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5話

「訓練の成果を試す時が来た。我らの主人公を救うのだ」



 号令とともにすべてのミリタリー系美少女が出発する。

 堂々たる進軍であった。

 戦車、戦車、あと戦車。

 ロボットパーツを装着した美少女が空を舞い、随伴歩兵たちは各々の銃を抱え小走りで進軍し、白馬に乗りマスケット銃を装備した赤い軍服の美少女があちこちにせわしなく伝令を伝えてまわる。


 ちなみに総勢二十名。

 隊列はそこまで長くもなく、伝令役が必要な距離は全然ないが、戦車が三台もいるせいで妙な重厚感があった。


 主人公を救う。

 その一心で、彼女たちは決起していた。


 ……美少女ならば、ヒロイン(ぢから)で勝負すべきなのかもしれない。

 それはきっと誰しもがわかっていた。


 だけれど彼女らはマイノリティだった。

 妹という巨大な敵に、正攻法では勝てない。


 だから彼女たちは化粧品の代わりに泥で顔をメイクする。

 スクールバッグの代わりに火器を持ち歩く。

 かわいいチャームはつけないが、予備弾倉をぶらさげて、かわいさも魅力もすべて弾丸につぎ込んで、狙い撃つのは彼のハートではなく敵の心臓だ。


 砂塵を巻き上げながら進軍していく。

 美少女が二十人も集まってなんと泥臭いことか。


 だが、これこそがミリタリー。

 大衆に広く評価される美少女たちにはない骨太さ。かわいさとか魅力とかそんなあやふやなものではなく、絆とか仲良しとかそういう綺麗なものでもなくって――

 ――火力とチームワーク。

 その二点において他の追随を許さない、純粋戦闘能力の高い美少女たち。



「全体、止まれ!」



 上官系美少女の号令で、すべてのミリタリー系乙女たちが止まる。

 正面、砂塵の向こうに見えるのは、学園と住宅街が名状しがたい複雑さで隣接し、時に融合しながら建っている街だ。


 正面に見えるのは校門のような金属製の門扉。

 アレを超えれば――彼が襲撃された場所になる。


 とっくに他の場所に移されているだろう。

 そして今彼がいる場所はわからない。

 だけれど、かまわなかった。



「我らの標的はあの街である」



 上官系美少女は、部下たちに告げた。

 ざわめきの一つも起こらない。訓練が活きている。



「我らの主人公は、ヤンデレ妹どもに奪われた。……諸君らも、『妹』の強さは知っていると思う。いくつもの物語でメインヒロインをつとめあげ、なおかつどの物語にも当たり前のような顔をしてサブヒロインとしてちゃっかり存在している、世界三大ヒロイン属性のうち一つだ」



 敵の強大さを聞かされ、しかしすくむ者はいなかった。

 全員がとっくに覚悟しているのだ。



「いいか諸君、どうにも世の男性は、両親があまり家におらず、同居人は妹だけという状況が好きなようだ」



 そこで軽い笑いが起こる。

 上官系美少女も笑い――



「まあ、たしかに、男ならばそういう環境がいいのかもしれん。朝は四時起き、毎日訓練、キチッと決まった時間に食事をとり、夜は早々に就寝、外出には許可が必要でいかなる場合も門限を厳守というのは、正直あまり楽しくないからな。私もイヤだ」



 また、笑い。

 上官系美少女はこれ見よがしなため息をつき――



「つまるところ、我らと妹とでは、最初から勝負にさえなっていないということだ。双方のヒロイン力にはすさまじい差があり、連中には我らにない様々な補正があるだろう。我らの弾丸はまず当たらず、当たったとしても妹どもは一命をとりとめ、意識不明になってもお兄ちゃんのキスで目覚めるのだ。まったく理不尽で奇跡的で感動的なことだな」



 肩をすくめる。

 それから――



「諸君、感動をブチ壊せ」



 ジャキッ。

 呼応するように、全員が銃を立て、ある者は安全装置を外し、ある者は砲弾を装填する。



「弾丸が当たらないなら絶対に当たる位置で撃て。一命をとりとめるかもしれないなら頭と腹に二発ずつ撃ち込め。もとより我らはミリタリー。土煙と硝煙と、冷酷な現実を体現するモノである。いいか、奇跡はいらない。我らは奇跡を否定する現実。妹という堅牢なる属性へ一穴を穿つ鉄槌である」



 上官系少女も突撃銃をかまえる。

 そして――



「かかれ! 我らの主人公が見つかるまで、妹どもを皆殺しにせよ!」



 ――進軍開始。

 妹の街に弾丸と硝煙が降り注いだ。

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