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初クエスト

 窓から差す柔らかな陽射しを浴び、意識が徐々に覚醒していく。


「ふわぁ――」


 欠伸をしながら伸びをすると、時間を確認しようとベッドにあるはずのスマホを探す……が、無い。


「あれ……?」


 部屋の中を見渡し、置いてある鏡に映る自分の姿を目にした事で、今どこにいるのかを思い出した。


「そうだ、セリアさんの家でお世話になっているんだった」


 昨日は疲れすぎていたのか、ベッドに入るとすぐに寝てしまったんだっけ。


 ベッドから起き上がると、足元に置いてあるアドルフさんから受け取った袋から中身を取り出す。


「おぉ、なんか回復職っぽい装備」


 中に入っていたのは、フード付きの白いローブと、現実で言うスキニーパンツのようなズボン、指先が出るようになっている革製の手袋と、脛辺りまであるブーツだった。


 早速装備に着替えると、鏡の前に立ち姿を確認してみる。


「おお――これはファンタジー系のアニメで凄く人気出そうな感じだ……自分で言うのはあれだけど」


 純白のローブに身を包んだ、白銀の髪と紅い瞳の美女。

 全身白いその姿は、まるで穢れを知らない聖女の様にも見える。

 まぁ、問題の中身は穢れを知り過ぎてる男子学生なんだけども。


 個人的には黒が好きなので、ローブも黒なら尚良かったんだけど、回復職のイメージ的には白い方が合ってるか。


 しばらく鏡の前であれこれ考えていると、お腹から空腹を訴える音が聴こえてきた。

 そういえば、昨夜は夕飯も食べずに寝たからなぁ、そりゃお腹も空くか。


 俺は鏡の前から離れ、テーブルの上に置いてあった装備一式(短剣と杖)を持つと、リビングへと向かった。



 リビングに行くと、テーブルの上に『用事があるので出掛けます。朝御飯はこれで食べてきてね。 セリア』という書き置きと共に、銀貨が一枚置いてあった。


「朝食のお金まで置いて行ってくれるなんて、セリアさん人が良すぎじゃ……? てか、ヒモになるのは嫌とか思いつつ、俺、順調にヒモ道邁進しちゃってるんだけど!?」


 他人の家に無償で寝泊まりし、無償で飲み食いし、装備のお金を出してもらう――うん、完璧にヒモですね。


 このままお世話になるにしろ、一人暮らしするにしろ、やはり早急にお金を稼いでこないと……!

 そんな現状に危機感を覚えた俺は、セリアさんが置いておいてくれた銀貨をポケットに仕舞うと、街へ向かう支度を始めるのだった。


「さて、準備完了!まぁギルド証取りに戻っただけなんだけど」


 そう、クエストを受けるならギルド証が必要になると思い、一度部屋に戻ってきたのだ。


「さてと。歩いて向かうのも面倒だし、転移魔法(テレポート)を試してみようかな」


 昨日の試行錯誤の末、無属性魔法であれば使える事が分かっていたため、恐らく使えるだろうけど。


 そういえば昨日セリアさんが転移魔法はあまり使える人がいないって言ってたっけ。なら一応顔を隠していくかな、あまり目立ちたく無いし。


 そんな事を考えながら、ローブについたフードを深く被る。

 イメージするのは、セリアさんと共に転移した場所だ。


「さて、じゃあ行きますかね……転移魔法(テレポート)



 目を開けると、視界に入ってきたのは昨日と同じ光景――ではなく、門を上から見下ろすような光景だった。


「え?」


 そう呟くと同時に、落下を始める俺の身体。

 どうやら目的地の遥か上空へ転移してしまったらしい。


「嘘ぉ!?」


 ヤバイ、これはヤバイ。

 地面が迫ってくる、これ洒落にならないって!


