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純白の聖布を求めし衝動を封印せよ!

ギャグ系のお話の練習です。

なお、作者にギャグセンスはないので、そこら辺アドバイスをいただけるとありがたいです。よろしくお願いします。

 アーサーはリビング中心にある、椅子に座りながら壁掛け時計をチラリと見た。その時計の針はちょうど午後一時を指していた。彼は金色の髪をぼりぼりと手のひらで掻きながら、もう片方の手で、テーブルに数枚の紙を放り投げた。その紙に書かれている内容をアーサーは声に出して読み上げた。


「8月1日午前11時ごろ、山田(やまだ)アーサーの元に到着予定。さて、今の時間は既に午後1時。予定の時間よりももう3時間ほど遅れている。だというのに、彼女は未だにこの家にやってこない。ふむ、12時になったころには、探しに行こうと思ったがその間にこの家に来られると、留守にしてしまうから今まで待っていたが──こんなに遅れるのは異常だな。飛行機が遅れた、あるいは飛ばないという知らせもない。ふむ、これは途中で迷子になったか、あるいは何かしらの事件に巻き込まれたと見るべきか? もしそうだとしたら、非常に面倒なことになるな。いい加減探しに行くか? 彼女の自主性を優先するために、出迎えるのを空港ではなく俺の家ということにした学園側の失態なのは明らかなんだが、同時に保護者である俺に責任が降りかかるのは目に見えている。そうなったら面倒くさいな。責任は負いたくない──よし、決めたぞ。探しに行くか」


 と彼は椅子から立ち上がると、リビングの扉を出て玄関へと向かった。彼が玄関のすぐ前に移動すると、来客を知らせるチャイムが鳴った。アーサーは扉を開けて、「はいはい、山田です。どちらさんですか?」と言った。扉の向こう側には、彼よりも頭一つ、二つ低い少女が立っていた。彼女の容姿は、銀色の髪を肩より少し上あたりまで伸ばしており、目の色は赤色。彼女の手元には巨大な旅行鞄が下げられていた。彼女は言った。


「貴方がアーサーさんですね? 申し訳ありません。予定よりも遅れました」


「いや、いいさ。君がホームステイとして日本で過ごす生徒かな? 名前はベルシア・リィンスタで合っている?」


「ええ、合っています。私の名は確かに、ベルシア・リィンスタです」


「ふむ、俺はアーサーだ。さ、立ち話も何だからまずは家の中に入ろう。ようこそ、日本へ。ようこそ、我が家へ。この夏休みの間、君は俺の家族となり、この家で暮らすことになるんだ」


 彼らは先ほどまでアーサーがいたリビングへと移動すると、お互い向かい合わせになり、椅子に座った。アーサーは机の上に置かれている紙を見ながら言った。


「さて、リォンスタ、いやベルシアでいいかな? 俺は名前で呼ばれるのもまあ、何だし……先輩と呼びたまえ!」


「わかりました、先輩。どちらでも。お好きなようにお呼びください」


「ではベルシアと。短くシンプルな方が好きだからね。さて、まずは長旅お疲れ様だ。向こうからこっちに来るまでは、退屈だっただろう? なんせ飛行機で8時間以上かかるんだ。無事に出会えたことを喜ぼう。分かっていると思うが、ベルシア。君はホームステイとして夏休みの間、異国の文化を知り、学ぶために我が家で過ごす。そのために、君はここに来た。まずは歓迎をしたいところだが、一つ叱らなければならないことがある。なぜ、約束の時間より遅れた? その理由を聞きたい」


「そ、それは──」とベルシアは口をもごもごさせた。


「それは?」


「それは……」


「なるほど、道に迷ったか?」


「違います!」と彼女は顔を赤らめて叫んだ。


「なるほど、違うのか」とアーサーはにやにやしながら、手に持っている紙を振った。「この学園から送られてきた書類には、今回のホームステイの予定とか、注意点とかが書かれている。そこには、ベル、君のことも書かれている。どれどれ……なるほど、授業では座学、実技ともに成績優秀。得意とする属性は風。ほう、大したものだな。こんな成績はなかなかに見ない。どうやら優等生のようだ」


