友人がTSしたんだけどボクのこと勘違いしているようだ
高校に通うためにいつもの電車に乗っているけれど、ボクは今ものすごいドキドキしている。
今は日曜日の午後のため、朝の通勤ラッシュのようにひとでごった返していないが、ちらほらと乗客の姿があった。
初めてはいたスカートでスースーする足元をもじもじさせながら、周りの視線が全部自分に向いているんじゃないかと気になってしまう。
でも、そんなことはないよなと自分に言い聞かせていると、不意に視線を感じた。
つややかな黒髪をのばしたボクと同じぐらいの高校生の女子だった。
ただその格好は、男物の服をきていてダボダボだったのが気になった。
(なんだ、まさかバレたのか……!?)
ボクは内心冷や汗を流しながら、女子の視線が外れるのを待った。
知り合いではなさそうだし、ちょっとこっちを見ていただけだろうと思っていた。
しかし、その女子はあろうことかこっちに近づいてきた。
「あのさ、もしかしてオマエ篠塚じゃね?」
「っ!?」
「お、その反応アタリか」
「ボ、ボクは……」
「ああ、わりいわりい、オレだよオレ。つってもわからねえよな、こんな格好になっちまったし」
話しかけてきた女子は自分の服をつまみながら苦笑していた。
「ご、ごめん、初めてだよね?」
(どういうことだ、ボクの正体を見破って話しかけてきたんじゃないのか)
「相原だよ、同じクラスの」
「え……、いやだって、君女子だろ、相原は男で」
「いや、なんか急に女になっちまってさぁ」
ハハハと陽気な笑い声を上げていたが、ボクの頭は混乱していた。
相原は小学校からの友人で、やんちゃなガキ大将といった感じの男子だった。
「おまえもなんだろ」
相原はそういいながら、ボクの姿をみた。ボクは現在、裾がひろがったデザインでフリルがついた可愛らしいワンピースを着ていた。この服は体型を隠しやすく、なおかつボクが着てみたかったかわいい服だった。
「おまえ、なかなかかわいい格好してるな。オレ、昨日女になったばっかりでさ、相談できるような女友達もいないし困ってたんだよ。この後、暇だったらちょっとつきあってくれよ」
「ちょ、ちょっと、まってよ。その前に、君が相原だってのが信じられないんだけど」
「まぁ、そうだよなあ。オレ自身も信じらんねーし。じゃあ、小学校の頃のことでも話してみるか。おまえんちの裏にでっかいハチの巣ができたことあったよな」
「まあ、うん」
「そのとき、オレがハチの巣を叩き落したら怒ったハチがスゲーでてきて慌てて逃げたけど、一箇所刺されてオレが痛がってたら、オマエがチンコだしてションベンを……」
「ストーップ!! わかったから」
若い女の子が電車の中でチンコとか言い出し、近くにいたサラリーマンがこちらをチラリと見てきていた。
「なんだよ、話はまだ」
「わかったから、お前は相原だ。間違いない」
顔を赤くしながら相原の言葉をさえぎった。
これ以上こいつを放っておくと何を言い出すかわからない。こいつの大好きな単語はちん○とか、うん○とかで、小学生かといいたくなる。
「えっと、次の駅なら、丁度駅ビルにいろいろあるしいってみる?」
「おっけ~、まかせるよ」
満面の笑みを浮かべる相原にボクは内心でため息をはいた。
相原といっしょに電車を降りて、駅ビルにはいった。
ここなら女性向けの服を売っている店もたくさんあるため、いろいろ揃えられるだろう。
「さて、どの店がいいかな。おまえ、その服はどこでかったんだ」
「これは通販だよ」
「お、なるほど、その手があったか。女用の服屋なんていったことねえからさ、正直ちょっとびびってる」
それはボクも一緒だ。服屋にボク一人で入ってたら確実に変な目で見られてただろう。
「たのむぜ、先輩」
相原がバシバシと背中を叩いてきたが、女になったせいか全然威力がなかった。男のときにやられたときは、ちょっと息が詰まるぐらいの威力があったのに。
というか、先輩呼ばわりとか、コイツ絶対に勘違いしてる。
「えっと、じゃあ、ここかな」
ボクが指差した先は子供から老人まで手軽に入って安く買える量販品店だった。
「ユニシロか、まあ、ここなら男のときにもきたことあるし敷居は低いな」
(はい、ボクもそう思って選びました)
「んじゃ、これとこれあたりが無難かな」
女性服売り場にいくと、相原はすぐにジーンズやシャツなどを選んで試着室に向かった。
こういうときでも、即決即断なところは相原らしかった。
「う~ん……、なあ、篠塚、ちょっときてくれ」
試着室の目隠し用のカーテン越しに相原の声が聞こえてきた。
