光の先には
道が明るくなっていたのは、どうやら魔法が原因のようだった。
灯火のようなものが所々に浮いており、通路の奥まで続いていた。
「あの本にこんな魔法あったっけ?」
以前図書館で読んだものには、設置型の光源魔法なんてなかった気がするけど……
疑問に思いながらも、まぁ異世界ならなんでもアリかと納得して道を進む。
――そもそも全ての魔法が書かれているとは限らない訳だし。
光の続く方へと歩いて行くと、道が左右に分かれている場所に辿り着いた。
しかし明かりはどちらにも灯っていない様だ。
「あれ、てっきりどっちかに続いてると思ったんだけどな……」
流石に暗闇の中を進む気は無かったので、引き返そうかと思った時、ふと目の前の壁に違和感を感じた。
今まで見てきた壁面は老朽化が進んでいるように見えたが、ここだけは妙に新しく見える。
不思議に思い壁を触ろうと腕を伸ばしてみると、壁に触れる事なくすり抜ける。
伸ばした腕が壁にめり込んでいるというシュールな光景がそこにあった。
「おぉ?この壁幻影だったのか……」
周りと全く同じだったら気が付かなかったよ。
壁を抜けると、程なくしてやや大きめの空間に出た。
隅の方には蹲った人影が見える。
小柄でボロボロのフードを被っており、近付いていくとこちらに気が付いたようだ。
「だ、誰?――なんで入って来れたの……?」
声の感じからすると女の子かな?
「私はユーキ、怪しい者じゃないよ」
ん?自分で言っておいてアレだけど、この名乗り方って不審者っぽい気がする。
案の定、フードの子は警戒しているようだし……
「あー、えっと。外を散歩してたら光が見えてね? 何だろうなーと思って入ってみたら、ここに辿り着いたんだけど……」
とりあえず経緯を説明すれば、多少は警戒を解いてくれるだろうか?
そんな俺の目論見は多少の効果があったようで、身体の強張りが幾分か抜けたように見えた。
「壁があった筈……」
「うん。最初は行き止まりだと思ったんだけど、よく見たらちょっとだけ違和感があったからね」
女の子?がそれを聞いてどんな顔をしていたのかは、フードの所為で分からなかった。
「ところで――なんでフードを被ってるの?」
一目見た時から疑問に思っていたことを尋ねる。
室内なんだし、フードを被る必要はないと思うんだけど。
「私、『忌み子』らしいから……」
悲しげな声音でそう呟く。
忌み子って望まれないで生まれて来たとか、そういう意味だったっけ?
「見た目が普通じゃない――とか?」
俺の言葉にびくりと肩を震わせる女の子。
しまった、もう少し言い方を考えた方が良かったな。
「不躾だったね、ごめん。でも私、見た目で人を判断するの嫌いなんだ。だから顔を隠さなくても大丈夫だよ?」
子供の頃から、人を見た目で判断するなって教わって育ってきたからね。
女の子は躊躇いながらも、ゆっくりとフードを脱ぎ、隠れていた素顔が明らかになる。
長く尖った耳に、少し幼さが残る整った顔立ち。そして肩下まで伸びた黒艶がある髪の毛と、同色の瞳だった。
――おぉ!妖精族の女の子だったのか!
ライルさんを見た時に、女性のエルフは綺麗なんだろうなぁと夢想していたけど、それは正しかったみたいだ。
忌み子って呼ばれる要素があるとは思えないけど、もしかして黒髪が原因なんだろうか?
じっと見つめていたのを好奇の視線と捉えたのか、女の子が再びフードを被ってしまう。
「やっぱりおかしいでしょ? エルフなのに黒髪なんて――だからお父さんとお母さんに捨てられたんだし……」
なんて、さらっと凄いことを言っていた。
なんだそれ。親が子供を捨てる?親こそ子供を守らないといけないだろうに。
胸に怒りに似た感情が湧くが、そんな事よりこの子だ。
フードを深く被って俯く姿は、見ていて辛い。
「私は変じゃないと思うよ? ――エルフの中で黒髪がどんな意味を持ってるのかは知らないけど、私は黒髪を見慣れているし、偏見も持ってない」
日本人なら殆どが黒髪だからね、染めてない限り。
「――だからさっき君を見ていたのも好奇の視線じゃなくて、単純に綺麗だなって思ってたんだ」
俯いていた顔が上がり、視線が俺を捉える。
「誰に何と言われようと、君は君なんだから。胸を張っていいと思うよ」
――これは以前ミリアちゃんに言われた言葉だ。
この言葉を聞いた時、とても嬉しかったのを覚えている。
「本当に……? 私おかしくない……?」
「おかしくないよ。少なくとも、私は綺麗だと思うもん」
不安げに見つめてくる瞳をしっかりと見つめ返して答えた。
俺の言葉を聞いて表情が明るくなっていく。
「改めて、私の名前はユーキ。君は?」
「――ゼナ。 私の名前はゼナっていうの」
改めて名乗ると、女の子も返してくれた。
「よろしくね、ゼナ」
「うん。よろしく、ユーキお姉ちゃん」
――ん? お姉ちゃん?
「お姉ちゃんって?」
「お姉ちゃんがいたらこんな感じかなって――ダメ?」
うっ……こんな上目遣いでお願いされたら、ダメなんて言えないじゃないか。
「いや……好きに呼んでいいよ」
「ありがとう!」
嬉しそうにするゼナ。
時間もだいぶ経っていたため、元来た道を戻っていた。
ちなみに俺の隣にはゼナが歩いている。
親に捨てられてから、今まで面倒を見てくれていたお婆ちゃん――血の繋がりはなかったらしい――が亡くなったそうだ。
他に行く当てが無いというゼナに「それならうちに来る?」と提案し、是非行きたいとの事だったので一緒に戻ることにしたのである。
「とりあえず、テントに着いたら休もう。明日になったら皆に紹介するから」
「うん、ユーキお姉ちゃんに任せるね」
出会ったときの暗い様子はすっかり消え、笑顔を見せるゼナ。
――明日は一騒動あるかもしれないけど、この子が笑顔でいられる為なら頑張れそうだな。
そんなことを考えながら、ゼナと共にテントへと戻っていくのだった。