「当然です。私は誰よりも素晴らしい魔法使いを目指していますから」と彼女は胸を張った。


「そうか、それは結構なことだ。だが、このように君の事を褒めちぎっている欄の下には、こんな事が書かれている。『成績優秀。しかし、性格は高飛車、見栄っ張り、何事もとりあえずゴリ押しする。大雑把な箇所あり』とね。さ、もう一度聞こう。遅れた理由は?」


「う、それは……」と彼女はまたもや顔を赤らめた。


「それは?」


「迷子になったわけではありません! 私は、そう! 日本の文化をより細かく観察するために、あちこち隅々までめぐっていただけです!」


「そうか、要は道が分からなくて、あちこち駆け巡っていたと」


「違いますー!」


「そうか、まあいい。ところで、あのババア……学園長はまだ生きているか?」


「あのお方をババア呼ばわりとは……ええ、まだ現役でいらっしゃいます」


「チッ」とアーサーは舌打ちをした。「そうか、まだ生きていたか……おかしいな、あの時の呪いは聞かなかったのか?」


「呪いとかなんですか、それ!」とベルシアは叫んだ。


「なに、何でもない。む、噂をすればというやつだな」


「え?」


 アーサーは手に持っている紙先ほどと同じように机の上に放り投げた。すると、その紙から光が放たれた。その光は立体映像とでもいうべき様子で、人の上半身を形どった。そうして映し出された人物は、とんがり帽子に、長い白髪、高く、曲がった鼻、皺だらけの顔をした女性だった。彼女は叫んだ。


「あの呪いはお前さんの仕業だったのかい! おかげで解呪が大変だったよ! このクソガキめ!」


「これはこれは、お久しぶりです」とアーサーは言った。「ババア・オールドティーチャー。あの呪いは、俺からの贈り物ですよ。お気に召しましたか?」


「どこが気に召すものか! 人をガラパゴスフィッシュに変える呪いなぞ! ええい、恩を仇で返しおって。ろくでなしめ。お前さんが学園にいたころ、さっさと退学にしなかったのが儂の間違いだったよ。アーサー。お前は成績優秀だったが、ろくでなしだったわ。実力はあったが、お前ほどに素行の悪い生徒もそうそう存在せん。正直、お前が我がシャンバラ魔法学院を卒業して、ほっとしてるよ。


 そこにいるベルシアは、お前さんほどではないが問題児だ。おかげで、ベルシアのことをホームステイ候補たちに伝えるなり、受け入れ拒否されてしもうて悩んだが、お前さんの事を思い出しての。ほれ、問題児は問題児同士でちょうどいいじゃろう?」


「あんなちまっこいのは、問題児にすら入りませんよ。そう、問題児とは俺の事を言うのです!」


「だれがちまっこいよ!」とベルシアは叫ぶと、首をかしげた。


「というか、さっきから学園長様と何を話しているのよ?」


「何、ただの日常会話さ」とアーサーは答えた。「魔法通話は便利だな。こうやって特定の相手以外に、声に出しても聞こえることは無いから」


「まったくじゃ。というか自分で問題児と言うかのう?」と老人は言った。彼女はベルシアのほうを振り向いた。「そら、ベルシア。しっかりおやり。それじゃあの!」


 と言うと、彼女の姿は消えた。ベルシアはアーサーを眺めると、このようなことを考えていた。


(山田アーサー……シャンバラ魔法学院第347期卒業生。学園にいたころは、数々の伝説を残してきたという。他に類を見ない水と炎、土が入り混じった星の属性を持つという話で、あらゆる魔法を操り、その実力は教師たちを遥かに凌駕していたという。曰く、悪魔を撃退した。曰く、竜を呼び出した。曰く、喪われた秘術をよみがえらせた。他にも伝説は多数……どうせ、あんな伝説は尾ひれのついた噂話にすぎないでしょう。学園長様とは親しいようだけれど、私の実力を超えるようなことはないでしょうけれども、退屈しのぎぐらいにはなりそうね)


