜まっていたり、蜘蛛の巣が張っていたりする……入り口付近はそんな感じに見えなかったんだけどなぁ。
「廃屋には見えなかったんだけどな、外見も入り口も。一応電気も付いてるし」
そのまま進んでいくと、違和感に気が付く。
家に入る前に見た大きさ的には、既に行き止まりになっていてもおかしくないはずなのだ。
――廊下の長さが異常に長い
もしかして、俺は入っちゃいけない家に入ってしまったのだろうか……
あの男達が追って来なかったのも、この家に何か曰くがあるから?
なんて考えていると、廊下は行き止まりになり、扉があった。
「これ……開けないで戻った方がいい気がする」
少なくともこの家は普通ではない……と思う。廊下の長さが外見に合わないのもそうだが、電気が通っているのに埃が溜まっていたり、蜘蛛の巣が張っているなんて異常である。
しかし、この家があったから逃げられたのも事実だ。
ここまで来たんだからいっそ行っちゃえ!という気持ちもあったりする。基本男は冒険が好きな生き物なのだ……今は女だけどね。
ということで少し躊躇したものの、進むことにした。
扉を開けて中へ入ると、そこだけ妙にきれいな部屋だった。
綺麗といっても、埃や蜘蛛の巣がないだけで物は多いようだが……
本棚が数多く置かれており、大量の本がびっちりと詰められていたり、机の上には水晶だったりが置かれていた。
さらに奥には大きな鏡が置いてあることに気がつく。
そういえばまだ自分の姿がどうなってるのか見てなかったな。
上玉とか言われてたし、どんな感じかと期待しながら鏡の前に立って確認してみる。
「うわぁ……」
思わず声が漏れてしまう程の美女がそこにいた。
鏡を見てまず目を引くのは、整った顔立ちだった。瞳は真紅で目を合わせると思わず吸い込まれるかのような、現実ではお目にかかれない、どこかの令嬢と言われれば納得できる程の美貌である。
次に白銀色の長い髪だ。腰の辺りまで伸びたそれは光を反射して輝いており、整った顔立ちも相まって幻想的な雰囲気を醸し出している。
身長は百四十程だろうか、少し小柄で整った見た目もあり、どこか人形のようにも見える。
「これは確かに――自分で言うのもあれだけど美人だわ」
奴隷の売り買いなんてものは想像しかできないけど、こんな美人が売られてたら、全財産出してでも買おうとする奴がいてもおかしくないかもしれない。
それだけに今の格好はちょっと、いやかなり浮くかもしれない。
整った顔立ちに美しい髪、肌は白くすらりとした手足……しかし服装はぶかぶかのシャツと同じくぶかぶかの短パン、挙句の果てに裸足だなんてアンバランスにも程がある。
「どこかで服を調達しないと、これは街に入る以前の問題だ……」
かといって当てがあるわけでもなく、持ち物も何もないのでどこかで買うということもできない・・・というより、仮にお金があっても売ってるのは街の中だろうから詰みであることは変わらない。
「はぁ~どうするかなぁ」
思わずため息をつきながら鏡を後にし部屋の中を進むと、魔法陣らしきものが描いてある床を見つけた。
「ほ~魔法陣、こういうのを見るとますます異世界って感じがするね」
ゲームや漫画でよく見るような六芒星に円が重なって、周りに何やら文字が散りばめられているあれだ。
とはいえ俺自身本物を見るのは当然初めてだし、知識もないので何やらさっぱりだけど。
「こういうのってゲームとかだと触っただけで起動しちゃったりするんだよな」
魔法陣に近付き試しに触れてみようと手を伸ばすと、魔法陣が発光し始めた。
……これはもしかしなくてもなんか発動しちゃった?
ちょっと焦り始めた俺の前で、魔法陣は更に光を強めていき、目を開けられない程の強い光を放った後、魔法陣の中心には一人の女性が立っていた。
「はぁぁぁぁ、やっと帰ってこれた。あのじじぃ、人を散々こき使うだけ使って『もう帰ってよいぞ』とか人を何だと思ってるのかしら――あら?」
その女性とばっちり目があった俺は、その場を動けないでいた。