海へ行きましょう
「あっつぅ――」
全身がしっとりと汗ばんでいる。
この世界に来た時は、適度な陽気と穏やかな風が吹く、まさに春!といった気候で過ごしやすく、活動するのにはちょうど良かった。
しかし季節は移ろいゆくもので、穏やかだった日差しは、まるで人が変わったように、強烈な力で地面を照りつけ始めたのだ。
三種の神器とも呼ばれた偉大なるクーラーのないこの世界では、この暑さはまさに地獄ですよ。
食べ物もすぐにダメになるし……
そんなわけで、照りつける太陽の中に喜び勇んで突撃していくほどの元気がない俺は、冒険者の醍醐味でもあるクエストをサボって、家に引きこもっているのだった。
「ユーキ、だらしないわよ」
「うるしゃい。こんな暑さじゃ、やる気も起きないわい」
「確かに暑いよね……」
俺は床に寝そべっており、それを見ながら注意するエレナだが、額には玉のような汗が浮かんでいる。
ゼナも服の裾をパタパタと上下させ、風を起こして少しでも涼しくしようとしているみたいだ。
――チラチラと見えるお腹がなんとも艶かしいですね。
しかし、この身体になってからというもの、男として興奮しそうな場面に遭遇しても、何も感じなくなりつつあるんだよなぁ。
この環境だとむしろ良い事なのかもしれないけど、複雑な気分だ。
「こっちをじぃっと見て、どうしたの? ユーキお姉ちゃん」
「いやぁ――男の前でやっちゃダメだよ? それ」
「……? 何を?」
やれやれ、無自覚ほどタチの悪いものは無いね。
「それはあなたもよ、ユーキ」
「なんですと」
予想外の、特大なブーメランが返ってきた。
そうしてだらけるうちに、陽射しは徐々に強さを増していき、室内はサウナのような有様になっていた。
三人揃って、滝のような汗を流している。
「だめだこりゃ――このままじゃ、蒸し焼きになっちゃう」
「流石にこれは――キツイわね」
「もう限界だよぉ……」
下手したら風がある分、外の方がマシかもしれない。
――そうだ! 水辺!水辺ならきっと涼しいはず!
「最初にエレナと会ったシルフの森、あそこに川あったよね?」
「確かにあるけど……どうして?」
「水辺だし、森の中なら涼しいかなって」
「涼しいだろうけど――この時期、虫が多いじゃない」
「え〜、虫は嫌だなぁ……」
二人がそう言うなら、ダメかなぁ。
虫くらい我慢しろってのは、女の子にとっては酷だろう……でも、他に水辺なんて知らないんだよね。
「――それなら海にしましょう」
「え、海あるの?」
「あるわよ?」
エレナの言葉に、思わず身体を起こす。
海か……中々機会がなくて、何年も行ってなかったっけ。
「――うん。海、アリだね」
「海は行ったことないから、行ってみたい!」
ゼナも乗り気だし、海で決定かな。
「――それで、なんで服屋に連れてこられてるの?」
海へ行くことが決まった後、俺は二人に引きずられるように服屋まで来ていた。
「なんでって、水着を買うために決まってるじゃない」
「ユーキお姉ちゃんも、水着持ってないでしょ?」
「そりゃまぁ」
必要になることなんてなかったし。
海辺で休むくらいかなと思ったら、泳ぐ気満々だったのか。
二人して水着を選び始めたのを見て、なんとなく嫌な予感がした。
パンツタイプの水着を買うために、気付かれないように売り場へ向かおうとする。
しかし まわりこまれた!
自分達の水着を早々に選んだ二人が、やたらフリルの付いた黒い水着を手ににじり寄ってくる。
「いや――それは勘弁してください……」
「絶対似合うから、大丈夫よ?」
「ユーキお姉ちゃんが着てるところ、見たいなぁ」
――なんか、前にもこんなことがあった気がするよ? おかしいなぁ
抵抗も虚しく、結局その水着を着る羽目になった。
「ほら、やっぱり似合うじゃない」
「うんうん!」
「さいですか……」
満足そうに頷いている二人とは対照的に、俺はきっと死んだ魚のような目をしていることだろう。
水着を買い終わり、馬車で海へ向かったのが夕方頃、海辺の街に着いた時には夜になっていたため、一晩宿に泊まることにした。
朝になり、海に向かう二人の背を追うようにして、浜辺に辿り着く。
青い空、白い雲、照りつける太陽。
そして、目の前に広がる広大な海。
正面から吹く風に乗って運ばれてくる潮の香りを感じつつ、何処までも続いていそうな海を見ながら、溜息を吐いた。
この水着を着てさえいなければ、完璧だったのにな……
正直言って、これは目立ち過ぎる。
海には結構人がいるみたいだけど、ここまでフリルの付いた物を着てる人はいないんじゃないだろうか。
「ユーキ!」「ユーキお姉ちゃん!」
そんな俺の心境を知らない二人から、早く来いと言わんばかりに、名前を呼ばれる。
「はいはい――今行くよ!」
周りにいる男連中からの視線を感じながら、二人の元へと急ぐのだった。