 アーサーは言った。


「ふむ、今日は初日だから荷物の整理とか、ここら辺の地理とか、日本のマナーとかを最低限に教えろとこの紙には書いてあるが、よし、学園長の登場で気が変わった。ベルシア、道具を準備しろ。まだ日は高いが、それでも影はある。怪異を狩りに行くぞ」


「上等よ。それは願ってもない提案ですね。いいでしょう、この『流れ星』異名を思い知らせてあげましょう!」


「それは頼もしい。では、我々魔法使いとしての任務を行うとしようか」


 というアーサーの腕はわずかに震えていた。ベルシアはそうした彼の様子を見て、言った。


「先輩、腕が振るえていますけれど、どうしたのですか?」


「ああ、これか。これは気にしなくていいよ。ただ、封印されているものが暴れそうになっているだけだから。さ、準備はできたようだね? では行こうか!」


 こうして、彼らは町へと移動し、現在はいくつものビルとビルとの間につくられた、太陽の光が届かず、じめじめとした路地裏にいた。ベルシアは手に箒を握っていた。アーサーは言った。


「さ、魔法使いにはいくつかの仕事がある。これもそのうちの一つ、つまり人にあだなすような怪異を滅ぼすことだ。ここは人が多いから、その分怨み辛みも多い。そら、さっそくいたぞ。あの影だ」


「了解です」とベルシアは箒を構えた。彼女から数メートル離れた場所に、黒い、人の形をした影のようなものがあった。それはもやのようであり、はっきりとした形をとらえることはできなかった。そのもやは低く、おぞましい声でこうつぶやいていた。


「おのれ……おのれ……転売め……市場独占するな……物を高く売りつけるな……転売ヤー滅びろ……」


「あれは最近になって表れた、最新の怪異だ。その名も『転売ヤー憎い怪異』市場で売られたものを、他の人が買う余地がないほどに、大量に買い付けてはネットなどで法外な値段で高く売りつける人物たち、通称『転売ヤー』への恨みが具現化したものだ。さ、君の実力を見せてもらおうか。ま、雑魚だからそう気張らなくていいぞ」


「なんですか、そのふざけた怪異は……私の国に、そんなものはなかったわよ。まあ、いいでしょう! そこの怪異! こちらを向きなさい。このベルシア・リィンスタが退治してやるわ!」


「何……? お前も……転売ヤーか……滅びろ、滅びろ、転売ヤー死ね……」


「問答無用!」ベルシアは穂先を怪異へと向けると、叫んだ。


「エンジンフルスロットル! 我が愛箒『クルセイダー』起動! 魔力装填──最大出力!」


 箒の先端からは、すさまじいほどの魔力が発生し、同時に眩しい光を放っていた。アーサーは言った。


「おい、そんなでかいのをここで放つ必要はないだろう」


「くらいなさい! これこそが、私の全力! 必殺『スターダストキャノン』!」


 彼女の箒の穂先から、白色の、すさまじい光線が放たれた。それは轟音と衝撃、閃光を生み出し、路地裏を明るく照らした。その攻撃が終わると、あたりは巻き上げられた塵がもうもうと舞っていた。その中で、ベルシアは笑顔を浮かべながら言った。


「どうですか? この私の愛箒『クルセイダー』の性能は! 超魔力エンジンを前後に搭載することによって、高速移動できるだけではなく、このように強力な攻撃を放つことができるように改造してあるのです!」

「おい、あの程度ならもっと小さい威力の攻撃でもいいんだぞ?」


「それはできません」とベルシアは答えた。「私のモットーは『常に全力全開』あのような雑魚でも、手加減はしません!」


「なるほど、それなら仕方がないな! よし、あと4体は倒してもらうぞ。この町には、ああいうのが結構いるんだ。人のマイナスの感情を吸い取って、強化する前に倒さないと大変なことになるからな」


