魔物討伐へ.Ⅱ
俺達が今いるのは、セルキナと隣国を結ぶ道が通る山の山頂と中腹の間くらいの高さにあるちょっとした平地になっている所だった。
鬱蒼と覆い茂った木々の間に出来たその平地は、おそらく休憩する場所の為に人為的に作られたのだろう。
簡易なものではあるが、木で出来ている椅子やテーブルなんかも置いてあるようだ。
「んじゃ、始めるか」
「そうだね。とはいえこの人数でまとまって行動するより二手に別れた方が効率は良さそうだけど、どうする?」
「そうよねぇ…… 私達四人とユーキちゃん達三人で別れると面白味もないから、適当に別れてみるのも良いかも」
ライルさんの提案にジェシカさんがそんな言葉を返す。
ふむ。たしかに三人で行動するといつも通りではあるし、たまには別行動してみるのも悪くないかな。
「良いんじゃないかな? そういうのも悪くなさそう」
「ユーキお姉ちゃんが乗り気なら異論はなしかなぁ」
「まぁ、たまにはいいんじゃない?」
「私はどちらでも構わないわ」
エレナとゼナ、セリアさんも異議はないようなので早速チーム分けをする事に。
大前提として近接職を分けるという話になった為、エレナとアベルは別パーティへ。
魔法を使うセリアさん、ジェシカさんも別々になり、俺とゼナも違うパーティとなった。
その結果、《アベル、セリアさん、ユーキ》と《エレナ、ジェシカさん、ゼナ》という二つのパーティが出来上がった。
人数的に仕方ないとはいえライルさんが一人残る形となったが『ジェシカが暴走した時のフォロー役がいないとね』とのことで、エレナ側のパーティに行くことに決めたようだ。
「それじゃ行こうか、夕方になったらここに集合って事で。 ……アベル、何かあっても二人を守るんだぞ」
「ああ、お前もな。――と言っても、この二人じゃ逆に俺が守られる立場になりそうだが」
違いない、と笑い合う男二人。
む、男ならそこは『命に代えても守る!』とでも言うところだろうに。アベルさん、減点一ですな。
隣にいるセリアさんに視線を移すと向こうも丁度こちらを見ていたようで、目が合うとどちらからともなく苦笑した。
「だそうよ、ユーキさん。私達まるで化け物扱いされてるみたい。酷いわよね?」
「わー酷いですね〜」
「い、いや、そういうつもりでは……!」
狼狽えるアベルをセリアさんと二人で弄る、なんていうやり取りをしながら早速二手に別れ――ライルさん達は中腹側へ、俺達は山頂に向かって歩き出した。
多少舗装されている道から外れ、草木の間に出来ている獣道を進んでいくこと數十分。
少し開けた場所に出るとアベルが急に立ち止まり辺りを警戒し始め、同様にセリアさんも杖を構える。
「……いるな」
「ええ、囲まれてるわね」
そう呟く二人に倣って辺りを見渡してみると、木々の後ろに赤い毛皮を持つ狼のような生物がいることに気がつく。
確認できるだけでも十数匹の獣が円を描くような形で取り囲んで来ているようだ。恐らく実際にはもう少し数が多いだろう。
「これが例の?」
「ああ、ブラッドウルフだ」
「群れを成して狩りを行う魔物よ。年間で数え切れないほどの人がこいつらの犠牲になっているって話だわ」
そんなに犠牲が出てるのか……なら少しでも減らさないとだ。
右手に杖を構えながら自身に肉体強化の魔法と、全員に守護付与を掛ける。
ジリジリと包囲網を縮めてくるブラッドウルフを警戒していると、正面にいた一匹が飛びかかって来た事で戦いの火蓋が切って落とされた。
「――ふんッ!」
アベルが盾を横薙ぎすることで、飛びかかって来たブラッドウルフを吹き飛ばす。
横に吹き飛ばされたものが木に当たると悲鳴を上げて地面へと落ち、そのまま動かなくなる。
その様子を見ていた残りのブラッドウルフが次々と飛びかかって来た。
「相変わらずの馬鹿力ね――【雷よ、伝い広がり敵を滅せ】連鎖雷電」
セリアさんがアベルの行動を見てそう呟いた後に電魔法を放つ。
飛びかかってきた内の一匹に当たると隣にいる別個体へと次々に伝わっていき、感電して黒い煙を上げながら沈んでいく。
凄い……! あれ? でも魔法って四元素で火、水、風、土しかなかったんじゃ?
「電撃系の魔法なんてありましたっけ? ――聖なる矢!」
疑問をぶつけながら、こちらも近付いてくるブラッドウルフを一匹づつ片付けていく。
接近されすぎたものには強化された力を乗せた回し蹴りを入れて対象する。
「一般的には四元素なんだけどね――【雷よ、槍となりて敵を貫け】雷撃槍――稀に私のように違う属性が使える人もいるみたい」
「そうなんですか、いいなぁ」
「ユーキさんの無詠唱の方が珍しいし、羨ましいわよ?」
そんな会話の間にも魔法を放ち、着々と敵の数を減らしていく。
アベルも堅実に敵を斬り捨てているようだ。
そうしてしばらく戦う内にブラッドウルフの数も数匹まで減り、残ったその数匹もセリアさんとアベルによって駆逐された。
「結構あっさり片付きましたね」
「規格外なのが二人いるからじゃないか?」
「あら酷い。そんな事ないわよね?」
「いやぁ、あの電撃魔法は規格外でしたよ? 殆どセリアさんが倒してましたし」
勝手に伝播して倒せるなんて、大勢の敵に対してはかなり有効な魔法だろう。
というかあれは反則、チートでしょ……!
強いし、何より電撃の魔法なんてカッコ良くてズルい!
いいなぁ、どうせ魔法が使えるならああいうのを使いたかったなぁ。
「ま、確かに使い勝手は良いけれどね。……さて、少し休憩しましょうか。流石にちょっと疲れたし、このまま戦うのは――」
そうセリアさんが話を続けようとした時、ドスドスという何か大きなものが地面を踏みしめるような音が近くから聞こえてくる。
何事かとその方向に顔を向けると、全長五ー六メートルはありそうな巨大な熊と目が合った。
真っ赤な眼光を放ち、漆黒の体毛を逆立たせている姿はどう考えても普通ではない。
「熊……?」
「にしては少し様子がおかしいな。――何があってもすぐに動けるよう、警戒するぞ」
「そうしましょう」
しかし残念ながら何も起きない――なんて事はなく、雄叫びを上げながら襲いかかってきたのだった。