「どうしたの?」
「いや、なんか着方がわかんなくてさ」
「それじゃ、入るよ」
ボクはカーテンを端からそっと試着室の中に入った。
「げっ、オマエ、それ」
中にはいったボクの目の前には、半裸になった相原がいた。
いままでだぼだぼの服を着ていたせいで気づかなかったが、けっこう胸が大きくボクは顔が熱くなるのを感じた。
「シャツきてみたんだけど、なんか、胸がこすれるし、圧迫感があるしできついんだよな。どうすればいいかな?」
相原はボクの様子に気づいていないのか、まるで見せ付けるように胸を手で持ち上げて見せた。
(ああ、やわらかそうだなぁ)
初めて見た女の人のおっぱいを見ながら、ぼんやりとそんな感想を抱いていた。
「相原? どうした?」
「うひゅぅ」
急に声をかけられてボクの口から変な声がでた。
「もしかして、おまえ興奮してるのか? オレも最初は女になっていろいろ試してみたけど、不思議と変な気持ちにならねーんだわ。女になったっていっても、違いあるんだな~」
「えっと、その」
「なんだよ、どうせなら触ってみるか?」
相原がからかうような笑みを浮かべながらボクに近づいてきた。
「ご、ごめん!!」
ボクは急いで試着室から、前かがみになりながら脱出した。
その後男子トイレの個室で煩悩退散と唱え続けていたら、スマートフォンに相原から電話がかかってきて、もう一度、ユニシロに戻った。
「悪かったって、なんかおまえの反応がおもしろくてさぁ」
店につくと、丁度会計をすませたようで、買い物袋をもった相原が謝ってきた。
「だってさ、女になったら、男を誘惑とかやってみたいじゃん」
「ま、まあ、わからなくもないけど」
「だろ、だろ」
我が意を得たとばかりに得意げな顔をする相原をみていると、またさっきみた光景が浮かんでそうだった。
(煩悩退散、煩悩退散……)
それから、さらにランジェリーショップなどを巡ることになり、煩悩退散と頭の中で唱え続けることになり、買い物が終わる頃にはお坊さんにでもなれそうだった。
「おし、買った買った。これでとりあえず一安心だな」
買い物が終わると、既に外は夕暮れ時になっていた。
相原は両手に荷物を持ちながら大きく背伸びをしようとした。
「うおっと、くっそ、力も落ちてんなー」
大量の荷物のせいでバランスを崩しそうになったところを後ろから支えた。
その体は華奢でやっぱり女の子なんだなと感じた。
「荷物もつよ」
「悪いな。さんきゅー」
相原から荷物を半分受け取って、帰りの電車に乗った。
座席に隣り合って座っていると、不意に肩に重さを感じた。
視線を向けると、相原が居眠りしてボクの肩によりかかって頭を乗せていた。
間近で相原の顔を見ると、閉じられた瞳のまつ毛は長く、やわらかそうな桜色に色づいた唇から寝息がもれていた。
もしも、これが相原じゃなくて、そしてボクも今の格好じゃなければ、きっと幸せな気分に浸れたのだろうなと複雑な気分になった。
電車が駅についた頃には、あたりはすっかり暗くなっていて、女子一人で夜道を歩かせるわけにはいかず、家まで送っていくことにした。
「悪いな、ホント。家まで荷物もってきてくれるなんて」
「いいよ、結構量あったし」
「今度、この埋め合わせはするからな。あ、そうだ、オッパイひともみでどうだ?」
「ば、ばかっ!!」
「はははっ、じゃあ、また学校でな」
ボクをからかって満足したのか、相原は笑顔で家の中に入っていった。
「はぁ、人の気もしらないで」
ため息を吐きながら家に着いた。
この時間はまだ両親は帰っていないので、家の中は真っ暗だった。
ここで両親が帰っていたら、今の自分の姿を見られないように忍び足にならなければいけなかったので、ホッと胸をなでおろした。
そういえば、相原は両親になんて説明したんだろかと気になったが、おじさんとおばさんを性格からしておもしろがってそうな気がした。
ボクは自分の部屋に入ると、服を脱いで着替え始めた。
「あー、やっぱ、ウィッグは蒸れるなぁ」
被っていたウィッグをはずすと、下から汗で湿った髪が出てきた。
服も男物の部屋着にかえたら、いままでスカートをはいてた分、すごく安心感を感じた。
「というか、どうしよう。ボクはただの女装だったのに、絶対アイツ勘違いしているよな。でも、女装してたなんていえるわけないし」
これからどうすればいいんだとボクは頭を抱えると同時に、なんでアイツは悩んでないんだとツッコミをいれたくなった。
思いついたのでとりあえず短編で書いてみました。続きは未定。