「了解です! 私の力、見せつけてやります!」


 こうして、この後、町の路地裏ではあちこちでいくつもの光の柱が登った。アーサーは言った。


「これで4体目だ。次で最後になるな。5体目は……よし、ちょうどあそこにいるぞ……」


 彼の腕はガクガクと震えており、顔も汗を流して、真っ青だった。彼は震える腕をもう片方の腕で押さえつけていた。ベルシアは言った。


「大丈夫なのですか? 先輩、様子がおかしいです」


「何、問題ないさ……そう、問題は無い……ああ、問題ない……さ、俺の事は気にしないで続けてくれ」


「はあ、そう言うのならば続けますが……あ、ちょうどあそこに怪異がいますね。とっととぶっ飛ばしましょう!」


 とベルシアはこれまでと同じように、強力な光線を怪異へと放った。しかし、怪異は片手を突き出し、ベルシアの攻撃を受け止め、そのまま後方へと受け流した。ベルシアはあっけにとられた様子だった。


「馬鹿な、私の最大火力が通じないだと……?」


「無駄だ、無駄である」とその怪異は言った。その姿は、今日、彼女がこれまでに屠ってきたようなものの姿とは違い、もやのように姿かたちがはっきりしておらず、それどころか人間としての姿を取っていた。


「何よ? アンタ!」


「私か? 私は貴様らが言うところの怪異だ」とそれは答えた。「小娘よ、私には崇高なる使命がある。その邪魔をするな。引き下がるというのならば、見逃してやろう」


「ふん、断るわ! 何が『邪魔するな』? 『見逃してやろう』? すでに勝ったつもりなのかしら? 気にくわないわね。さっきの攻撃を対処したくらいで、いい気にならないで! 見せてあげるわ! 『流れ星』という異名の由来を! さあ、いくわよ。『クルセイダー』!」


 ベルシアが箒にまたがると、箒は唸り声をあげ、すさまじい速度で宙を駆けた。彼女と箒は一筋の光となって、路地裏を縦横無尽に飛びまわり始めた。怪異はそうした彼女の様子をとらえようとして、体を素早く振り向かせたり、頭の向きを変えたりしていた。怪異は唸り声をあげた。


「うぬう、ここまで早いと捕えきれんな……」


 こうしている間に、これまで用心していた怪異に、決定的な隙が出来上がった。箒の乗り手はその隙を見逃さず、攻撃へと転じた。彼女はこれまで以上の速度で、怪異へと向かっていった。しかし、怪異は箒の柄を握りしめ、両足で地面を削りながら数メートルほど後退し、とうとうその突撃を受け止めた。


「何だと……私の攻撃を受け止めた? あり得ない!」とベルシアは後退し、怪異に指さした。「何者なのですか? 正体を名乗りなさい!」


「正体か、いいだろう! 私は非モテ達の、『リア充どもイチャイチャしてんじゃねーよ、ああチクショウ、リア充が憎い!』的な感情から生まれた怪異、その名も『リア充滅びろ、爆散しろ怪異』だ!」


「何ですかそれは!」とベルシアは叫んだ。「さっきから、何なんですか! 最初の『転売ヤー憎い怪異』から始まって、『サビ残辛い怪異』『満員電車嫌い怪異』『禿るのヤダ怪異』とかいうふざけた感情から生まれた、ふざけた名前の怪異は! もっとこう、吸血鬼(ヴァンパイヤ)とか、死体(ゾンビ)とか、悪妖精(ゴブリン)とか、マトモな怪異はいないのですか!」


「ふむ……」と怪異は言った。「そこな金髪、彼女はなぜそんなに怒っているのだ?」


「さあ?」とアーサーは答えた。彼らは首を傾げた。


「まあいい。ともかく、私には使命があるのだ。……ところで、金髪、お前はあの銀髪と恋仲なのか?」


「いや、違うな。彼女は俺の家でホームステイをしているんだ」


「何だと? つまり、貴様は女子と一つ屋根の下で過ごしているというのか。ならば、貴様も抹殺対象だ! リア充爆散! リア充滅びろ! 私はこの世のリア充すべてを抹殺しなくてはならないのだ!」