「えっと、えっと――あっ! そうだ! 守護付与(プロテクション)肉体強化(フィジカルアップ)再生(リジェネレイト)!」


 思いつく限りの魔法を自分に掛け、衝撃に備える。

 次の瞬間、物凄い衝撃が俺を襲った。


「痛ったぁ!?」


 衝突の衝撃で出来たクレーター状の穴から涙目になりながら這い出る。

 守護付与と肉体強化があってもこれなんだから、無かったら即死だった事だろう。


「もう下手に転移魔法使うのやめよ……」


 この一件で俺の心には転移魔法のトラウマが刻まれたのだった。


 再生の効果で痛みが徐々に癒えてくると、ようやく立ち上がれるようになる。

 ――酷い目に遭った。いや、自分が原因なんだけど。

 本気で死ぬかと思ったのは生まれて初めてだ……いや、あんな経験何度もしてたまるか。



 前途多難な出来事はあったものの、冒険者ギルドにたどり着いた。

 受付を見ると、赤い髪の女の子が元気良く冒険者の対応をしている。


 どうせなら知ってる人に対応して貰いたいので、彼女の列に並んだ。……まぁ理由はそれだけじゃなくて、この世界で初めて出来た友人だからなんだけど。


「次の方どうぞ!」

「こんにちは、ミリアちゃん」

「あ、ユーキちゃん……?フードなんて被ってどうしたの?」


 彼女に挨拶すると声で俺だとは分かったようで、フードを被っているのを不思議そうに見ている。


「んっと、ほら私見た目がアリシアさんと瓜二つみたいだし、変に騒ぎを起こしたく無いから」

「気にしなくていいと思うけどなぁ、ユーキちゃんはユーキちゃんなんだから」


 ミリアちゃん……なんていい子なんだ……

 俺の中でミリアちゃんの株が急上昇していくのを感じる。


「ミリアちゃんがそこまで言ってくれるなら」


 フードを取ると、今まで隠れていた白銀の髪が露出する。

 案の定騒めきが起きたが、気にしない事にした。


「うん、やっぱりフード無い方が良いよ!せっかく綺麗な髪なんだから、隠すなんて勿体無い!」

「そっか、ありがと」

「いえいえ!ところで今日は何の用事だったの?」


 そうそう、クエスト受けないと。


「んっと……クエストを受けに来たんだけど、初心者向けのやつあるかな?」

「ちょっと待ってね……あ、これなんかどうかな?」


 そう言って彼女が見せてきたのは、回復薬(ポーション)の材料である薬草の採取、納品というものだった。

 ふむふむ。これなら危険も無さそう。


「ありがとミリアちゃん、これにするよ」

「はーい!じゃあギルド証を出してね、手続きしちゃうから!」


 言われた通りにギルド証を出すと、彼女は受注用紙に冒険者番号と名前を記入していった。


「これでおっけー!場所はこの地図を見てみてね。ユーキちゃん、初クエスト頑張って!」


 彼女から地図とクエストの詳細が書かれた紙、薬草を入れるための袋を受け取る。


「うん、行ってくるね」


 ミリアちゃんに見送られると、渡された地図を見ながら目的の森を目指して歩き出すのだった。



 地図を見ながら歩く事約2時間、目的地と思われる森に辿り着く。

 セリアさんの家とは真逆に位置するこの場所は、シルフの森と呼ばれているらしい。


 シルフといえば、真っ先に思い浮かぶのがRPGで出てくる可愛らしい森の妖精だけど、この世界にもいるんだろうか?



「とりあえず薬草を探そうか」


 白い花の咲いている細長くギザギザした葉がある植物が、今回探す薬草の特徴だそうだ。

 辺りを見渡すも、白い花の咲く植物は見当たらないようだ。

 もうちょっと奥まで行ってみるかな?


 しばらく森の中を進むと、ようやく1つ目の薬草を見つけることが出来た。


「やっと一個……これは根気よく探すしか無さそうだなぁ」


 薬草集め、ちょっと甘く見ていたかもしれない。


 一体どれくらいの時間探しただろう。袋が薬草で一杯になる頃には、陽が少し傾いていた。

 薬草はどうやら水辺に群生しているらしく、もう少しで終わりそうになった頃になって見つけた川の周囲に沢山生えていた。


 ――もっと早く川を見つけられたら、あっという間に終わってただろうに。


「さて、帰ろうかな」

「きゃぁぁぁぁっ!?」


 元来た道を戻ろうと思って体の向きを変えた時、突然森の奥から悲鳴が聞こえてきた。


「悲鳴……? ん〜。聞かなかったフリもなんかあれだし、行ってみるか」


 正直嫌な予感がしながらも、俺は悲鳴の聞こえた方へと走り出したのだった。

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