 と怪異は素早い動きで、アーサーへと襲い掛かった。彼はその攻撃を腕で防いだが、2、3歩後ろに下がった。


「先輩! あなたの相手は私ですよ!」とベルシアは叫んだ。


「女、俺は紳士だ。お前には手を出さん。俺の標的はそこのリア充のみだ! ええい! このイケメンめ、このモテ男め! ここでメタクソにして女の子に永劫嫌われるようにしてやる! 我が真の姿を見せてやろう!」


 怪異の姿は人の形から数倍膨れ上がり、3メートルほどの大きさ、鋭い角や牙を生やし、目は蛇のように細いものへと変化していった。その姿は、いわゆる鬼そのものであった。ベルシアはそうした姿を見て、たじろいだ。


(何というすさまじい怨念。名前や動機こそはふざけているけど、その力はそこらの悪魔を超えるよう。侮っていたようね、日本の怪異は大体ショボいと聞いていたけれど、一部にはこんな強力な怪異もいるとは思わなかった。この私の最大の攻撃を受けてもピンピンしているということは、私にはもうやつを倒す手段がないということ。ここは逃げるしかないわね。けれど、あの怪異はそれを許してくれるかしら? いえ、無傷のまま逃げ切るのは難しいかしら)


「先輩、ここは下がりましょう」


 とベルシアは怪異を睨みつけながら言った。彼女の言葉に対する答えは無かった。彼女がちらりと振り向いてみると、アーサーは片膝をつき、全身を震わせていた。彼の額からはたくさんの脂汗が流れ、顔は真っ青になっており、うめき声を漏らしながら片腕をもう片方の手で押さえつけていた。彼女は叫んだ。


「どうしたんですか? 先輩! 大丈夫ですか?」


「いや、駄目だ……」とアーサーは答えた。


「この封印が解けそうだ……封印していた禁忌の魔法が……俺の意志が暴れている……封印が解ける……! 逃げろ……ベルシア……この封印が解けたら……俺は自分を制御できなくなる……どこか、俺の目の届かないところに逃げろ……このままでは、ベルシア……君を襲ってしまいそうだ……」


「一つ聞きます。先輩、どのような魔法なのかはわかりませんが、封印しているというのならば、さぞや強力な魔法なのでしょうね? あの怪異を倒せるぐらいに」


「ああ、もちろんだ……だが、ベルシア……この魔法には触媒が必要なんだ……生贄が必要なんだ……だから、このままだと、君の大切なものが失われてしまう……逃げろ……俺の目の届かないところに……俺の姿が見えないところに……逃げてくれ……」


「分かりました。では、さっさとその封印を解除してください」


「何……?」とアーサーはポカンとした顔を浮かべた。「それはいけない……今開放すると……君が……」


「構いません。お忘れですか? 先輩、我々シャンバラ魔法学院の校則を。『魔法とは自由なり。自由とは人間なり。人間とは魔法なり。魔法を使うことにためらいを覚えるべからず』それとも、こちらの方が良いですか? 魔法使いの信念──『魔法とは友を守護し、敵を打ち倒す手段なり』さあ、思い出してください。我々魔法使いは、敵を打ち倒すためならば、手段を問わない種族ですよ。我々魔法使いは、目的を達成するためならば、どのような困難であろうとも乗り越える種族ですよ。さあ、さっさとその封印を解いてください。私の大切なものが失われてしまう? ええ、大いに結構ですよ。あの怪異を打ち倒せるというのならば、私は喜んで身を捧げましょう。ここであの怪異を野放しにしてしまったら、この町中の人々が死んでしまいます。さあ、さっさとやりなさい!」


「まさか、そんな古臭い言葉を持ってくるとはな……そうだ、その言葉を実行できてこそ、素晴らしい魔法使いだ……だが、今時の魔法使いはそんなことはできない……皆、他者の為に自らを犠牲に捧げるようなことはできない……しかし、君は違うようだ……ベルシア。一つ聞こう……君が言った通り、あの怪異が持つ力はすさまじい……あれをこの場で倒さないと、あれは町に出て憎い人々を虐殺するだろう……君は、顔も知らぬ他人のために、犠牲を捧げることができるのか? 君は、あの怪異を倒すために、大切なものを失うことができるのか?」


「できます」とベルシアはきっぱりと答えた。


 アーサーは笑みを浮かべた。


「よろしい。ベルシア。君は立派な魔法使いだ。では、封印を解く……覚悟をしてくれ……」


「ええ、いいでしょう」


 アーサーは立ち上がり、叫んだ。


消失禁呪(エイジマジック)起動──触媒をここに!」


 ベルシアの地面に魔法陣が現れた。ベルシアは覚悟を決した表情で、目を閉じた。魔法陣は彼女が目を閉じていてもわかるぐらいの、強い光を放った。やがて、それが収まり、しばらくたつと彼女は恐る恐ると言った様子で目を開くと、彼女は体を手のひらでぺたぺたと触り、その調子を確かめた。彼女の体にはこれといった変化は無かった。彼女は言った。


「どこにも変化がない? 先輩、これはどういう……」


 彼女はアーサーのいる後ろへと振り向くと、体を硬直させた。アーサーの片手には、一枚の白いパンツが握りしめられていた。彼はそのパンツを顔に近づけ「クンカクンカ! ああ、いい匂いだ!」と匂いを嗅いだり、顔に擦り付けて「この脱ぎたてほやほやのぬくもり! 良い! とても良い! シミ一つない純白! 人肌のぬくもり! 匂い! すべてが満点だ! おお、来た来た……みなぎってきたぞ!」


 アーサーはパンツを頭に被ると、両腕を広げ、天を見上げた。


「これこそが我が魔法! パンツを触媒にして発動するパンツァーマジック! パンツァーマジック奥義! 『パンツァーフォー』!」


 アーサーの全身から、白色の眩い光線が発された。怪異はその光線を拳で迎え撃ったが、あっという間に押し負け、光に飲まれた。怪異は「馬鹿な……強すぎる……この私が敗北するなどあり得ない……全てのリア充は滅びろ!」という言葉と、断末魔を残して閃光の中で消え去った。


 閃光が収まり、衝撃によって発生した風が吹き荒れる中、ベルシアは今、自分が履いているパンツが無くなっているということに気づいた。彼女は赤面し、スカートを押さえながら、アーサーへと言った。


「先輩……この魔法はどういう魔法なのですか?」


「ん? 見ての通りだ。パンツを触媒にして発動される魔法だ。遥か昔に失われた魔法だったんだが、俺が現代に蘇らせたんだ。その力は、触媒となるパンツの質によって変化する。特に今のような汚れ一つなく、脱ぎたてホヤホヤでしか味わえないぬくもりと、匂いの良いパンツは満点だ」


「封印というのはどういうものだったのですか?」


「いやあ、我ながらこの魔法は変態的だということは自覚していてな! せっかくだから、後輩の前でかっこ良いところを見せつけようと思って、封印していたんだが、君が戦うときにチラチラと見えるパンツを見ていると、我慢できなくなったんだ。いやあ、俺らしくなかったな! やはり、パンツァーマジックは最高だ!」


「大切なものを失う覚悟とはどういうことなのですか?」


「それはもちろん、パンツだが?」


「なるほど、わかりました」


 とベルシアは先ほどより赤面しながら、体を震わせると、魔箒『クルセイダー』の穂先をアーサーへと向けた。彼女は叫んだ。


「このド変態──! 『スターダストキャノン』!」


 その日、路地裏で彼女が放った6回目の光は、今までの光と比べると何倍も強かった。そして、その光が放たれると同時に「パンツァー!」という断末魔が叫ばれた。




 マジカル☆パンツァー 第1話【完】



こんな感じのノリで……一話なので、緩やかな感じです。次回から飛ばしていきます。


次話は今月中に投稿します。

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